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一章 春を告げる黄金
春を告げる黄金 七話
しおりを挟む 一年はどうして結婚を前提に自分と付き合おうと思ったのか。
香は一人思い悩んでいた。
彼からすれば、彼女は妻帯者と不倫しており、断るこそすれ、話を進めるとは道理にそぐわなかった。
てっきり、この見合い話はここいらで幕を閉じると、そう思い込んでいた香だったが、一年の意表を突いた返答に、困惑が頭をもたげた。
母親は、彼女が肯定的な返事を返すことを望んでいたが、返事も何も、それは不可能というものだった。
選択は断るの一択しかない。
何故?
どうして?
しかしながら、問いに対する答えを自力で見つけ出すのは非常に難しく、問題は解かれないまま、放置されるより他なかった。
とはいえ、彼女は女将に何と言って、断りの電話を入れる旨を説明すれば良いのだろうか。
何故このような良い話を蹴るのか。彼女はきっとそう娘を問い質すだろう。
今現在、夕貴と交際している香は、彼以外の相手など考えられないくらい彼に夢中だ。
だから、結婚を前提に一年と付き合うつもりはない。
しかし正直に打ち明けても、強気な母は夕貴ほどの男性とあれども、役不足だと、取り付く島もないのだろう。
香は彼女を相手に、自分一人で太刀打ちできるとは到底思えなかった。
もし、一人玉砕覚悟で踏み切ろうとするものならば、最悪も最悪、さっさと別れるよう、容赦なく言われてしまうかもしれない。
女将と違って気が弱い若女将は、大切なものを天秤にかけることなど、できるはずがなかった。
彼女には味方が必要だった。
母親と肩を並べられるくらいの後ろ盾が。
香が彼に面会したいという一報が入ったとき、夕貴は執務室で業務にあたっていた。
事前に知らされていなかった夕貴は半ば驚きながらも、ここへ通すよう、命じた。
ほどなくして、ノック音に続き、入室を許可されると、仕事着では恥ずかしいのだろうか、洋服を着た香が彼の目前へ現れた。
彼女の表情は緊張から硬かった。
強張りを解すため、夕貴は鞣し革の張られたリクライニングチェアから立ち上がり、微笑みかけた。
「ようこそいらっしゃいました。香さん」
「夕貴さん、急に押し掛けてごめんなさい」
「いえ、全く問題はありません。会いに来てくださって嬉しいです。何か飲まれますか?」
「大丈夫です。あの、お話が」
「・・・お見合いの件でしょうか」
「!ど、どうして・・・!」
「『どうして』とはこちらの台詞です。どうして俺には言ってくださらなかったんですか」
「ご、ごめんなさい・・・。い、言いそびれてしまって・・・」
「始めから断ることもできたのではありませんか?」
「~~~ごめんなさい・・・!母に、夕貴さんとお付き合いしていることを、どうしても言えなくって・・・!」
だから今、それを相談しようとここへ来たのだと、香は言葉を続けようとしたが、遮られてしまった。
「俺はあなたにとって信用の足らない男なんですね」
夕貴の端麗な顔には、幾らかの落胆と怒りが浮き上がっていた。
「そんなことありません!」
「なら、『証明』してください」
「『証明』・・・?」
「服を脱いで、こちらへ座ってください」
夕貴は良質のマホガニー材からできた彼の執務机を指した。
(えっ・・・)
聞き間違いではないかと、香は自らの耳を疑ったが、恋人の真剣な眼差しが、彼女の双眸をまっすぐ射抜いていたため、大いに動揺した。
何故、服を脱いで彼の目の前へ座ることが、夕貴を信頼していることに繋がるのか。
香は理解にすこぶる苦しんだ。
同時に、困惑も大きかった。
紳士の鑑とも言うべき恋人が、そのように大胆な指令を口にすること自体、彼女にとって俄かには信じられないことだった。
「ど、どうしてですか・・・?」
声が緊張のために上ずった。
「信頼しているのであれば、俺の要求に応えられるはずです」
要するに、彼女は正に今、恋人に対する愛情や忠誠心といった真心を試されているのだった。
故に、香は現実を悟ると、震える手を黙ってブラウスへやり、ボタンをゆっくりと外し始めた。
緊張と羞恥が空気を満たす中、薄着になっていく恋人へ、夕貴は静かな視線を注いだ。
遂に、スカートとストッキングも脱いでしまうと、ブラジャーとショーツだけを身に着けた香は、恥ずかしそうに顔を背けた。
「こちらへ」
恥じらいから、香はおずおずと近づくと、執務机へ腰を下ろし、夕貴と間近に対面した。
心臓が、ドキドキと張り裂けそうなほど激しく拍動するのを感じながら、彼女は整った顔立ちの恋人を見上げた。
羞恥と緊張のあまり、呼吸が些か早くなってくる。
「良い眺めです」
夕貴は小さく微笑むと、唇を剝き出た肩へ、手を無防備な脇腹へ滑らせた。
反射的に、身体がビクンと強張った。
「あなたが毎日こんな風にいてくださったら、きっとどんなに退屈でつまらない仕事でも、捗ることでしょう」
耳元で低く囁かれると、既に高い心拍数は否応なく上昇し、忙しい胸の鼓動のために、香は答えることができなかった。
それから、触れるか触れないくらい、夕貴の唇が彼女の唇へもどかしく触れると、次の瞬間にはさっと塞がれ、海よりも深い、情熱的なキスが繰り広げられた。
「ぅん・・・♡♡!」
歓喜ゆえ、心臓は破裂寸前、右肩上がりの体温は、香を内側から溶かしていった。
すると、透明な粘液が、本人の意識の及ばないところで、股の間からとろりと浸み出し、ショーツを密かに濡らし始めた。
「・・・俺と別れて、海瀬さんと付き合うんですか」
夕貴は接吻の猛攻を緩めると、率直に訊いた。
「そんな・・・!」
香は面食らい、言葉が続かなかった。
「どのみち、彼に譲るつもりはありません・・・。あなたは俺のものなんですから」
瞬時に、唇が再び奪われた。
「・・・っ♡♡!」
その後、熱い口づけの最中、秘めた柔らかい部分をショーツ越しにくにゅりとなぞられると、香は機敏に反応した。
「っだめ・・・!」
「何故です?」
「執務室ではいやです・・・。場所を変えてください」
「心配しなくても、誰も入ってきはしませんよ」
「でも・・・っ」
「俺を信じていると、『証明』してください」
「あっ・・・!」
香の驚いたことに、隙を突いた夕貴の指が、下着の内側へするりと滑り込み、とろとろとふやけた蜜芯を触った。
「感心しませんね。一体いつから濡らしていたんです?」
指摘にも似た恥辱的な質問から、香の頬が赤く染まった。
続けて、痴態を仄めかす淫らな媚音が、蠢く指と同時に、艶かしく机上へ響いた。
「あ・・・っ♡♡や・・・あっ♡♡」
快感はすぐさま姿を現したが、自重的な女主人によって封じ込められてしまった。
「だめ、やめて・・・っ♡♡」
「やめません」
「は・・・ん♡♡あ・・・♡♡あぁ・・・♡♡!」
しこりを重点的に擦られると、香は、ビリビリと静電気が通電したような感覚を覚え、体躯が時折机の上で弾んだ。
「机が濡れてしまいます」
夕貴は意地悪く微笑んだ。
「~~~♡♡!」
せめてもの抵抗として、辿り着いてしまわないよう、香は懸命に逆らった。
しかしながら、抵抗は微弱なものに終わり、後戻りのない絶頂へ強制的に押し上げられると、香は悦びの悲鳴を上げた。
「あ、イク・・・♡♡!だめ、イク・・・ッ♡♡!!あ・・・♡♡!あぁッッ・・・♡♡!!・・・ッッ♡♡!」
その後、夕貴は蜜まみれの指を舐め、平静と言った。
「机がベトベトです。汚した責任を取ってもらいましょうか」
言葉尻に狡く告げると、彼は舐めた指を潤沢な蜜祠の中へ押し込んだ。
「あぁッ♡♡!」
「ん。中もとろとろです」
続いて、ふしだらな泥濘へ埋もれた指が内側でゆっくりと擦れ動くと、明示的で卑猥な淫音が共に上がり、雌芯からは余った愛液がどんどん溢れ、優美なマホガニーの執務机を一段と湿らせた。
「あん・・・♡♡!中、だめ・・・っ♡♡!」
「『だめ』じゃありません。『もっと』でしょう?」
「~~っ・・・♡♡!もっと、してぇ・・・っ♡♡!」
「良い子です」
褒美として、香の唇はすかさず夕貴の唇によって塞がれた。
「~~~♡♡!」
さりとて、先刻までの自重はどこへ行ってしまったのだろう?
今では、香は机の上で自ら脚を開き、ふしだらにも、腰を突き出していた。
「んッ♡♡んっ♡♡あ♡♡あぁッ・・・♡♡!んん・・・ッ♡♡!」
指が熱い。
気持ちがいい。
他に考えることもできず、当初の目的をすっかり忘れた彼女は、身も心もとろけてしまいそうな絶技に酔いしれた。
(もう、イク・・・♡♡!)
あと少しで、届こうというところだった。
「いいですか?最後まで俺の要求に応えられなければ、『証明』にはなりませんよ?」
夕貴は冷ややかに宣言すると、熱い蜜で一杯に満たされていた狭い隘路から指を引き抜き、香の前で扇情的に舐めとった後、いつの間にか緩められた下腹部から、凝り切った雄茎を取り出した。
(えっ・・・!)
そして、啞然と驚く恋人に構わず、彼はずれたショーツの隙間から挿入ってきた。
「や・・・♡♡!」
刹那的な抵抗を覚える胸中とは裏腹に、淫猥な圧力のために、堪らず肘を机へ預けた香は、彼を着々と受け入れた。
「あッ・・・♡♡!あぁ・・・ッ♡♡!!」
彼女の意思に拘わらず、全てが収まり切ってしまうと、夕貴は恥じ入る香をしっかりと見据え、小刻みな性運動を開始した。
「だめ・・・♡♡!夕貴さ・・・♡♡!だめ・・・ッ♡♡!」
「何がだめなんです?まさか善くないですか?」
「ちが・・・♡♡!こんなところで・・・っ♡♡!」
「それはだめじゃないんですね」
淫らな思惑をにやりと見抜かれ、香の顔から火がボッと噴いた。
「香さん。いい加減もたれてくださらないと、激しくできませんよ?」
思わせぶりな発言が、彼女の性と期待を甚だ刺激し、香はすこぶる激しい歓喜のために、全身がゾクゾクと震えた。
故に、彼女はしおらしく、背中を机へ付け、仰向いた。
「良くできました」
口端を吊り上げた夕貴は褒めると、座骨の辺りを持ち、彼女の奥まで一息に突いた。
「ふぁあッ♡♡!」
快感が強すぎたあまり、香は意識が一瞬途切れ、呼吸もピタリと止まってしまったかのように思われた。
「ん。奥まで当たってますね」
「ひぁ♡♡!~~そんなの・・・♡♡!あぁぅッ♡♡!言っちゃ・・・♡♡あッ♡♡!だめ・・・っ♡♡!」
「分かりました。無駄口を叩かず、集中しろと」
「ッちが♡♡!あ、だめ♡♡!あッ♡♡!ん♡♡!あぁ~~~ッッ・・・♡♡!!」
反復運動が勢いを増してゆき、香は遂に顎をガクンと跳ね上げると、猛スピードで駆け抜けていった。
「・・・あなたが俺を信じていると信じます。ですが念のため、もう一度『証明』してもらえますか」
弾む息を整えていた香は、机から抱き起こされると同時に訊ねられたが、答える前に唇が唇へ重なり、結局、可否はうやむやになった。
「・・・背中を向けてください」
したがって、香は求められるまま、机から遅々と降り、後ろを弱々しく向いた。
「――あッ・・・♡♡!やぁ、ん・・・ッ♡♡!」
すると速やかに、有言実行並びに、背後から、雄の熱りが雌の過敏な内部へ淀みなく進入してきて、悩ましくも、並行して嬉しい香は辛抱ならず、マホガニーの机へしな垂れかかった。
体勢は良い意味で具合が悪かった。
不埒にも、淫らな体液で濡れた、木目の美しい赤黒色の家具が、彼女の身体をしっかり支えてくれるので、香は遠慮のない激しい挿抜を、一心に受け止めねばならなかった。
女のいやらしい喘ぎと、運動から荒れた男の短い息遣い、そして、彼らが擦れる度に湧き上がる、破廉恥な濁音が重なり合い、執務室ははち切れんばかりに、肉欲が充満した淫靡な空間へ変貌した。
「~~・・・あまり締め付けては困ります」
至福の苦悩に、整然な顔をやや歪めた夕貴は、嫋やかだが、同時に情熱的な恋人へ寄りかかると、手を上から被せ、彼女の小さな手を握った。
「~~ッ・・・♡♡!そんな・・・っ♡♡!あッ♡♡!こと・・・っ♡♡ん♡♡!な、い・・・っ♡♡!」
「ふふ。あなたは強情な女ですね?」
「~~夕貴さ・・・♡♡!あッ♡♡意地悪言っちゃ・・・♡♡!はん♡♡いやぁ・・・っ♡♡!」
「それは聞き捨てなりませんね。恋人に黙って、お見合いをしていた意地悪な女はどちらですか?」
「あん・・・ッ♡♡!~~ッごめんなさ・・・♡♡!」
「全くです。あなたからどう見えているかは分かりませんが、俺は根に持つタイプなんです」
(そうなの・・・?)
途端に、恋人の知らなかった部分が垣間見え、香の胸がキュンと高鳴った。
更に、熱い唾液をまとった赤い舌が、耳をぬるりと小気味好く這い、香は新たな喜びに、ゾクゾクッと、身体の芯から震えた。
「・・・あなたは大した方です。俺がどれほどあなたを焦がれているか知っていて、海瀬さんを惹きつけたのでしょう?」
「あッ♡♡ひ、惹きつけてなんか・・・♡♡!」
「では何故、彼は結婚を前提にあなたと付き合いたがったのでしょうか?」
「結婚」という単語は、現在の状況からして、彼女には荷が重すぎたため、半ば自棄になった香は、頭を横に振った。
「ッもう・・・♡♡!許して・・・っ♡♡!!」
「嫉妬深い男は嫌いですか?」
「っ好き・・・♡♡!夕貴さんが好き・・・♡♡!!」
「やはりあなたは狡い女だ・・・。俺もあなたが好きです」
「ッ―――♡♡!!ッ・・・♡♡!・・・ッ♡♡!!」
香は一人思い悩んでいた。
彼からすれば、彼女は妻帯者と不倫しており、断るこそすれ、話を進めるとは道理にそぐわなかった。
てっきり、この見合い話はここいらで幕を閉じると、そう思い込んでいた香だったが、一年の意表を突いた返答に、困惑が頭をもたげた。
母親は、彼女が肯定的な返事を返すことを望んでいたが、返事も何も、それは不可能というものだった。
選択は断るの一択しかない。
何故?
どうして?
しかしながら、問いに対する答えを自力で見つけ出すのは非常に難しく、問題は解かれないまま、放置されるより他なかった。
とはいえ、彼女は女将に何と言って、断りの電話を入れる旨を説明すれば良いのだろうか。
何故このような良い話を蹴るのか。彼女はきっとそう娘を問い質すだろう。
今現在、夕貴と交際している香は、彼以外の相手など考えられないくらい彼に夢中だ。
だから、結婚を前提に一年と付き合うつもりはない。
しかし正直に打ち明けても、強気な母は夕貴ほどの男性とあれども、役不足だと、取り付く島もないのだろう。
香は彼女を相手に、自分一人で太刀打ちできるとは到底思えなかった。
もし、一人玉砕覚悟で踏み切ろうとするものならば、最悪も最悪、さっさと別れるよう、容赦なく言われてしまうかもしれない。
女将と違って気が弱い若女将は、大切なものを天秤にかけることなど、できるはずがなかった。
彼女には味方が必要だった。
母親と肩を並べられるくらいの後ろ盾が。
香が彼に面会したいという一報が入ったとき、夕貴は執務室で業務にあたっていた。
事前に知らされていなかった夕貴は半ば驚きながらも、ここへ通すよう、命じた。
ほどなくして、ノック音に続き、入室を許可されると、仕事着では恥ずかしいのだろうか、洋服を着た香が彼の目前へ現れた。
彼女の表情は緊張から硬かった。
強張りを解すため、夕貴は鞣し革の張られたリクライニングチェアから立ち上がり、微笑みかけた。
「ようこそいらっしゃいました。香さん」
「夕貴さん、急に押し掛けてごめんなさい」
「いえ、全く問題はありません。会いに来てくださって嬉しいです。何か飲まれますか?」
「大丈夫です。あの、お話が」
「・・・お見合いの件でしょうか」
「!ど、どうして・・・!」
「『どうして』とはこちらの台詞です。どうして俺には言ってくださらなかったんですか」
「ご、ごめんなさい・・・。い、言いそびれてしまって・・・」
「始めから断ることもできたのではありませんか?」
「~~~ごめんなさい・・・!母に、夕貴さんとお付き合いしていることを、どうしても言えなくって・・・!」
だから今、それを相談しようとここへ来たのだと、香は言葉を続けようとしたが、遮られてしまった。
「俺はあなたにとって信用の足らない男なんですね」
夕貴の端麗な顔には、幾らかの落胆と怒りが浮き上がっていた。
「そんなことありません!」
「なら、『証明』してください」
「『証明』・・・?」
「服を脱いで、こちらへ座ってください」
夕貴は良質のマホガニー材からできた彼の執務机を指した。
(えっ・・・)
聞き間違いではないかと、香は自らの耳を疑ったが、恋人の真剣な眼差しが、彼女の双眸をまっすぐ射抜いていたため、大いに動揺した。
何故、服を脱いで彼の目の前へ座ることが、夕貴を信頼していることに繋がるのか。
香は理解にすこぶる苦しんだ。
同時に、困惑も大きかった。
紳士の鑑とも言うべき恋人が、そのように大胆な指令を口にすること自体、彼女にとって俄かには信じられないことだった。
「ど、どうしてですか・・・?」
声が緊張のために上ずった。
「信頼しているのであれば、俺の要求に応えられるはずです」
要するに、彼女は正に今、恋人に対する愛情や忠誠心といった真心を試されているのだった。
故に、香は現実を悟ると、震える手を黙ってブラウスへやり、ボタンをゆっくりと外し始めた。
緊張と羞恥が空気を満たす中、薄着になっていく恋人へ、夕貴は静かな視線を注いだ。
遂に、スカートとストッキングも脱いでしまうと、ブラジャーとショーツだけを身に着けた香は、恥ずかしそうに顔を背けた。
「こちらへ」
恥じらいから、香はおずおずと近づくと、執務机へ腰を下ろし、夕貴と間近に対面した。
心臓が、ドキドキと張り裂けそうなほど激しく拍動するのを感じながら、彼女は整った顔立ちの恋人を見上げた。
羞恥と緊張のあまり、呼吸が些か早くなってくる。
「良い眺めです」
夕貴は小さく微笑むと、唇を剝き出た肩へ、手を無防備な脇腹へ滑らせた。
反射的に、身体がビクンと強張った。
「あなたが毎日こんな風にいてくださったら、きっとどんなに退屈でつまらない仕事でも、捗ることでしょう」
耳元で低く囁かれると、既に高い心拍数は否応なく上昇し、忙しい胸の鼓動のために、香は答えることができなかった。
それから、触れるか触れないくらい、夕貴の唇が彼女の唇へもどかしく触れると、次の瞬間にはさっと塞がれ、海よりも深い、情熱的なキスが繰り広げられた。
「ぅん・・・♡♡!」
歓喜ゆえ、心臓は破裂寸前、右肩上がりの体温は、香を内側から溶かしていった。
すると、透明な粘液が、本人の意識の及ばないところで、股の間からとろりと浸み出し、ショーツを密かに濡らし始めた。
「・・・俺と別れて、海瀬さんと付き合うんですか」
夕貴は接吻の猛攻を緩めると、率直に訊いた。
「そんな・・・!」
香は面食らい、言葉が続かなかった。
「どのみち、彼に譲るつもりはありません・・・。あなたは俺のものなんですから」
瞬時に、唇が再び奪われた。
「・・・っ♡♡!」
その後、熱い口づけの最中、秘めた柔らかい部分をショーツ越しにくにゅりとなぞられると、香は機敏に反応した。
「っだめ・・・!」
「何故です?」
「執務室ではいやです・・・。場所を変えてください」
「心配しなくても、誰も入ってきはしませんよ」
「でも・・・っ」
「俺を信じていると、『証明』してください」
「あっ・・・!」
香の驚いたことに、隙を突いた夕貴の指が、下着の内側へするりと滑り込み、とろとろとふやけた蜜芯を触った。
「感心しませんね。一体いつから濡らしていたんです?」
指摘にも似た恥辱的な質問から、香の頬が赤く染まった。
続けて、痴態を仄めかす淫らな媚音が、蠢く指と同時に、艶かしく机上へ響いた。
「あ・・・っ♡♡や・・・あっ♡♡」
快感はすぐさま姿を現したが、自重的な女主人によって封じ込められてしまった。
「だめ、やめて・・・っ♡♡」
「やめません」
「は・・・ん♡♡あ・・・♡♡あぁ・・・♡♡!」
しこりを重点的に擦られると、香は、ビリビリと静電気が通電したような感覚を覚え、体躯が時折机の上で弾んだ。
「机が濡れてしまいます」
夕貴は意地悪く微笑んだ。
「~~~♡♡!」
せめてもの抵抗として、辿り着いてしまわないよう、香は懸命に逆らった。
しかしながら、抵抗は微弱なものに終わり、後戻りのない絶頂へ強制的に押し上げられると、香は悦びの悲鳴を上げた。
「あ、イク・・・♡♡!だめ、イク・・・ッ♡♡!!あ・・・♡♡!あぁッッ・・・♡♡!!・・・ッッ♡♡!」
その後、夕貴は蜜まみれの指を舐め、平静と言った。
「机がベトベトです。汚した責任を取ってもらいましょうか」
言葉尻に狡く告げると、彼は舐めた指を潤沢な蜜祠の中へ押し込んだ。
「あぁッ♡♡!」
「ん。中もとろとろです」
続いて、ふしだらな泥濘へ埋もれた指が内側でゆっくりと擦れ動くと、明示的で卑猥な淫音が共に上がり、雌芯からは余った愛液がどんどん溢れ、優美なマホガニーの執務机を一段と湿らせた。
「あん・・・♡♡!中、だめ・・・っ♡♡!」
「『だめ』じゃありません。『もっと』でしょう?」
「~~っ・・・♡♡!もっと、してぇ・・・っ♡♡!」
「良い子です」
褒美として、香の唇はすかさず夕貴の唇によって塞がれた。
「~~~♡♡!」
さりとて、先刻までの自重はどこへ行ってしまったのだろう?
今では、香は机の上で自ら脚を開き、ふしだらにも、腰を突き出していた。
「んッ♡♡んっ♡♡あ♡♡あぁッ・・・♡♡!んん・・・ッ♡♡!」
指が熱い。
気持ちがいい。
他に考えることもできず、当初の目的をすっかり忘れた彼女は、身も心もとろけてしまいそうな絶技に酔いしれた。
(もう、イク・・・♡♡!)
あと少しで、届こうというところだった。
「いいですか?最後まで俺の要求に応えられなければ、『証明』にはなりませんよ?」
夕貴は冷ややかに宣言すると、熱い蜜で一杯に満たされていた狭い隘路から指を引き抜き、香の前で扇情的に舐めとった後、いつの間にか緩められた下腹部から、凝り切った雄茎を取り出した。
(えっ・・・!)
そして、啞然と驚く恋人に構わず、彼はずれたショーツの隙間から挿入ってきた。
「や・・・♡♡!」
刹那的な抵抗を覚える胸中とは裏腹に、淫猥な圧力のために、堪らず肘を机へ預けた香は、彼を着々と受け入れた。
「あッ・・・♡♡!あぁ・・・ッ♡♡!!」
彼女の意思に拘わらず、全てが収まり切ってしまうと、夕貴は恥じ入る香をしっかりと見据え、小刻みな性運動を開始した。
「だめ・・・♡♡!夕貴さ・・・♡♡!だめ・・・ッ♡♡!」
「何がだめなんです?まさか善くないですか?」
「ちが・・・♡♡!こんなところで・・・っ♡♡!」
「それはだめじゃないんですね」
淫らな思惑をにやりと見抜かれ、香の顔から火がボッと噴いた。
「香さん。いい加減もたれてくださらないと、激しくできませんよ?」
思わせぶりな発言が、彼女の性と期待を甚だ刺激し、香はすこぶる激しい歓喜のために、全身がゾクゾクと震えた。
故に、彼女はしおらしく、背中を机へ付け、仰向いた。
「良くできました」
口端を吊り上げた夕貴は褒めると、座骨の辺りを持ち、彼女の奥まで一息に突いた。
「ふぁあッ♡♡!」
快感が強すぎたあまり、香は意識が一瞬途切れ、呼吸もピタリと止まってしまったかのように思われた。
「ん。奥まで当たってますね」
「ひぁ♡♡!~~そんなの・・・♡♡!あぁぅッ♡♡!言っちゃ・・・♡♡あッ♡♡!だめ・・・っ♡♡!」
「分かりました。無駄口を叩かず、集中しろと」
「ッちが♡♡!あ、だめ♡♡!あッ♡♡!ん♡♡!あぁ~~~ッッ・・・♡♡!!」
反復運動が勢いを増してゆき、香は遂に顎をガクンと跳ね上げると、猛スピードで駆け抜けていった。
「・・・あなたが俺を信じていると信じます。ですが念のため、もう一度『証明』してもらえますか」
弾む息を整えていた香は、机から抱き起こされると同時に訊ねられたが、答える前に唇が唇へ重なり、結局、可否はうやむやになった。
「・・・背中を向けてください」
したがって、香は求められるまま、机から遅々と降り、後ろを弱々しく向いた。
「――あッ・・・♡♡!やぁ、ん・・・ッ♡♡!」
すると速やかに、有言実行並びに、背後から、雄の熱りが雌の過敏な内部へ淀みなく進入してきて、悩ましくも、並行して嬉しい香は辛抱ならず、マホガニーの机へしな垂れかかった。
体勢は良い意味で具合が悪かった。
不埒にも、淫らな体液で濡れた、木目の美しい赤黒色の家具が、彼女の身体をしっかり支えてくれるので、香は遠慮のない激しい挿抜を、一心に受け止めねばならなかった。
女のいやらしい喘ぎと、運動から荒れた男の短い息遣い、そして、彼らが擦れる度に湧き上がる、破廉恥な濁音が重なり合い、執務室ははち切れんばかりに、肉欲が充満した淫靡な空間へ変貌した。
「~~・・・あまり締め付けては困ります」
至福の苦悩に、整然な顔をやや歪めた夕貴は、嫋やかだが、同時に情熱的な恋人へ寄りかかると、手を上から被せ、彼女の小さな手を握った。
「~~ッ・・・♡♡!そんな・・・っ♡♡!あッ♡♡!こと・・・っ♡♡ん♡♡!な、い・・・っ♡♡!」
「ふふ。あなたは強情な女ですね?」
「~~夕貴さ・・・♡♡!あッ♡♡意地悪言っちゃ・・・♡♡!はん♡♡いやぁ・・・っ♡♡!」
「それは聞き捨てなりませんね。恋人に黙って、お見合いをしていた意地悪な女はどちらですか?」
「あん・・・ッ♡♡!~~ッごめんなさ・・・♡♡!」
「全くです。あなたからどう見えているかは分かりませんが、俺は根に持つタイプなんです」
(そうなの・・・?)
途端に、恋人の知らなかった部分が垣間見え、香の胸がキュンと高鳴った。
更に、熱い唾液をまとった赤い舌が、耳をぬるりと小気味好く這い、香は新たな喜びに、ゾクゾクッと、身体の芯から震えた。
「・・・あなたは大した方です。俺がどれほどあなたを焦がれているか知っていて、海瀬さんを惹きつけたのでしょう?」
「あッ♡♡ひ、惹きつけてなんか・・・♡♡!」
「では何故、彼は結婚を前提にあなたと付き合いたがったのでしょうか?」
「結婚」という単語は、現在の状況からして、彼女には荷が重すぎたため、半ば自棄になった香は、頭を横に振った。
「ッもう・・・♡♡!許して・・・っ♡♡!!」
「嫉妬深い男は嫌いですか?」
「っ好き・・・♡♡!夕貴さんが好き・・・♡♡!!」
「やはりあなたは狡い女だ・・・。俺もあなたが好きです」
「ッ―――♡♡!!ッ・・・♡♡!・・・ッ♡♡!!」
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