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第三章エルフ、オークの花嫁になる

エルフ、オークの花嫁になる【12】

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「え?」

 今も昔も?私を知ってるのか?
 ハッと我に返った様子で、また目を逸らされた。あの金色の目に映らないのが悲しい。

「……とにかく、アンタは何も悪くない。此処から出ないでくれ。ゴブリンがまだいるかもしれない」

「……わかりました」

 気まずい沈黙がおりたが、彼の仲間たちの明るい声が響く。

「そうそう。エルフの兄さん、気にしないで。こいつまだ思春期なんだよ。あ、俺はドグって言う。村長代理でもあるんでよろしく」

「誰が思春期だ!ふざけんな!」

「僕はオールといいます。薬草の栽培と研究をしています。貴方は二十年ほど前にも村に来た方ですよね?セリオっさんの友人だったかと思いますが……」

「セリオっさん?ああ、セリオリス様のあだ名ですね。そうです。私はレグレースと申します」

「おい、お前も名乗れ」

「……グイドだ。野菜作りが生業だ」

 グイド。彼に似合う響きだ。気安く呼ばない方がいいだろうけど。
 そこからは、事務的な話になった。私の身元の確認、ゴブリンに襲われるまでの経緯、街道の様子などを話す。
 彼らは深刻な顔になった。

「うーん。やっぱりおかしいな。三日前、ゴブリンの大規模討伐があったばかりだぞ。人狩りの取り締まりも強化したはずだ」

「ああ、それにこの一帯は徹底的に調査されていた。繁殖するのは不可能なはずだ。人狩りたちだって隠れられやしない。なのにまだ宿場や街道に現れるのは……」

「……ひょっとしたら『迷いの暗森』にでも拠点を作ってるんじゃないかな?」

 オールさんの言葉に彼が声を荒げた。

「まさか!入れば二度と出れないぞ!伝説のゴブリンマスターでもあるまいし!」

「迷いの暗森?ゴブリンマスター?」

 迷いの暗森。村から北の奥地にある、捻じ曲がった木々と闇だけが満ちる森。中に入ると、どんな生き物も出られず死ぬまで彷徨うという。
 唯一の例外が、魔王侵略時代にいたとされる伝説のオーク、ゴブリンマスターとその配下たち。ゴブリンマスターは、オークでは珍しいことに魔法使いだったという。

「邪悪な大魔法使いだ。誰よりも大量のゴブリンを使役して悪逆非道の限りを尽くした。迷いの暗森もゴブリンマスターが作ったらしい。拠点にしてゴブリンを繁殖させて大暴れしたそうだ」

「そんな恐ろしい伝説が……」

「まあ、ここで俺らが話しててもわからねえ。後にしよう。ところで、レグレースさんはどうしてこの村に来たんだ?オズマ様とセリオッさんに会いに来たのか?」

「なら残念でしたね。お二人はまだお帰りになりません」

「確かにそれも目的の一つでしたが、二十年前に助けてくれた子供とまた会いたくて……」

「「その話くわしく!」」

 私は村への訪問理由を話した。彼は無言だったが、ドグさんとオールさんはとても聞き上手だった。そのせいで二十年前の出来事と、それ以来抱くようになった妄想も含め、赤裸々に話してしまう。あのオークの子の前で発情したことすら。
 我ながら浅ましい。
 話すうちに、完全に頭が冷えていく。私は何を浮かれていたんだ。

「馬鹿な妄想を抱いて、グイ……そちらの方を襲ってしまいました。あまりにも妄想の旦那様にそっくりだからと……さぞご不快でしたでしょう。どうお詫びすればいいか……」

 沈黙していた彼は、目に見えて狼狽えだした。

「……いや、その、不快じゃねえよ……襲われてねえし……」

「ええ。僕らも見てましたけど、どう見てもお互い同意でしたよ」

「むしろコイツの方が鼻と股間膨らませてたよな」

「黙れ!お前らあっちにいけ!おい!離っ……むがもが!」

 オールさんが彼を抑え、手拭いで口を塞いだ。

「グイド、黙ってろ。話が進まないから、俺たちが説明する」

「説明?」

「はい。僕らもある程度はわかってますから」

「まず、二十年前にレグレースさんを助けた子供はグイドです」

 そう言って、もがく彼を指差した。

「えっ……えええええ!あの子が!?いやいや、まだ二十年しか経ってません!あの子は百歳くらいでしたよ!」

「やっぱりエルフって、俺らと時間の感覚が違うな」

「あ、そうでした」

 ようやく思い出した。私たちエルフは、オークよりはるかに長命だとということを。エルフの寿命は血の濃さでの差が大きいが、それでも六百年は生きる。オークは長くて百五十年。かなりの差だ。

「セリオっさんも『この間の話』が十年前とかザラだったなあ。ちなみに当時のコイツは八歳くらいです。めっちゃガキ。とっくに成人した今もガキ臭いけど」

「むがああー!もがー!」

「八歳……エルフなら赤ちゃん……」

「もがむんがむう!」

 二十年前、その赤ちゃんの前で私は……。

「いやいや。その時発情したのは、外で盛ったオズマ様とセリオっさんと、コイツのせいです」

「え?」

「はい。グイドが貴方に恋したせいです」

「むがもががぐが!」

「恋っ!?え?どういうことですか!?」
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