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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【9】

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 ドアを開けて自室に足を踏み入れると、特に何もしなくてもクローゼットのドアが閉まった。自動ドアみたいだな。

「ある意味便利かも。いや、ドアのことは後だ」

 僕はまず、自室に異常がないか確かめた。大丈夫みたいだ。
 他の場所も確認するけど、特に変わった様子もない。ついでにスマホとテレビで現在の日時を確認する。
 ザックと出会った次の日の午前九時半頃だ。向こうも大体それくらいの時間経過だったな。まあ、とりあえずこれくらいでいいか。

 僕はお風呂に入り、下半身を念入りに洗う。手早く身体を拭いて髪を乾かして、Tシャツと麻のズボンを着た。借りたチュニックを洗うのは後にしよう。

 ……なんだか、ザックを待たせない方がいい気がするんだよね。

「ザック、戻ったよ」

 ドアを開けて入室する。やっぱり、ドアは開けっぱなしには出来ないみたいだ。不思議だなあ。
 またローテーブルの前に座ると、ザックがしみじみとした様子で呟いた。

「……戻って来てくれたんだな」

「え?そりゃそうだよ。話し合いの途中だったし。それより、二つの世界の時間の流れは変わらないみたいだ。あとクローゼットの服とか物置の中の物とかは見当たらなかった」

「そうか。恐らく、二つの世界が繋がった時に消滅したか、どこかに飛ばされたのだろう」

「へえ。そうなんだ」

 幸か不幸か、クローゼットにはあまり服を入れていなかった。一張羅のコートとスーツがなくなったのは残念だけど。
 ザックの方も大して物を入れてなかったらしい。それにしても詳しい。

「ザックの世界では、こういう事って良くあるの?」

「滅多にない。だが、次元の歪みや魔法によって異なる世界の物や人が召喚されることは広く知られている。さらに珍しいが、今回のように異なる世界同士が繋がった記録もある。そちらの世界ではどうだろうか?」

「僕の世界では、魔法も異世界も召喚もオークもファンタジー……お伽話ってことになってる。だから僕、ザックのことは夢の登場人物だと思ってた」

「俺もだ」

 ザックは真っ直ぐに僕を見つめた。

「俺もミツバのことは、魔法使いが俺をからかっているのか、孤独と願望が見せた夢か、仕留めそこねた魔獣の幻影かと思ったんだ。
まさか俺の部屋が異世界に繋がるなんて、小説か王配陛下の逸話のようなことが起きるとは思わなかった。
それに、ミツバは俺の理想そのものの愛らしい人だ。こんな都合のいい出会いがあるなんて信じられなかった」

「あ、愛……!そ、そうなんだ……理想なんだ……」

 魔獣の幻影?はよくわからないけど、夢だと思うくらい僕ってザックの理想なんだ。
 いやいや!今はそんなことを考えている場合じゃない!なんだかドキドキして嬉しいけど!
 というか、向かいに座るザックの苦悩した顔がキラキラして見えるけど……。

「初めて会った瞬間、目を奪われた。話すことで人柄を知るほど、夢中になった。
 ……夢でも幻影でもいいから、こんな人が花嫁になったらいのにと……俺にそんな資格は無いというのに、欲望のまま君を抱いてしまった。きっと、君にとっては苦痛だったろう……。だからもう、君はこちらに戻らないと思った」

 きゅーん!もう誤魔化せないくらい胸が高鳴った。ザック可愛い。あと下腹が熱くうずく。

「今すぐザックを抱きしめたい。抱かれたい」

「えっ」

「あっ。いや、その。同意だったし、お互い夢だと思ってたし、大人同士なんだから気にしなくてもいいよ!それに、僕もザックはカッコいいし素敵だなと思ったし……すごく気持ちよかったし……」

 濃い緑色の瞳に喜びの光が灯った。僕の胸はさらに高鳴る。

「ミツバ……」

「ザック……」

 ザックの身体が動き、僕らは寄り添った。このままキスしたい……。

「ハッ!いや待て!君の身体……!」

 ザックは真っ青になって僕の肩を掴んだ。そして鼻をひくつかせて、さらに顔色が悪くなる。

「ザック?どうしたの?」

「なんてことだ。……ミツバ、落ち着いて聞いて欲しい」

「へ?う、うん?」

 ザックは悲痛な顔で告げた。

「順を追って説明する。オークの体液や体臭は強力な媚薬になる。特に精液は強力で、受け入れた者の身体を変化させる。……具体的にいうと雄を求めるようになり、雄子宮が出来て赤子が産めるようになる」

「は?」

 僕は間抜けな声を出して絶句した。


◆◆◆◆◆



明日はいよいよ11月09日。いいオークの日ですね。記念に1日2回更新します。お楽しみください。
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