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第三章エルフ、オークの花嫁になる
エルフ、オークの花嫁になる【14】
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なし崩しに始まった同居生活は、とても穏やかで幸せなものだった。
《まさか旅の一番の理由が恋とは思わなかったよ。しかしレグレースって、恋するとそんなホワホワした顔になるんだねえ》
回復した風の精霊も呆れるほど、私は浮かれている。
彼は私を無視しなくなった。それどころか、積極的に私の世話を焼いてくれる。
「飯は俺が作る。エルフは野菜好きだったよな?食えない物があったらちゃんと言えよ」
「古着だけど、アンタが着れそうな服があったから置いておく」
「掃除洗濯をアンタが?俺がやった方が早いからいい」
同居は不本意だろうに、気を使わせて申し訳ない。遠慮しようとしたら「追い出されたくなかったら言う通りにしろ」と睨まれてしまった。家事もあまり手伝わせてもらえない。
その分、金銭や仕事で返そうとした。一応家賃は受け取ってもらえたが、破格の金額だ。仕事に関しては論外。彼にくっついて畑仕事を手伝おうとして断られてしまう。側にいれなくて落ち込んだが。
「オークの馬鹿力を使って作業するから危ないんだ!アンタが嫌いなわけじゃないからな!勘違いするなよ!」
と、念を押されたのでそこまで落ち込まずに済んだ。
《素直じゃない奴だなあ。『危ないし、レグレースが気になって仕事にならない。それに、他のオークをレグレースに近づけたくない』って言えばいいのに。僕の姿が見えて声が届くなら説教してやるところだよ》
「まさか。私がオークに比べて貧弱だからでしょう。優しい方なんですよ」
《うーん。ただの拗らせオークなだけな気がするけど……》
なにを拗らせてるんだろう?病にかかっている様子もないが。ともかく、お世話になっているのに何もしない訳にはいかない。
そこでドグさんと相談し、私の技術を活かした村の役に立つ仕事を始めた。現在の村は人間やドワーフやホビットなどオーク以外も沢山住んでいるので、彼らの職分を侵さないよう慎重に決めた。
仕事は大きく三つ。魔石の生成販売、魔道具の修理と調整、宝飾品の錬成と販売だ。
魔石は高価だが、需要がある。生活必需品である魔道具を動かすのに必要なのだ。ただし、魔石を作るための錬成魔法は、繊細な魔力操作技術と大量の魔力がいる。
魔道具の修理と調整も同じだ。こちらも、魔法使いの中でも専門家でなければ出来ない。村に居た人間やホビットの魔法使いたちは、応急処置しかできなかった。とても喜ばれた。
宝飾品も同じ理由で喜ばれた。ドワーフたちは素晴らしい宝飾品も作るが、武具や道具作りの方が好きだ。エルフ風の繊細なアクセサリーは大好評だった。
仕事を開始しつつ、積極的に村人と接した。二十年前と同じく優しい方々ばかりだ。
《確かにこの村はいい奴らばっかりだけど、レグレースを花嫁か花婿にしたいと思ってる奴も多い。あのオーク以外と二人っきりにならないよう気をつけて》
「あはは。まさか。私はモテないから大丈夫ですよ」
《……心配だなあ》
◆◆◆◆◆
逗留から十日経つ頃には、私はすっかり村に馴染んだ。
今日は北南にある森の中で、宝飾品の材料になる原石や木を採取していた。
昼過ぎ。運良く火焔石がいっぱい採れる岩を見つけ、夢中で採取していた。
《レグレース、そろそろ戻ろう。アイツらから離れすぎだよ》
「わかりました。つい、夢中で進みすぎましたね」
風の精霊はもちろん、村の皆さまと一緒だ。彼らは、食料や染料になる木の枝、木の実、茸などを採りにきたそうだ。目的は違うが、互いに一定以上離れないよう行動している。
私が村に到着したあの日から、ゴブリンと人狩りの被害は収まっていた。私がゴブリンを百匹以上倒したおかげと言われている。
しかし、まだ油断できない。私は匂い袋を握りしめながら、村に来た翌日の出来事を思い出す。
◆◆◆◆◆
私が村に来た翌日、ドグさんは村の皆さまを集めた。私の紹介とゴブリン討伐のいきさつを説明し、厳しい声で告げた。
「レグレースさんが人狩りを五人、ゴブリンを百匹以上倒してくれたが、恐らくこれで終わりじゃない。村長代理としての命令だ。全員、ゴブリン避けの匂い袋を肌身離さずつけろ。村から外に出る時は必ず二人以上で行動しろ。特に、十五歳以下の子供たちには必ず大人が付き添うように。そして、外に出る時はオールに目的地を報告してからにしろ」
ざわざわと動揺が走る。ドグさんは淡々と続けた。
「昨日、騎士団から報告があった。この半月の間、ゴブリンの巣や人狩りから助け出されたのは、攫われた人数の二割以下だそうだ。殺されたり売られた者もいただろうが、少な過ぎる」
あちこちで悲鳴が上がる。無理もない。まだ村では被害者が出ていないが、他人事ではない。
「そういえば知り合いの妹さんが行方不明に……」
「子供は外に出さない方がいいんじゃないか?」
「俺たち大人のオークも油断できねえな」
ゴブリンは決して強くはない。十匹程度なら、オーク一人で余裕で倒せる。が、奴らは集団で獲物を襲うし、繁殖力と残虐性は脅威的だ。
ゴブリンを一匹みたら三十匹いると思え。皆殺しにしなければ安心できない。
「もう一つ。迷いの暗森には絶対行くな。近くを調査した奴らが、ゴブリンと人狩りらしき影を見たそうだ」
《まさか旅の一番の理由が恋とは思わなかったよ。しかしレグレースって、恋するとそんなホワホワした顔になるんだねえ》
回復した風の精霊も呆れるほど、私は浮かれている。
彼は私を無視しなくなった。それどころか、積極的に私の世話を焼いてくれる。
「飯は俺が作る。エルフは野菜好きだったよな?食えない物があったらちゃんと言えよ」
「古着だけど、アンタが着れそうな服があったから置いておく」
「掃除洗濯をアンタが?俺がやった方が早いからいい」
同居は不本意だろうに、気を使わせて申し訳ない。遠慮しようとしたら「追い出されたくなかったら言う通りにしろ」と睨まれてしまった。家事もあまり手伝わせてもらえない。
その分、金銭や仕事で返そうとした。一応家賃は受け取ってもらえたが、破格の金額だ。仕事に関しては論外。彼にくっついて畑仕事を手伝おうとして断られてしまう。側にいれなくて落ち込んだが。
「オークの馬鹿力を使って作業するから危ないんだ!アンタが嫌いなわけじゃないからな!勘違いするなよ!」
と、念を押されたのでそこまで落ち込まずに済んだ。
《素直じゃない奴だなあ。『危ないし、レグレースが気になって仕事にならない。それに、他のオークをレグレースに近づけたくない』って言えばいいのに。僕の姿が見えて声が届くなら説教してやるところだよ》
「まさか。私がオークに比べて貧弱だからでしょう。優しい方なんですよ」
《うーん。ただの拗らせオークなだけな気がするけど……》
なにを拗らせてるんだろう?病にかかっている様子もないが。ともかく、お世話になっているのに何もしない訳にはいかない。
そこでドグさんと相談し、私の技術を活かした村の役に立つ仕事を始めた。現在の村は人間やドワーフやホビットなどオーク以外も沢山住んでいるので、彼らの職分を侵さないよう慎重に決めた。
仕事は大きく三つ。魔石の生成販売、魔道具の修理と調整、宝飾品の錬成と販売だ。
魔石は高価だが、需要がある。生活必需品である魔道具を動かすのに必要なのだ。ただし、魔石を作るための錬成魔法は、繊細な魔力操作技術と大量の魔力がいる。
魔道具の修理と調整も同じだ。こちらも、魔法使いの中でも専門家でなければ出来ない。村に居た人間やホビットの魔法使いたちは、応急処置しかできなかった。とても喜ばれた。
宝飾品も同じ理由で喜ばれた。ドワーフたちは素晴らしい宝飾品も作るが、武具や道具作りの方が好きだ。エルフ風の繊細なアクセサリーは大好評だった。
仕事を開始しつつ、積極的に村人と接した。二十年前と同じく優しい方々ばかりだ。
《確かにこの村はいい奴らばっかりだけど、レグレースを花嫁か花婿にしたいと思ってる奴も多い。あのオーク以外と二人っきりにならないよう気をつけて》
「あはは。まさか。私はモテないから大丈夫ですよ」
《……心配だなあ》
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逗留から十日経つ頃には、私はすっかり村に馴染んだ。
今日は北南にある森の中で、宝飾品の材料になる原石や木を採取していた。
昼過ぎ。運良く火焔石がいっぱい採れる岩を見つけ、夢中で採取していた。
《レグレース、そろそろ戻ろう。アイツらから離れすぎだよ》
「わかりました。つい、夢中で進みすぎましたね」
風の精霊はもちろん、村の皆さまと一緒だ。彼らは、食料や染料になる木の枝、木の実、茸などを採りにきたそうだ。目的は違うが、互いに一定以上離れないよう行動している。
私が村に到着したあの日から、ゴブリンと人狩りの被害は収まっていた。私がゴブリンを百匹以上倒したおかげと言われている。
しかし、まだ油断できない。私は匂い袋を握りしめながら、村に来た翌日の出来事を思い出す。
◆◆◆◆◆
私が村に来た翌日、ドグさんは村の皆さまを集めた。私の紹介とゴブリン討伐のいきさつを説明し、厳しい声で告げた。
「レグレースさんが人狩りを五人、ゴブリンを百匹以上倒してくれたが、恐らくこれで終わりじゃない。村長代理としての命令だ。全員、ゴブリン避けの匂い袋を肌身離さずつけろ。村から外に出る時は必ず二人以上で行動しろ。特に、十五歳以下の子供たちには必ず大人が付き添うように。そして、外に出る時はオールに目的地を報告してからにしろ」
ざわざわと動揺が走る。ドグさんは淡々と続けた。
「昨日、騎士団から報告があった。この半月の間、ゴブリンの巣や人狩りから助け出されたのは、攫われた人数の二割以下だそうだ。殺されたり売られた者もいただろうが、少な過ぎる」
あちこちで悲鳴が上がる。無理もない。まだ村では被害者が出ていないが、他人事ではない。
「そういえば知り合いの妹さんが行方不明に……」
「子供は外に出さない方がいいんじゃないか?」
「俺たち大人のオークも油断できねえな」
ゴブリンは決して強くはない。十匹程度なら、オーク一人で余裕で倒せる。が、奴らは集団で獲物を襲うし、繁殖力と残虐性は脅威的だ。
ゴブリンを一匹みたら三十匹いると思え。皆殺しにしなければ安心できない。
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