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二章 桃色は爛漫の恋をする
桃色は爛漫の恋をする 八話
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リズは浮き立つ気持ちのまま王都を歩いていた。
オリーブ色ががった茶髪は淡く優しいピンク色。ふわふわ広がる様はチェリーの花のよう。
それに、茶色かったワンピースも鮮烈なピンク色になっている。こちらはピンクベリーのようだ。
ワンピースを染める予定はなかったが。
『魔道具を染めるよりはるかに楽ですし、花もたくさんありますから』
そう言って、花染め屋がおまけしてくれたのだ。
髪の色も、一番リズに似合う色にしてくれた。それが髪を染める条件だった。
『かしこまりました。ですが、この中で一番リズさんに似合う色で染めさせて下さい』
花染め屋が選んだのは、リズのオリーブ色の目と温かみのある色の肌に合う、淡いピンク色だった。
そして全体を引き締めるため、茶色いワンピースをピンクベリー色に染めた。
花染め屋も満足そうだったなと、リズは先ほどのやり取りを思い出す。
『よくお似合いです』
鏡を見てリズは感動した。
(まるで生まれ変わったみたい!)
『花染め屋さん!とても素敵です!本当にありがとうございます!』
何度も礼を言うリズに、花染め屋はこちらこそ新しい楽しみを教えてもらったと頭を下げた。
『私が髪や目の色を変えるのは、そうしないと目立ち過ぎて危険だったからです。ですから、髪染めに良い気持ちはなかったのですが……。髪の色を変えるのも楽しいですね。私も今度、気分に合わせた髪色にしてみます。
……ふふ。お見せしたら、どんな反応をして下さるかしら』
後半は独り言のようだったが、リズは思わず花染め屋の手を握った。
花染め屋の過去も事情も名前さえ知らないが、寄りそいたい。そしてはげましたかったのだ。
『きっとお似合いです。その時はぜひ、うちの店に寄って下さいね』
『ええ。必ず』
花染め屋は嬉しそうに笑って頷いた。
しかし、リズはあることに気づく。
『うちの店は、デートにはあまり向いてないかもですけど』
花染め屋がまた目を見開いた。
『え?私、デートのお相手なんて……』
『そうなんですか?染めた髪をみせたい人がいるんですよね?きっと、好きな人のことかなと……』
(余計なことを言ってしまったかしら)
リズの心配をよそに、花染め屋はほんのり頬を染めて照れ笑いをこぼした。
『うふふ。……では、いつかデートをした時にも寄らせて頂きますね』
『はい!』
リズは弾む気持ちのまま頷いたのだった。
(いつか、花染め屋さんにアイバーさんを紹介できたら嬉しいな)
明るい未来を浮かべながら、リズはアイバーを探す。
まずは【水精硝子工房】だ。
「こんにちは!【小人のお気に入り屋】のリズです!」
「え?リズさん?!えらい変わったなあ」
顔馴染みの職人たちがリズの姿に目をむいた。リズはにっこり微笑む。
「はい!旅の髪結い屋さんに染めてもらったんです。似合いますか?」
「おう!さらに別嬪さんになったな!」
「リズさん素敵です!春の女神様みたい!」
「可愛いぜ!俺がもう十年若かったらなあ」
「……うん……似合うよ」
「……あ、ああ。似合う。ピンクか……。いい色だな」
何人かが微妙な反応だったが、概ね好評だ。
リズは嬉しくて仕方ない。早くアイバーに会いたいが、ここではなくタイニーツリー通りにいると言う。どうやら馴染みの店に用があるらしい。
微妙な反応をしたうちの一人が「忙しいから、会うのは明日以降の方がいい」と小声で告げた。大事な商談でもするのだろうか?一部の職人しか知らないのかもしれない。
「ありがとうございます。邪魔しないよう気をつけます」
リズは晴れやかに御礼を言って、タイニーツリー通りに向かった。
振り返らなかったので、心配そうな眼差しには気づかないままだった。
◆◆◆◆◆
タイニーツリー通りは、工房がある地区より王都の中心に近い。近づくほど、道や窓に花や果物の飾りが増えていく。
(ああ、春の花実祭りの。そういえば明後日からだった)
花実祭りは、春と秋に行われる祭りだ。
いま飾られているのはほとんどが造花だが、祭礼がはじまると生花と生の果物が加わる。花と果実の恵みに感謝し、次の恵みを祈願する。祭礼は三日三晩続き、いつも以上に多くの人で賑わうのだ。
(だから、ピンクベリージャムの生産を急いだんだった。今日は休ませてもらったし、明日は頑張らなくちゃ)
けれどもしアイバーと結ばれたなら、祭礼の間のどこかで休みたい。夫婦や恋人同士は、互いを同じ花で飾って歩くのが習わしだ。
想像だけで真っ赤になった頃、タイニーツリー通りに着いた。
すでに通りのいたるところに、花と果実が飾られている。見慣れた通りが特別な彩りに華やいでいる。
リズは目を細めたが、耳障りな声に顔をしかめた。
「この売女が!離れなさいよ!」
(この声、まさか)
聞き覚えのある声。リズの店の方からした。急いで声のした方に進むと、人だかりの真ん中で叫んでいる女がいた。
オリーブ色ががった茶髪は淡く優しいピンク色。ふわふわ広がる様はチェリーの花のよう。
それに、茶色かったワンピースも鮮烈なピンク色になっている。こちらはピンクベリーのようだ。
ワンピースを染める予定はなかったが。
『魔道具を染めるよりはるかに楽ですし、花もたくさんありますから』
そう言って、花染め屋がおまけしてくれたのだ。
髪の色も、一番リズに似合う色にしてくれた。それが髪を染める条件だった。
『かしこまりました。ですが、この中で一番リズさんに似合う色で染めさせて下さい』
花染め屋が選んだのは、リズのオリーブ色の目と温かみのある色の肌に合う、淡いピンク色だった。
そして全体を引き締めるため、茶色いワンピースをピンクベリー色に染めた。
花染め屋も満足そうだったなと、リズは先ほどのやり取りを思い出す。
『よくお似合いです』
鏡を見てリズは感動した。
(まるで生まれ変わったみたい!)
『花染め屋さん!とても素敵です!本当にありがとうございます!』
何度も礼を言うリズに、花染め屋はこちらこそ新しい楽しみを教えてもらったと頭を下げた。
『私が髪や目の色を変えるのは、そうしないと目立ち過ぎて危険だったからです。ですから、髪染めに良い気持ちはなかったのですが……。髪の色を変えるのも楽しいですね。私も今度、気分に合わせた髪色にしてみます。
……ふふ。お見せしたら、どんな反応をして下さるかしら』
後半は独り言のようだったが、リズは思わず花染め屋の手を握った。
花染め屋の過去も事情も名前さえ知らないが、寄りそいたい。そしてはげましたかったのだ。
『きっとお似合いです。その時はぜひ、うちの店に寄って下さいね』
『ええ。必ず』
花染め屋は嬉しそうに笑って頷いた。
しかし、リズはあることに気づく。
『うちの店は、デートにはあまり向いてないかもですけど』
花染め屋がまた目を見開いた。
『え?私、デートのお相手なんて……』
『そうなんですか?染めた髪をみせたい人がいるんですよね?きっと、好きな人のことかなと……』
(余計なことを言ってしまったかしら)
リズの心配をよそに、花染め屋はほんのり頬を染めて照れ笑いをこぼした。
『うふふ。……では、いつかデートをした時にも寄らせて頂きますね』
『はい!』
リズは弾む気持ちのまま頷いたのだった。
(いつか、花染め屋さんにアイバーさんを紹介できたら嬉しいな)
明るい未来を浮かべながら、リズはアイバーを探す。
まずは【水精硝子工房】だ。
「こんにちは!【小人のお気に入り屋】のリズです!」
「え?リズさん?!えらい変わったなあ」
顔馴染みの職人たちがリズの姿に目をむいた。リズはにっこり微笑む。
「はい!旅の髪結い屋さんに染めてもらったんです。似合いますか?」
「おう!さらに別嬪さんになったな!」
「リズさん素敵です!春の女神様みたい!」
「可愛いぜ!俺がもう十年若かったらなあ」
「……うん……似合うよ」
「……あ、ああ。似合う。ピンクか……。いい色だな」
何人かが微妙な反応だったが、概ね好評だ。
リズは嬉しくて仕方ない。早くアイバーに会いたいが、ここではなくタイニーツリー通りにいると言う。どうやら馴染みの店に用があるらしい。
微妙な反応をしたうちの一人が「忙しいから、会うのは明日以降の方がいい」と小声で告げた。大事な商談でもするのだろうか?一部の職人しか知らないのかもしれない。
「ありがとうございます。邪魔しないよう気をつけます」
リズは晴れやかに御礼を言って、タイニーツリー通りに向かった。
振り返らなかったので、心配そうな眼差しには気づかないままだった。
◆◆◆◆◆
タイニーツリー通りは、工房がある地区より王都の中心に近い。近づくほど、道や窓に花や果物の飾りが増えていく。
(ああ、春の花実祭りの。そういえば明後日からだった)
花実祭りは、春と秋に行われる祭りだ。
いま飾られているのはほとんどが造花だが、祭礼がはじまると生花と生の果物が加わる。花と果実の恵みに感謝し、次の恵みを祈願する。祭礼は三日三晩続き、いつも以上に多くの人で賑わうのだ。
(だから、ピンクベリージャムの生産を急いだんだった。今日は休ませてもらったし、明日は頑張らなくちゃ)
けれどもしアイバーと結ばれたなら、祭礼の間のどこかで休みたい。夫婦や恋人同士は、互いを同じ花で飾って歩くのが習わしだ。
想像だけで真っ赤になった頃、タイニーツリー通りに着いた。
すでに通りのいたるところに、花と果実が飾られている。見慣れた通りが特別な彩りに華やいでいる。
リズは目を細めたが、耳障りな声に顔をしかめた。
「この売女が!離れなさいよ!」
(この声、まさか)
聞き覚えのある声。リズの店の方からした。急いで声のした方に進むと、人だかりの真ん中で叫んでいる女がいた。
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