【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【17】

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 いつのまにかリビングに移動していたらしい。僕はザックの膝の上で放心していた。

「ミツバ、俺は君の意思を尊重する。どちらを選んでもいい」

「!」

 僕は膝立ちになって向かい合わせになり、正面からザックの顔を見る。
 叫ぼうとして、出来ない。ザックの優しさと覚悟が伝わってくるから。

「もちろん俺との未来を選んで欲しい。だが、この世界は魔獣もいて危険だ。それに、君にはこれまでの人生と生活がある」

「ザック……」

「調査が入るのは半月後だ。【ゲート】を閉じるか否か決まるのはそれからだが……考えておいてくれ。俺も考える」

 きゅっと、胸が苦しくなる。たくましい腕が背中を撫でて、唇と牙が額に触れた。
 くすぐったい。ちょっと空気が震える音。これはザックの笑い声?

「ははっ。……悪い。俺のことで悩んでくれて嬉しいよ」

「な、なんだよそれ。からかってるの?」

「いや、本気で言ってる。将来のことはまだわからないが、君は俺のことを真剣に愛してくれている。それこそ、これまで生きてきた世界に引けを取らないくらいに。だからこそ悲しんで悩んでいる。それが嬉しい。
君がどんな未来を選んでも、俺はこの喜びがあれば生きていける」

「ばか!そんなこと言わないで!」

 急に歳上らしい抱擁力を出さないで欲しい。人生経験の差が出ててムカつく。確かに14歳差は大きいけどムカつく。
 あと、僕がザックとの未来を捨てる前提なのがめちゃくちゃ腹がたつ。

「こ、こんなに好きなのに!ザックの……ばか!」

 まくしたてると涙があふれた。顔を胸板に押し付けられて頭を撫でられる。

「うっ……ひっく……子供あつかいやめて……」

「違う。愛しい人を甘やかしているんだ」

「……ザックって、結構恥ずかしい人だよね」

「嫌か?」

「……嫌じゃない」

 胸板に顔をこすりつけてる内に、だんだん落ち着いてきた。癇癪起こして恥ずかしい!

「ご、ごめん。ザック……」

「いいさ。怒ったミツバも可愛いと知れて幸せだ」

「もー!恥ずかしいってば!」

 重かった気分が軽くなる。なんの解決にもなってないけど……。
 ちゃんとザックの顔を見れた。肌は落ち着く緑色。顔立ちはゴツゴツしてて厳つくて、白い牙はピカピカ。僕を包む身体は大きくてムキムキしてて、とっても優しく触れてくれる。
 そして、僕を見る深緑色の眼差しは柔らかくて甘ったるい。
 あー!もう!好き!カッコいい!
 でも愛しいやら悔しいやらでムズムズする!

「あっ!み、ミツバ、くすぐったい!」

 衝動的に身体が動いた。僕はザックの頬にキスしたり、大きな鼻を甘噛みしたりしてやった。あ、耳も噛んじゃえ。
 耳まで大きい。噛みごたえも舐めごたえもあるなぁ。
 ザックは真っ赤な顔でわたわたしてる。

「み、ミツバ!そんな可愛くて大胆なことをしないでくれ!」

「ふふん。可愛いのは君だよ、ザック」

 僕だって、やられっぱなしじゃないからね!



◆◆◆◆◆



 一通りいちゃついた後、ザックは真剣な顔になった。もう夕方なのに森の様子を見に行くという。

 僕はザックの腰に抱きついた。ぎゅっと腕に力を込めて見上げる。

「行かないで。もうすぐ夜になるよ。危ないよ」

「いや、今日のうちに家の周辺だけでも見ておきたい。他にも【ゲート】が出来ていたり、魔獣に影響が出ている可能性がある。そうなればどんなことになるか……これが俺の仕事なんだ。行かなければならない」

「ザック……。わかったよ。でも、気をつけてね」

 お兄さんの罪の罪悪感だけじゃない。仕事に誇りをもってるんだ。
 僕はそっと身体を離した。

「ミツバは念のため、そちらの世界に戻っていてくれ」

「やだ。ザックが帰ってくるのを待つよ」

 これは譲れない。
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