【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

文字の大きさ
上 下
46 / 96
第三章エルフ、オークの花嫁になる

エルフ、オークの花嫁になる【11】*

しおりを挟む
「一応確認させてもらうけど、君は最寄田静香さん……で間違いないよね?」

「は、はい……」

 わたしは頷く。

「ふむ……四日目か、やっと出会うことが出来て良かったよ……」

 茶色の髪をした青年は胸に手を当てて、爽やかにウインクをしてくる。なかなかに整った顔立ちをしている。短髪はきれいにセットされており、清潔さを感じさせる。まさに世の女性の多くにとって理想に近いイケメンだ。だがしかし……。

「……」

 わたしは自然と距離を置こうとする。青年がそれに気が付いて、首を傾げる。

「うん? どうかした?」

「いや、なんというか……」

「ひょっとして……警戒をしている感じ?」

「ま、まあ、そうですね……」

 一昨昨日の一昨日、一昨日の昨日、昨日の今日だし、しょうがないだろう。わたしは素直に頷くことにする。

「ふふっ……俺は決して怪しい者じゃないよ」

「そ、そうですかね⁉」

 わたしは思わず大声を上げてしまう。ブレザー姿の高校生が集まっている中で、宇宙服を着ている男性は怪しい寄りだと思うが。ここは種子島宇宙センターではない。

「そうだよ。だからそんなに警戒をしないでくれ」

「……何故にわたしの名前を知っているんですか?」

「それはもちろん、君に用があるからだよ」

「よ、用があるって……もちろん個人差はあると思いますが、女子は宇宙にそこまで興味を持たないというか……宇宙飛行士さんにそこまで憧れはないというか……」

「! ははははは……!」

 青年は声高らかに笑う。わたしはちょっとムッとしながら尋ねる。

「な、なにがおかしいんですか?」

「いや、悪いね……俺は宇宙飛行士じゃないよ。こういうものだ」

 青年は宇宙服の左胸のマークを見せてくる。

「え? マー、マーク……? ええっと……?」

「ああ、俺のコードネームはデストロイ=ノリタカという。スペースポリスマンさ」

「ス、スペースポリスマン⁉」

 わたしは思いがけないフレーズに驚く。

「そうだよ、ごくごく普通のね」

 ノリタカと名乗った青年は髪をかき上げる。

「スペースポリスマンはごくごく普通ではありませんよ!」

「そうかい?」

「そうですよ! っていうか、初めて言いましたよ、そのフレーズ!」

「初めて?」

 ノリタカさんは驚いて目を丸くする。

「ええ、初めてですよ!」

「トウキョウはこんなに大きな街だというのに?」

 ノリタカさんは両手を大きく広げて、周囲を見回す。

「はい」

「近くにある新宿駅という場所はこの世界で一番の利用者数だと聞いたけど?」

「そ、それはそうらしいですけど……」

「それならば中にはいるだろう、スペースポリスマンの一人や二人くらい」

「ポ、ポリスマンは一杯いますけど、スペースはいないんじゃないですか……そんないちいち確認したりとかはしませんから知らないですけど」

「スペースポリスマンがいないって? ふむ、この日本という国……情報以上に治安が良いようだね……」

 ノリタカさんは腕を組んで感心したように呟く。

「……あの、もういいですか? ホームルームが始まってしまいますので……」

 わたしはその場から離れようとする。

「あ、ちょっと待ってくれ……!」

「はい?」

 わたしは呼び止められ、振り返ってしまう。

「………」

 ノリタカさんはなにやら取り出した機器を確認し、周囲を伺う。

「あ、あの……?」

「……うん、とりあえずは大丈夫のようだね」

 ノリタカさんは頷く。

「は、はあ……?」

「……そうだな……放課後にまた話をしたいのだけど……お願い出来るかな?」

「え、ええ……」

 わたしは露骨に困惑する。

「おや、困惑しているようだね。どうしてかな?」

「いや、どうしてかなって言われても……」

「まだ不信感は拭えていないかな?」

「不信感まみれですよ。大体コードネームってなんですか?」

「作戦を遂行する上での名前だよ」

「それはなんとなく分かりますが……本名は?」

「わけあってそれは明かせない」

「ええ……」

 ノリタカだというから、日本系なのかな……。しかし、本名不詳のスペースポリスマンとは……どうしたものか……。

「……マズいかな?」

「いや、いいです。失礼します」

「待っているよ」

 わたしは軽く会釈をし、その場を後にして、教室に向かう。夕方になり、ホームルームも終わる。この恥ずかしいイケメンと鉢合わせしたりしないように裏門から帰れば……。

「げっ……」

 裏門から帰ろうとしたわたしは顔をしかめる。ノリタカさんが何故かいたからだ。

「やあ!」

「……何故ここに?」

「いや、俺もホームルームが早目に終わったからね……この辺りを調査していた」

 ノリタカさんは機器を地面などにかざしながら歩き回っている。

「……そ、そういえば、もしかしてなんですけど……」

「ああ、俺はこの学園の転入生だよ」

「せ、制服が宇宙服で良いんですか?」

「特例で認めてもらったよ」

「そんなことが可能なんですか?」

「可能だ。なんといってもスペースポリスマンだからね」

「はあ……調査って?」

「良い質問だ。異常がないかをチェックしていたんだ」

「い、異常ですか?」

「そうだ……お、異常反応……現れたな、エイリアンだ。さあ、共に迎撃しよう」

「はいいいいっ⁉」

 ノリタカさんの提案にわたしは驚く。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

触手生物に溺愛されていたら、氷の騎士様(天然)の心を掴んでしまいました?

雪 いつき
BL
 仕事帰りにマンホールに落ちた森川 碧葉(もりかわ あおば)は、気付けばヌメヌメの触手生物に宙吊りにされていた。 「ちょっとそこのお兄さん! 助けて!」  通りすがりの銀髪美青年に助けを求めたことから、回らなくてもいい運命の歯車が回り始めてしまう。  異世界からきた聖女……ではなく聖者として、神聖力を目覚めさせるためにドラゴン討伐へと向かうことに。王様は胡散臭い。討伐仲間の騎士様たちはいい奴。そして触手生物には、愛されすぎて喘がされる日々。  どうしてこんなに触手生物に愛されるのか。ピィピィ鳴いて懐く触手が、ちょっと可愛い……?  更には国家的に深刻な問題まで起こってしまって……。異世界に来たなら悠々自適に過ごしたかったのに!  異色の触手と氷の(天然)騎士様に溺愛されすぎる生活が、今、始まる――― ※昔書いていたものを加筆修正して、小説家になろうサイト様にも上げているお話です。

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

秘めやかな愛に守られて【目覚めたらそこは獣人国の男色用遊郭でした】

カミヤルイ
BL
目覚めたら、そこは獣人が住む異世界の遊郭だった── 十五歳のときに獣人世界に転移した毬也は、男色向け遊郭で下働きとして生活している。 下働き仲間で猫獣人の月華は転移した毬也を最初に見つけ、救ってくれた恩人で、獣人国では「ケダモノ」と呼ばれてつまはじき者である毬也のそばを離れず、いつも守ってくれる。 猫族だからかスキンシップは他人が呆れるほど密で独占欲も感じるが、家族の愛に飢えていた毬也は嬉しく、このまま変わらず一緒にいたいと思っていた。 だが年月が過ぎ、月華にも毬也にも男娼になる日がやってきて、二人の関係性に変化が生じ──── 独占欲が強いこっそり見守り獣人×純情な異世界転移少年の初恋を貫く物語。 表紙は「事故番の夫は僕を愛さない」に続いて、天宮叶さんです。 @amamiyakyo0217

後輩が二人がかりで、俺をどんどん責めてくるー快楽地獄だー

天知 カナイ
BL
イケメン後輩二人があやしく先輩に迫って、おいしくいただいちゃう話です。

神官、触手育成の神託を受ける

彩月野生
BL
神官ルネリクスはある時、神託を受け、密かに触手と交わり快楽を貪るようになるが、傭兵上がりの屈強な将軍アロルフに見つかり、弱味を握られてしまい、彼と肉体関係を持つようになり、苦悩と悦楽の日々を過ごすようになる。 (誤字脱字報告不要)

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

処理中です...