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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【19】

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 少し眠っていたらしい。リビングの窓の外はかなり暗い。日没直後くらいだろうか?

「お腹すいてきた。ザックもそうだろうな」

 台所は自由に使っていいと言われてるし、何か作っておこう。料理は苦手な方だけど、食べ物は出来るはず。
 ……たぶん。
 とりあえず台所に向かった。

「広い!しかも綺麗!」

 今までのやり取りと家の様子で、ザックは几帳面で綺麗好き。物を大事にする人なのはわかっていたけど、台所はそれが良く表れていた。

 なんだか、ザックの内面と日常に触れている気がしてテンションが上がる。
 僕も家の掃除や手入れは小まめにしたい方だから、気が合いそうだ。そういう所も好きだなと思う。

 それに、ザックにとっては罪悪感にかられて始めた生活だっただろうし仕事も大変なのだろうけど、楽しみが無かった訳では無さそうなのも嬉しい。

「うわあ。全部大きいなあ」

 使い込まれた鍋やフライパンなどの調理器具、棚に整然と並ぶ食器、釜戸などのザックの背丈に合わせた設備、扉付きのチェストが幾つか。

「えっと、食材は保存棚の中にあるって言ってた。これかな?」

 チェストの内の一つを開けると、三段に仕切ってあった。パン、果物類、野菜類がそれぞれの段に入っていた。
 別のチェストも同じく三段で、中は冷蔵庫のように冷んやりしている。生肉、加工肉、チーズなどが入っていた。
 どれも大きくて美味しそうだ。
 何を作るかしばらく考えたけど、とにかく火を使うのは怖い。コンロやオーブンっぽい設備はあるけど、いじらないでおこう。
 水道に当たる設備は、特徴と使い方を教えてもらったから大丈夫なはず。まな板と、大きいけど包丁があるから食材を切るのも大丈夫なはず。

「サンドイッチを作ろう!えーと、水道は青い魔石がついてて……あ、これだ。こっちの水道とシンクによく似てるなあ。まず野菜を洗って……」

 包丁をおっかなびっくり使って、巨大なパン、トマトっぽい野菜、チーズを薄く切る。そしてパンにバターを塗って具をはさんだ。
 うーん。どう見ても薄切りじゃないし、野菜の汁気もあってかなり不恰好だ。でも味は美味しい。
 皿に盛って、葡萄とブルーベリーの中間のような果物をそえて出来上がり。

「僕にしては上手に出来た!」

 るんるんで台所を出た。リビングに戻ろうと廊下を歩く。
 寝る前の不安な気持ちは薄れていた。
 リビングのドアを開けた瞬間、ある音が聞こえて来るまで。


 ◆◆◆◆


 トントン、ドンドン。廊下の先から音が聞こえる。

「何の音だろう?……もしかして、玄関ドアを叩く音?」

一瞬、ザックが帰ってきたのかと思った。けど、ザックならドアを叩いたりしないで入って来るはずだ。

「あやしい」

 僕はとりあえずリビングに入った。サンドイッチをローテーブルに置いて座る。その間もドアを叩く音が聞こえた。
 しばらく無視していたのだけど……気になる。

「本当にザックかもしれない。何か困っていて入れないとか……窓を通して見れば正体がわかるって言ってたし、確認しよう」

 廊下に出た。
 ドンドン、トントン。ドンドン!ドン!
 ドアを叩く音が強まっていく。
 廊下の天井と玄関にはランプの灯りがついているのに、妙に薄暗くて怖い。
 玄関に近づくのをためらっていると、ドアを叩く音に混じって声がした。

「ミツバ、ミツバ、玄関を開けてくれ」

「ザック?どうして入って来ないの?」

 ザックの声だ。抑揚も彼そのものだ。
 僕は反射的に返事をしてしまった。ドアを叩く音が止んで、ザックの悲しそうな声がした。

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