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第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【10】*

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 元王太子であり、一定の人望のあるシスルは存在自体が不穏の種だ。処刑するか、生涯幽閉するしかない。
 アマリリスの今回の訪問と交渉は、兄を罰すると同時に生かすためだったのだろう。
 いやまあ、あそこまでしたのは嗜虐趣味の発露のような気もするが。絶対興奮してたよな。あの女王様。
 脱線しかけた意識を戻して告げる。

「お前、いい男になるぜ。次はまともな恋をして、相手を大事にすることだってできるだろう」

「な、なにを……」

「だけどな、俺に抱かれればそんな風に誰かを愛することは出来なくなる。お前の身体も心も全部、死ぬまで俺のものになる。オークの雄は花嫁を一生離さない」

 オグルはあえてシスルを押し倒し、下腹に触れた。発達した腹筋におおわれている。人間の雄の、武人の身体だ。たまらなくて、口内に唾液があふれる。飲み込む音が妙に響いた。オグルは、急な接触にびくりと身体が揺れるのも構わずねっとりと撫で続け、己の股間の膨らみを見せつける。

「わかるか?ここに俺の子種を注いでお前の身体を変えるんだ。二度と女を抱けない身体になる。そして、身体が変われば心も変わる。……その覚悟がない奴が、軽々しい真似をするな」

 シスルは黙り込んだ。驚き、呆気に取られている様子だ。
 オグルはそっと身体を離し、端に寄せていた上掛けを被せてやった。

「何年かしたら逃してやる。それまでは俺が守る。……とにかく今は休め」

 だがシスルは上掛けを掴んで放り投げ、オグルの身体に抱きついた。

「おい!やめ……」

 そしてオグルの顔を掴んでキスをした。あまりに下手くそで、牙に唇をぶつけただけだったが。

「痛っ!」

「馬鹿!怪我はしてないか?」

 口を押さえたシスルは、キッとオグルを睨んだ。緑色の目は涙でエメラルドのように光る。思わずオグルは見惚れてしまった。

「さっきから言っている!私は覚悟している!全てを失った身だ!変わることなど怖くない!言い訳ばかりして!貴様こそ私を抱く勇気がない……いいや、私が嫌なのだろう」

 ぼろぼろと涙がこぼれていく。雫は光をはじいて、あまりにまばゆく輝く。それはシスルの怒りの輝き。
 そして。

「私に惚れたと言った癖に。嘘吐きめ」

 そして、悲しみの輝きだった。

「ふん!私は嫌われてばかりだな!」

「シスル王子!それは違う!」

「何が違うんだ!私にはもう貴様しかないというのに……私が嫌なら嫌と言え!形ばかりの婚約者だと……んんっ!」

 オグルは痛々しいことばかり言う口を己の唇と舌でふさいだ。たちまち、シスルは大人しくなっていく。舌と舌が絡み合ういやらしい音が響く。

「んぁっ!……んちゅっ……!」

 シスルの唇と舌は人間らしく柔らかく、唾液は甘美な味がする。綺麗に並んだ歯ごと……いや、全身まとめて食ってやりたい。

「んぐっ……!んん……あっ……ふぁ……んぁ……はぁ……ふあぅ……」

 口を離すと、トロンと潤んだ眼差し。素直で無垢すぎる心。快楽に弱すぎる身体。可哀想で可愛い人間の男。
 守らねば。俺の花嫁だ。俺のものだ。俺が大事にしなければならない。
 オグルは自分の心を認めた。本気で惚れてしまった。自分たち緑鉄国のオークを蔑み、殺し合った赤花国の王子だとわかった上で愛している。ほとぼりが冷めても亡命などさせるものか。
 この男を自分だけの花嫁にして孕ませる。逃がすものか。
 想いを込めてもう一度口付けた。

「うぶっ……んあぁ……あ…。んくっ……はぁ……」

 意識して唾液を流し込む。オークの唾液は他種族にとって媚薬だ。どろりと蕩けていく顔を見つめながら、慰撫するように背中を撫でて抱きしめる。

「んおっ……あ……んくっ……くちゅっ……んんぅ……」

 唾液をたっぷりと飲ませ、口内を愛撫する。互いの腹の間で再びシスルの逸物が固くなってから、ようやく解放してやった。

「俺はお前を抱きたい。孕ませて一生離したくない……シスル王子……シスル、愛している。俺の花嫁になってくれ」

 花嫁はただ頷き、オグルの身体を抱き返した。
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