上 下
62 / 95
第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【1】

しおりを挟む
 自宅のクローゼットを開けると、オークが居た。

「えっ」

「えっ」

 お互い間抜けな声を出して見つめ合う。

 オーク。全身緑色でムキムキの、ファンタジー物のアニメやゲームでよく見るモンスターだ。僕も背が低くないわけじゃないのに、頭一つ分は大きい。
 身につけてるのはシャツとエプロンで、手には棍棒でなく鍋を持っているけど。
 というか、クローゼットの中がおかしい。服も何もない。別の空間、木でできた温かみのある部屋と繋がってるみたいだ。

「そっかぁ。これは夢だな。こんにちは、オークさん」

 僕……内木野ミツバ(24歳男性。10連勤明け)は納得して挨拶した。

 それが僕とオークさん……ザックとの出会いだった。

 この時の僕はどう考えても頭がおかしかった。言い訳をすると、疲れていたし寝不足だったせいだ。
 僕は警備会社に勤めているのだけど、とにかく人手が足りていない。その上、強制的に連勤させられていた。先輩たちが労基に訴えているらしいけど、一向に改善される気配はない。
 この日も10連勤明け。次の日は久しぶりの休みだった。


 ◆◆◆◆


 ザックと出会う一時間ほど前、僕は退勤した。

 ふらふらになりながら改札を通って家路を急ぐ。
 とにかく寝たい。でも寝るだけももったいない。
 でも、アニメを観たり本を読むような気力の余裕はない。内容が入ってこないんだよね。
 いつからこんな状態になったんだっけ……。

「せめて美味い酒が飲みたいなあ」

 お酒やお茶を飲むのも好きだ。
 幸い連勤を繰り返してるだけあって懐は暖かい。

「よし。奮発しちゃうか」

 駅構内にある某高級スーパーに寄り、赤ワインとビールを欲望のまま買った。
 ツマミを買い忘れたけど最近は食べれる量が減ったからいいや。
 もう少し仕事に余裕が出来たら自炊もできるけど、それは無理だ。

「ただいまー」

 僕だけが住む一軒家は、両親が遺してくれた財産だ。連勤は嫌だけど、この家の維持のためにも仕事はやめれない。

「でも、しんどいなあ」

 最近は仕事をするか寝る以外はなにも出来てないし。家に帰っても寂しいし……。
 なんだか暗い気分になってきたのを無理矢理誤魔化しながら、今すぐ飲む以外の酒を冷蔵庫に入れる。
 冷蔵庫も冷凍庫もろくな物がない。

「母さんが生きてたら、怒られてただろうな」

 少し切ない。
 誰もいないリビングで過ごす気になれない。
 赤ワインのボトルとグラスとワインオープナーを手に、自分の部屋に移動した。入った瞬間、違和感を感じる。

「あれ?何か良い匂いがするな……」

 チーズやハーブの匂いだ。電気をつけて、ローテーブルに持っていた物を置いて周りを見回す。
 まさか買った惣菜か何かを放置した?あり得る。ゾッとしながら匂いの元を探したけど……。

「クローゼットの中からする?寝ぼけて食べかけを突っ込んだかな?」

 これもあり得る。クローゼットの中はとんでもない事になってるかもしれない。正直言って見たくないけど……。
 僕は意を決して開けた。

 そして話は冒頭に戻り、僕の人生が変わる。まさかオークと恋に落ちたり、たくましい雄に抱かれないと生きていけなくなるなんて、想像もしていなかったのに。



◆◆◆◆◆



閲覧頂きありがとうございます。お気に入り登録、感想、投票、ハートなど、いつも反応ありがとうございます。

四章の連載をはじめます。現在ストックをためていまして、11月中には続きをアップできる見込みです。引き続きサラリーマンオークをよろしくお願いします。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

第一王子から断罪されたのに第二王子に溺愛されています。何で?

藍音
BL
占星術により、最も国を繁栄させる子を産む孕み腹として、妃候補にされたルーリク・フォン・グロシャーは学院の卒業を祝う舞踏会で第一王子から断罪され、婚約破棄されてしまう。 悲しみにくれるルーリクは婚約破棄を了承し、領地に去ると宣言して会場を後にするが‥‥‥ すみません、シリアスの仮面を被ったコメディです。冒頭からシリアスな話を期待されていたら申し訳ないので、記載いたします。 男性妊娠可能な世界です。 魔法は昔はあったけど今は廃れています。 独自設定盛り盛りです。作品中でわかる様にご説明できていると思うのですが‥‥ 大きなあらすじやストーリー展開は全く変更ありませんが、ちょこちょこ文言を直したりして修正をかけています。すみません。 R4.2.19 12:00完結しました。 R4 3.2 12:00 から応援感謝番外編を投稿中です。 お礼SSを投稿するつもりでしたが、短編程度のボリュームのあるものになってしまいました。 多分10話くらい? 2人のお話へのリクエストがなければ、次は別の主人公の番外編を投稿しようと思っています。

一妻多夫の奥様は悩み多し

たまりん
BL
男性しかいない一妻多夫の世界が舞台で主人公が奮闘して奥さまとして成長する話にするつもりです。

前後からの激しめ前立腺責め!

ミクリ21 (新)
BL
前立腺責め。

悪役令息物語~呪われた悪役令息は、追放先でスパダリたちに愛欲を注がれる~

トモモト ヨシユキ
BL
魔法を使い魔力が少なくなると発情しちゃう呪いをかけられた僕は、聖者を誘惑した罪で婚約破棄されたうえ辺境へ追放される。 しかし、もと婚約者である王女の企みによって山賊に襲われる。 貞操の危機を救ってくれたのは、若き辺境伯だった。 虚弱体質の呪われた深窓の令息をめぐり対立する聖者と辺境伯。 そこに呪いをかけた邪神も加わり恋の鞘当てが繰り広げられる? エブリスタにも掲載しています。

夏休みは催眠で過ごそうね♡

霧乃ふー  短編
BL
夏休み中に隣の部屋の夫婦が長期の旅行に出掛けることになった。俺は信頼されているようで、夫婦の息子のゆきとを預かることになった。 実は、俺は催眠を使うことが出来る。 催眠を使い、色んな青年逹を犯してきた。 いつかは、ゆきとにも催眠を使いたいと思っていたが、いいチャンスが巡ってきたようだ。 部屋に入ってきたゆきとをリビングに通して俺は興奮を押さえながらガチャリと玄関の扉を閉め獲物を閉じ込めた。

通販で美少年型カプセルを買ってみた

霧乃ふー  短編
BL
通販で買っておいた美少年型オナホのカプセル。 どれを開けようか悩むな。色んなタイプの美少年がカプセルに入っているからなあ。 ペラペラと説明書を見て俺は、選んだカプセルを割ってみた。

好きな人の尻に繋がるオナホ魔道具を手に入れたので使ってみよう!

ミクリ21 (新)
BL
好きな人の尻に繋がる魔道具の話。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

処理中です...