【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第四章ガードマン、オークの花嫁になる

ガードマン、オークの花嫁になる【1】

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 自宅のクローゼットを開けると、オークが居た。

「えっ」

「えっ」

 お互い間抜けな声を出して見つめ合う。

 オーク。全身緑色でムキムキの、ファンタジー物のアニメやゲームでよく見るモンスターだ。僕も背が低くないわけじゃないのに、頭一つ分は大きい。
 身につけてるのはシャツとエプロンで、手には棍棒でなく鍋を持っているけど。
 というか、クローゼットの中がおかしい。服も何もない。別の空間、木でできた温かみのある部屋と繋がってるみたいだ。

「そっかぁ。これは夢だな。こんにちは、オークさん」

 僕……内木野ミツバ(24歳男性。10連勤明け)は納得して挨拶した。

 それが僕とオークさん……ザックとの出会いだった。

 この時の僕はどう考えても頭がおかしかった。言い訳をすると、疲れていたし寝不足だったせいだ。
 僕は警備会社に勤めているのだけど、とにかく人手が足りていない。その上、強制的に連勤させられていた。先輩たちが労基に訴えているらしいけど、一向に改善される気配はない。
 この日も10連勤明け。次の日は久しぶりの休みだった。


 ◆◆◆◆


 ザックと出会う一時間ほど前、僕は退勤した。

 ふらふらになりながら改札を通って家路を急ぐ。
 とにかく寝たい。でも寝るだけももったいない。
 でも、アニメを観たり本を読むような気力の余裕はない。内容が入ってこないんだよね。
 いつからこんな状態になったんだっけ……。

「せめて美味い酒が飲みたいなあ」

 お酒やお茶を飲むのも好きだ。
 幸い連勤を繰り返してるだけあって懐は暖かい。

「よし。奮発しちゃうか」

 駅構内にある某高級スーパーに寄り、赤ワインとビールを欲望のまま買った。
 ツマミを買い忘れたけど最近は食べれる量が減ったからいいや。
 もう少し仕事に余裕が出来たら自炊もできるけど、それは無理だ。

「ただいまー」

 僕だけが住む一軒家は、両親が遺してくれた財産だ。連勤は嫌だけど、この家の維持のためにも仕事はやめれない。

「でも、しんどいなあ」

 最近は仕事をするか寝る以外はなにも出来てないし。家に帰っても寂しいし……。
 なんだか暗い気分になってきたのを無理矢理誤魔化しながら、今すぐ飲む以外の酒を冷蔵庫に入れる。
 冷蔵庫も冷凍庫もろくな物がない。

「母さんが生きてたら、怒られてただろうな」

 少し切ない。
 誰もいないリビングで過ごす気になれない。
 赤ワインのボトルとグラスとワインオープナーを手に、自分の部屋に移動した。入った瞬間、違和感を感じる。

「あれ?何か良い匂いがするな……」

 チーズやハーブの匂いだ。電気をつけて、ローテーブルに持っていた物を置いて周りを見回す。
 まさか買った惣菜か何かを放置した?あり得る。ゾッとしながら匂いの元を探したけど……。

「クローゼットの中からする?寝ぼけて食べかけを突っ込んだかな?」

 これもあり得る。クローゼットの中はとんでもない事になってるかもしれない。正直言って見たくないけど……。
 僕は意を決して開けた。

 そして話は冒頭に戻り、僕の人生が変わる。まさかオークと恋に落ちたり、たくましい雄に抱かれないと生きていけなくなるなんて、想像もしていなかったのに。



◆◆◆◆◆



閲覧頂きありがとうございます。お気に入り登録、感想、投票、ハートなど、いつも反応ありがとうございます。

四章の連載をはじめます。現在ストックをためていまして、11月中には続きをアップできる見込みです。引き続きサラリーマンオークをよろしくお願いします。
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