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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる 【2】

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 自宅のクローゼットを開けたら、オークがいた。

 意味がわからない。普通なら取り乱すだろう。でも僕はそれを受け入れた。
 何でだって?……繰り返すけど、僕は10連勤明けで疲れていたし眠かった。だから、夢の出来事だと思ったんだ。

「そっかぁ。これは夢だな。こんにちは、オークさん」

「こ、こんにちは?人間?さん?」

 オークさんは重厚な声で挨拶を返してくれた。ものすごく厳つい顔だけど、びっくりというか呆然としているのが伝わる。

「はい。人間です。名前は内木野ミツバって言います」

「俺はオークのザックです」

「ザックさん。いいお名前ですね」

 なんだか口に馴染む名前だ。素直に褒めると、瞳が少し和らいだ。

「ウチキノミツバさんも良い名前ですね」

「ミツバでいいです。ウチキノは苗字なんですよ」

「ミョウジ?」

「苗字というのは……」

 苗字について説明していると、ぐうーっ!と、僕の腹の音が鳴った。

「あ、し、失礼しました」

 ザックさんはフッと笑った。ドキッとする。厳つい顔に浮かぶ柔らかい微笑み。これがギャップ萌え?

「お気になさらず。よかったら、食べていかれませんか?」

「ありがとうございます!ぜひ!」

 夢の中で食事のお誘いなんて、童話みたいだなあ。ザックさんの部屋もファンタジーっぽいし。
 僕は呑気に考えながらお言葉に甘えた。

「よかったらワインを一緒に飲みませんか?お食事のお礼です」

「これはご丁寧に。いただきます」

 ザックさんこそ丁寧な人、いやオークだな。なんだか胸があったかい。
 こうして僕らは食卓を囲んだ。
 僕には少し背が高いローテーブルの上には、美味しそうな料理が並んでいた。
 茄子やトマトっぽい野菜にチーズを乗せたオーブン焼き、厚切り肉を煮込んだシチュー、丸パン。どれもキラキラして見えた。

「こ、これ、ザックさんが作ったんですか?」

「はい。料理が趣味です。お口に合えばいいのですが……」

「合うに決まってます!」

 これはワインがすすむに違いない!僕は急いで追加のボトルとグラスを取りに行き、赤ワインを開けた。

「「乾杯!」」

 後はもう、無礼講だ。料理は美味しいし、

 赤ワインは当たりだった。お値段以上だよー。駅近とか駅構内にあるのも助かるよ成■石○。
 ザックさんの口にもあったようで、思った通り赤ワインが消えていく。

「こんなに美味い酒は久しぶりに飲みました。人里離れているのでなかなか買えないんですよね」

「ここはどんな場所なんですか?」

 ザックさんは少し寂しそうな顔になった。

「ここは緑鉄国の……特殊な魔獣が生息している森の奥地です。俺は森の管理者として暮らしています」

 森の動植物の品種と数を記録し、必要に応じて採取や間引きをしている。シチューの肉も、間引きした魔獣の肉だそうだ。森の管理人といったところだろうか?カッコいいな。
 僕の好奇心が刺激され、質問が次々と出る。

「大変なお仕事ですね。危険なことも多いでしょう?管理と魔獣の間引きは何人くらいでチームを組んでるんですか?」

「いえ、一人です。狭い範囲ですし、生息する魔獣たちはそこまで強くありません。ある魔獣だけは注意が必要ですが、慣れればなんということもありませ……」

「え?一人で全ての業務をこなしているんですか?」

「はい。この森を管理しているのは俺だけです……ミツバさん?」

 ダン!俺はグラスをローテーブルに叩きつけるように置き、ザックさんを見上げた。
 うわあ。胸板も首もすっごい逞しいなあ。いや、今はどうでもいい!

「そんな大変な仕事なのに!ワンオペなんて駄目です!ザックさんが倒れちゃいますよ!」

「え?いや、俺はオークの中でも頑丈だから大丈夫……」

「駄目です!怪我も病気もした事がないと、自分の不調に気づきにくくて!気づいた時には手遅れだったりするんですから!駄目で……!……と、父さんもそれで……うわああん!」

「え?ちょ?ミツバさん!?」

 僕はギャン泣きして訴えた。

 父さんは大病に気づいた時には手遅れだったこと、母さんは元から病弱で長生き出来なかったことを。

「僕も仕事キツいですけど、流石にワンオペではないですよ。上司にかけあって人員を増やしてもらいましょうよ」

 と、訴えてザックさんのたくましい身体にすがりついた。
 そうしないと聞いてくれない気がしたんだ。

「あわわわ……!近っ……!細っ……!良い匂いぃ……!い、いや違う!」

 ザックさんは酔っているのか、真っ赤になってうろたえた。



◆◆◆◆◆



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