【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【20】

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 玄関ドアの向こうからザックの声が告げる。後悔をにじませながら。

「魔獣と戦った時に鍵を落としてしまったんだ。君にドアを開けるなと言っておいて情け無いが、開けてくれないだろうか?」

「……」

 声は完全にザックだ。話し方も話の内容もザックらしい。
 でも『魔獣は幻影が得意だ。何かを言われても信じるな』と言われている。開けるべきじゃない。
 だけど、もしも声の主が本当にザックなら……魔獣と戦ったんだ。怪我をしているかもしれない。

「ミツバ、俺が警戒するように言ったからためらっているんだな。それでいい」

「え?でも……」

「気弱なことを言って悪かった。ドアを開けなくていい。明日の朝、鍵を探しに行くから待っていてくれ」 

 本当にザックだった場合、一晩中外に出たままだ。しかも危険な魔獣がウヨウヨいる森の中に。

「待って!」

 ザックが本物かどうか、【真実の窓】で確かめればいい。

 僕は玄関に駆け寄り、玄関ドアに嵌め込まれた【真実の窓】で外を確認した。

「ミツバ……」

 申し訳無さそうな顔と目が合う。姿が居た。
 本物だ。

「ザック!疑って悪かったよ!おかえりなさ……」

 僕は鍵を開けてドアを開いた。わずかな隙間が出来た瞬間、脳裏に鋭い警鐘が響く。

 待って。おかしい。

 それは、仕事で不審者を見つけた時のような感覚だった。

 姿

 大事な鍵を無くすくらい激しく魔獣と戦ったのに?服に汚れ一つないなんてあり得る?
 違和感しかない。仕事の指導で何度も聞いたじゃないか。『人間の勘は馬鹿に出来ない』『違和感を感じたらとにかく疑え』って。
 考えている間にドアが開いていく。何かが中に入って……。

「っ!やっぱり駄目だ!」

「ギィッ!」

 僕はドアを閉めた。が、締まり切らない。嫌な感触と悲鳴がする。ガタガタとドアが軋む。

「ひっ!?」

 隙間に何かがはさまってる!ドアと壁に挟まれて変形してるし千切れそうだけど、入り込んだ部分がビチビチ動いている!

「な、なに!?蛇!?いや、違うこれ……」

「キィー!ギュィッ!ギキィ!」

 細長く生々しい肉色をしていて、先端には口らしきものがあり、粘液を垂らしながら鳴き声を上げている。
 それはまるで……。

「しょ、触手だ!昔、サークルの先輩たちが回し読みしてた薄い本の……いやそんな事はいい!入って来るな!」

 とにかく侵入を阻むため、僕は体重をかけてドアを押さえた。

「ギュキキギィ!ピギィィッ!」

「うわあー!ビチビチしてて気持ち悪い!鳴き声も不気味!」

 しかもこっちに近づこうとしてる!
 全体重をかけてドアを閉め続ける。でも凄い力がドアを開こうとしている。そして隙間から無数の触手が入り込もうとしているのが見えた。

 怖い!

 駄目だ。こんなのが入って来たら家の中が無茶苦茶になる。ザックが大事に手入れしている家が壊れてしまう。
 美味しい料理を作ってくれた台所も、初めて会ってエッチなことをしたリビングも、僕が大切に寝かされたりエッチなことをした寝室も……。

「この!入ってくるな!」

 でもどうしよう。ドアが閉まらない。挟まっている触手をどうにかしなきゃ。

「でも素足で踏むのは危ない気もするし。というか手で触っても駄目だよね。たぶん……。あっ!」

 ハッ!と気づく。というか思い出した。玄関には武器がある!

「う……!も、もう少し……!」

 片腕と脚でドアを押さえながら、もう片腕を伸ばす。使いやすいよう壁に立てかけていた剣を握る。抜き身の剣は長くて重い。けどやらなきゃ。

 やれる。だって僕はガードマンだ。警備員だ。

 ザックの家を守るんだ!

 眩い光が玄関を包む。

 握りしめた剣が激しく光っている。僕は渾身の力を込めて剣を振り下ろした。

「ザックの家から出て行け!」

 ザシュッ!

「ピギィィ!ギイイイー!」

 触手を切断できた!ドアが閉まる!

「やった!これで大丈夫……」

 ホッとした。その時だった。

「えっ?ひっ!」

 切り落とされた触手が飛び跳ね、胸元に引っ付いた。動揺で剣を落としてしまう。

「な、やだ!離せ!」

 吸い付くようにピッタリひっつき、胸元から顔へと先端を伸ばす。
 掴んで離そうとしても離れない。力が強い!

「やだっ!やめっ!……やっ!……っ!」
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