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第三章エルフ、オークの花嫁になる
エルフ、オークの花嫁になる【16】*
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「レグレース」
これは夢だ。すぐにわかった。だって現実の彼は、私の名前を呼ばない。それに。
「レグレース、愛している」
夢の、いや妄想の彼は私を愛してくれるのだから。
「私も、私も貴方を愛しています」
夢でも嬉しい。涙が出る。キラキラした金色の目で見つめて。もっと呼んで。愛してると言って欲しい。
そして私に触れて欲しい。
妄想の彼は、私の欲望を忠実に叶える。私はただ、彼の抱擁と口付けを受け入れうっとりと目を閉じればいい。
「あっ……んんっ……」
いつのまにかお互い裸で、寝台の上にいた。夢だというのに肌の感触も温度もある。互いの勃起した性器の熱さすら生々しい。
……ああ、再会したあの時の記憶が元になっているのだろう。私が拒絶された、あの時の。
「レグレース、俺を見ろ」
「え?」
「俺だけを見て、感じていろ」
なんて都合のいい、優しい夢だろうか。私は頷いて、現実を忘れた。
大きな手が私の身体を撫でる。全身がだんだんと熱くなり、下腹が切なく疼く。
ここに、欲しい。
本来なら、性器でない場所で彼を受け入れたい。
「抱いてください」
「ああ」
彼は優しく笑って、私の脚に手をかける。私は従順に股を開き、そそり立つモノを受け入れていく。
下腹に強烈な快感が走り、意識が白くなっていった。
「レグレース、愛している」
意識が完全に途切れる直前、願いを一つ抱いた。もし現実の彼から離れることになるなら……。
「最後に私の名を呼んでください。グイド」
◆◆◆◆◆
翌朝、私は素早く朝食を食べて家を出た。流石に気まずくて彼の顔を見れないし、ろくに話せなかった。嫌な態度を取ってしまい反省している。
《いや、良い作戦だと思うよ。あいつ落ち込んでたし》
「最悪です!帰ったら謝らないと……」
《必要ないって。それより、今日はあの薬草好きと調べ物をするんだろ?》
その通りだ。私は気持ちを切り替える。オールさんと合流し、共にセリオリス様たちの屋敷にむかう。
本邸の鍵はセリオリス様とオズマ様が持っているので入れないが、別邸は図書館になっていて誰でも入れる。ただし貴重な古書などが詰まった禁書室の入室には、村長であるオズマ様か村長代理のドグさんの許可が必要だ。
現在は、許可を得たオールさん他数名が仕事の合間に手分けして調べている。エルフ語の古書も多いとのことで、助っ人として呼ばれた。私たちエルフは、神話と共に古い言語を習う。流石に一万年以上前の古エルフ語は無理だが、大体の古書は読めるだろう。
扉を開ける前、オールさんが真剣な顔で呟いた。
「何か発見できればいいのですが……」
間もなく、緑鉄国王都から調査隊が来る。本格的に、迷いの暗森を調べるためだ。
「ええ、調査する方々が少しでも安全でいられるように、しっかり調べましょう。攫われた人々の救出のためにも」
私も打てる手は打ったが、それで足りるかはわからない。
《そうそう。あれは最後の手だよ。じゃないと嫌だよ》
風の精霊に微笑みかけ、仕事に取り掛かった。
調べるのは主に、この地域の歴史、ゴブリンの被害記録、迷いの暗森とゴブリンマスターについてだ。わかったことを書き出していく。歴史、ゴブリンの被害記録はともかく、迷いの暗森とゴブリンマスターについては情報が少ない。
ゴブリンマスターは、数千年、正確には六千五百二十二年前に討伐された。どんな魔法を使い、どう倒されたのかが曖昧だ。一連の事件に関係しているという証拠はないが、どうしても無関係とは思えない。
私は朝から昼まで読み漁った。そろそろ休憩を挟もうかと言う頃、ある古書に目を引かれる。なかなかの古さのエルフ語で書かれている。
「レグレースさん、その本を読めるんですか?」
「ええ。問題ありません。……これは……ゴブリンマスターの討伐記録!」
私は急いで解読し、読み込んだ。読み終えて必要な情報の全てを書き出す頃には、夜も更けていた。
「レグレースさん、素晴らしい発見です」
「蔵書が充実しているお陰ですよ。流石はオズマ様ですね」
「ええ。それにセリオっさんも、研究のために沢山の蔵書を取り寄せて下さいましたし」
「セリオリス様が!?」
《あの勉強嫌いのセリオリスが!?》
セリオリス様と、研究。あまりにも、しっくりこない組み合わせだった。風の精霊も口をあんぐり開けている。
「意外ですよね。なんの研究かは教えて頂けないのですが、旅に出ているのもそのためだそうです。村長代理のドグと、なぜかグイドは教えてもらっているらしいですが」
「秘密の研究ですか……」
何のために?気になったが、今はそれどころではない。
「レグレースさん、片付けは私がします。先にその情報をドグに渡しに行って下さい」
「わかりました」
夜の一人行動も、結界が張られている村の中では問題ない。風の精霊もいる。
「万が一の時は、よろしくお願いします」
《無いことを祈るよ。早く終わらせよう》
「ええ」
私は急いで図書館を出てドグさんの家に向かい……しばらくして、意識を失った。
◆◆◆◆◆
嫌な臭いがする。色んな物が腐ったような生臭い臭いと、カビの臭い、あと鼻をつんざくような刺激臭もする。息をするのも苦痛だ。
それに不穏な声と、鎖のようなジャラジャラという音がする。
「ギギ!ギャッギャッギャ!」
「うぐ……うぅ……いや……」
「オラッ!もっとよがれ!」
「たす……け……」
「ギュギギッ!ギヒヒッ!」
「うみ……く、な……いやだ、いやああっ!」
私は悲鳴によって完全に覚醒し、目を開けた。
「暗い……ここは……ひっ!」
地獄としか言えない光景が広がっていた。夜目が効くエルフである身を呪いたくなる光景が。
これは夢だ。すぐにわかった。だって現実の彼は、私の名前を呼ばない。それに。
「レグレース、愛している」
夢の、いや妄想の彼は私を愛してくれるのだから。
「私も、私も貴方を愛しています」
夢でも嬉しい。涙が出る。キラキラした金色の目で見つめて。もっと呼んで。愛してると言って欲しい。
そして私に触れて欲しい。
妄想の彼は、私の欲望を忠実に叶える。私はただ、彼の抱擁と口付けを受け入れうっとりと目を閉じればいい。
「あっ……んんっ……」
いつのまにかお互い裸で、寝台の上にいた。夢だというのに肌の感触も温度もある。互いの勃起した性器の熱さすら生々しい。
……ああ、再会したあの時の記憶が元になっているのだろう。私が拒絶された、あの時の。
「レグレース、俺を見ろ」
「え?」
「俺だけを見て、感じていろ」
なんて都合のいい、優しい夢だろうか。私は頷いて、現実を忘れた。
大きな手が私の身体を撫でる。全身がだんだんと熱くなり、下腹が切なく疼く。
ここに、欲しい。
本来なら、性器でない場所で彼を受け入れたい。
「抱いてください」
「ああ」
彼は優しく笑って、私の脚に手をかける。私は従順に股を開き、そそり立つモノを受け入れていく。
下腹に強烈な快感が走り、意識が白くなっていった。
「レグレース、愛している」
意識が完全に途切れる直前、願いを一つ抱いた。もし現実の彼から離れることになるなら……。
「最後に私の名を呼んでください。グイド」
◆◆◆◆◆
翌朝、私は素早く朝食を食べて家を出た。流石に気まずくて彼の顔を見れないし、ろくに話せなかった。嫌な態度を取ってしまい反省している。
《いや、良い作戦だと思うよ。あいつ落ち込んでたし》
「最悪です!帰ったら謝らないと……」
《必要ないって。それより、今日はあの薬草好きと調べ物をするんだろ?》
その通りだ。私は気持ちを切り替える。オールさんと合流し、共にセリオリス様たちの屋敷にむかう。
本邸の鍵はセリオリス様とオズマ様が持っているので入れないが、別邸は図書館になっていて誰でも入れる。ただし貴重な古書などが詰まった禁書室の入室には、村長であるオズマ様か村長代理のドグさんの許可が必要だ。
現在は、許可を得たオールさん他数名が仕事の合間に手分けして調べている。エルフ語の古書も多いとのことで、助っ人として呼ばれた。私たちエルフは、神話と共に古い言語を習う。流石に一万年以上前の古エルフ語は無理だが、大体の古書は読めるだろう。
扉を開ける前、オールさんが真剣な顔で呟いた。
「何か発見できればいいのですが……」
間もなく、緑鉄国王都から調査隊が来る。本格的に、迷いの暗森を調べるためだ。
「ええ、調査する方々が少しでも安全でいられるように、しっかり調べましょう。攫われた人々の救出のためにも」
私も打てる手は打ったが、それで足りるかはわからない。
《そうそう。あれは最後の手だよ。じゃないと嫌だよ》
風の精霊に微笑みかけ、仕事に取り掛かった。
調べるのは主に、この地域の歴史、ゴブリンの被害記録、迷いの暗森とゴブリンマスターについてだ。わかったことを書き出していく。歴史、ゴブリンの被害記録はともかく、迷いの暗森とゴブリンマスターについては情報が少ない。
ゴブリンマスターは、数千年、正確には六千五百二十二年前に討伐された。どんな魔法を使い、どう倒されたのかが曖昧だ。一連の事件に関係しているという証拠はないが、どうしても無関係とは思えない。
私は朝から昼まで読み漁った。そろそろ休憩を挟もうかと言う頃、ある古書に目を引かれる。なかなかの古さのエルフ語で書かれている。
「レグレースさん、その本を読めるんですか?」
「ええ。問題ありません。……これは……ゴブリンマスターの討伐記録!」
私は急いで解読し、読み込んだ。読み終えて必要な情報の全てを書き出す頃には、夜も更けていた。
「レグレースさん、素晴らしい発見です」
「蔵書が充実しているお陰ですよ。流石はオズマ様ですね」
「ええ。それにセリオっさんも、研究のために沢山の蔵書を取り寄せて下さいましたし」
「セリオリス様が!?」
《あの勉強嫌いのセリオリスが!?》
セリオリス様と、研究。あまりにも、しっくりこない組み合わせだった。風の精霊も口をあんぐり開けている。
「意外ですよね。なんの研究かは教えて頂けないのですが、旅に出ているのもそのためだそうです。村長代理のドグと、なぜかグイドは教えてもらっているらしいですが」
「秘密の研究ですか……」
何のために?気になったが、今はそれどころではない。
「レグレースさん、片付けは私がします。先にその情報をドグに渡しに行って下さい」
「わかりました」
夜の一人行動も、結界が張られている村の中では問題ない。風の精霊もいる。
「万が一の時は、よろしくお願いします」
《無いことを祈るよ。早く終わらせよう》
「ええ」
私は急いで図書館を出てドグさんの家に向かい……しばらくして、意識を失った。
◆◆◆◆◆
嫌な臭いがする。色んな物が腐ったような生臭い臭いと、カビの臭い、あと鼻をつんざくような刺激臭もする。息をするのも苦痛だ。
それに不穏な声と、鎖のようなジャラジャラという音がする。
「ギギ!ギャッギャッギャ!」
「うぐ……うぅ……いや……」
「オラッ!もっとよがれ!」
「たす……け……」
「ギュギギッ!ギヒヒッ!」
「うみ……く、な……いやだ、いやああっ!」
私は悲鳴によって完全に覚醒し、目を開けた。
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