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第三章エルフ、オークの花嫁になる

エルフ、オークの花嫁になる【18】

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「ゲギャアッ!」

「なんだテメ……!ぐぎゃっ!」

「ギエエエッ!」

「まさか侵入者が……っ!」

 何かを斬る音とゴブリンたちの悲鳴が上がり、ゴブリンマスターは私から身体を離して横様に逃げた。先ほどまでいた場所に刃が振り下ろされる。
 ガァン!と、音を立てて木の根を断ち切ったのは、見覚えのある戦斧。刃と柄の交差点になにか光るものがある。金色の光、魔石だ。
 まさか。そう思うが先か後か。戦斧の持ち主は何かを掲げた。

「レグレース!どこだ!?」

 ピカッと強い光が溢れる。魔道ランプを灯したのだ。

「ぎゃあああ!」

 ゴブリンマスターは悲鳴をあげた。
 その様に、やはり討伐記録は正しかったと確信する。いや、それどころではない。

「そこか!じっとしていろ!」

 ゴブリンマスターが怯んだ隙に、戦斧の持ち主は私を繋いでいた鎖を斬った。そしてゴブリンたちを引き剥がして叩き潰し……私を強く抱きしめる。

「レグレース、遅くなって悪かった」

「まさか……グイド……本当に……?いつもの妄想?」

 綺麗な金色の目の逞しいオークの青年、グイドは安心させるように微笑む。

「俺は本物だ。助けに来た。……お喋りは後だ。逃げるぞ」

 グイドは私の首輪に何かを押し当てた。

「貴様あああ!我が森を荒らしたなあああ!逃がさん!ーーー暗闇のかいなよ!我が腕となりて!我が敵を薙ぎ払え!ーーー」

 怒り狂ったゴブリンマスターが詠唱し、ねじ曲がった木の枝が私たちを襲う。魔道ランプが叩き壊され、光が消えるが……もう大丈夫だ。

「グイド、逃げる必要はありませんーーー風よ!我が敵を切り裂け!ーーー」

 私の放った風魔法の刃が枝を切り裂く。魔法が使える。グイドが戦斧の刃で魔封じの首輪を破壊してくれたからだ。

「ふん!それで勝ったつもりか?ここは我の胃袋の中も同然!どちらも苗床にしてやる!」

「ならば胃袋から壊すまでだ」

 私は戦斧を持つグイドの手に己の手を重ね、持ち上げた。

「お、おい?レグレース、なにを」

「奴の弱点はわかっています」

 戦斧の刃、正確には魔石がゴブリンマスターに向くように。そして詠唱した。
 私は風魔法、錬成魔法、治癒魔法以外はポンコツだけど、魔石で底上げすることはできる。

「ーーー浄化の光よ!闇を祓え!ーーー」

 ランプの比ではない、強く浄らかな光が溢れる。

「ぎッ!ぎいぃぎゃああああああああ!」

 ゴブリンマスターの悲鳴。耳が爛れそうな穢らしいそれが、迷いの暗森に響く。じゅうじゅうと音を立て、ゴブリンマスターが腐り、木々は枯れて崩れていく。ゴブリンや人狩りたちも悲鳴をあげてのたうち回っている。

「奴の弱点は闇を祓う清らかな光です。完全に力を取り戻していれば難しかったでしょうが、今でも森から出れないほど弱体化しているので、充分に効きます。このまま光を当て続ければ魂ごと消滅します!」

「やめろおおおおおっ!うがあああああっ!ーーー暗闇の……腕……よ……!我を……護れ!ー」

 木々がゴブリンマスターを包み込んでいく。
 光によって片っ端から崩れていくが、次から次へと現れてキリがない。私と魔石の魔力も無尽蔵では無い。
 このままではまずいが……風の精霊がやり遂げていてくれれば何とかなる。

「グイド!いま何時かわかりますか!?」

「は?え、あ……お、俺が中に入って二時間は経つから零時過ぎだと思う」

 私が攫われたのは夜の八時過ぎだった。

「時間稼ぎには充分なはず」

 私は片手を斧から外し、天に掲げた。

「グイド、危ないから私から離れないで下さいーーー踊れ踊れ!風よ踊れ!渦を巻き天を割れ!ーーー」

 グオオオン!詠唱と共に片手を中心にして、風が凄まじい勢いで巻き上がる。風は勢いを加速させ大気を掻き回す竜巻となり、天を覆っていた木々を吹き飛ばす。
 森の天上に穴が空く。夜空が見えたと同時に何かが降ってきた。
 ドォン!と、音を立てて到着したのは、二つの人影。長い金髪の美貌のエルフと、大柄で筋骨隆々のオーク。どちらも凄まじい憤怒の顔だ。
 グイドが惚けたように呟く。

「せ、セリオっさんと村長?」

 そう。旅に出ていて帰らないはずの、セリオリス様とオズマ様だ。風の精霊にはあらかじめ、私が攫われるようなことがあれば風魔法でお二人を連れてくるよう言っておいたのだ。
 オズマ様が私たちを見て破顔する。

「レグレース様!グイド!無事でよかった!」

「流石レグレースだ。図太くてしぶといぜ」

 セリオリス様も一瞬微笑んで……先程以上の憤怒の顔となる。

「おい。この糞玉の中に隠れてやがるのが例の塵野郎だな」

「ええ。浄化の光で倒せます」

「わかった。……おい塵野郎!よくも俺の友達に手を出したな!消え失せろ!ーーー浄化の光よ!闇を祓え!ーーー」

 ああ、これでもう大丈夫だ。エルフの枠に収まれない突然変異。我が氏族が産んだ唯一無二の存在。セリオリス様の魔力と魔法は私の比ではない。

「ーーーーーーーーーーーっ!」

 光で視界が白く染まり、ゴブリンマスターたちの断末魔が響いた。
 私は安心して……意識を手放したのだった。
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