【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【9】*

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「ひぁ……はぁっ……はぁっ……」

「身体を拭く。もう少し我慢してくれ」

 余韻に浸るシスルの身体をずらして仰向けにする。シスルはぼんやりと、オグルが自分の股間を拭くのを見ていたが。

「……すまない。助かった」

 小さな感謝の言葉に胸が熱くなる。

「気にするな。ただの介抱だ。……幸い怪我はしてないようだが、痛みはないか?」

 シスルはオグルの言葉に表情を和らげ、ふわりと花開くように微笑んだ。

「……ありがとう。大丈夫だ。今度こそ、後は自分で出来……」

 オグルは、初めて見るシスルの、嘲笑でも作り笑顔でもない笑みに固まってしまった。シスルはオグルの動揺に気づかぬ様子で半身を起こし、同じように固まった。
 しまった。
 木漏れ日の輝きの目は、布越しでもはっきり主張したオグルの股間に釘付けだ。

「……な……わ、わた、私を、見て、そうなったのか?」

 カアっと赤らむ顔から身体ごと目を逸らし、今更だが股間を手で隠した。

「すまん!すぐ出ていく!後で食事を運ばせるから休んで……」

 慌てベッドから降りようとしたが、鍛えられた腕が腰にすがりついて阻まれた。しかもあろうことか、その手は服の上からも明らかなほど張り詰めた股間を撫でた。

「か、借りばかり作るのは、私の矜持に反する……だから……手伝ってやる」

 オグルは、布越しの手の感触と言葉だけで射精しそうだったが何とか鎮め、シスルの手を取って振り返った。

「気にするな。お前はそんな事をしなくていい」

「駄目だ。借りを作ったままになる」

「ただの介抱だ。貸し借りにはならない。いいから一度休め」

「嫌だ。私は……」

 シスルはまだしがみついてくる。固い声でそれを制した。

「駄目だ。お前に無理はさせたくない」

 緑色の目が怒りに燃えた。

「勝手に決めるな!無理ではない!私にも貴様を介抱させろ!」

「いい加減にしろ!俺はオークだ!抜くだけで終わらないのがわからないのか!」

 明け透けな叫びに、シスルは一瞬ためらいつつも叫び返した。

「か、構わない!覚悟の上で言ってる!」

 決心は鈍りそうにない。
 頑固者め。オグルは逡巡の後、腹をくくった。

「シスル王子、元婚約者はどんな人だった?今でも愛しているんだろう?」

「な、なにをいきなり。話を逸らすな」

「いいから答えろ」

 シスルは暗い表情で顔をうつむけた。

「……私を捨てた女など……」

「惚れた相手をそんな風に言うな。伝え方は盛大に間違ってたらしいが、愛していたのは本当なんだろう?お前にとってどんな人だった?」

 しばしの沈黙の後、シスルはゆっくりと顔を上げて口を開いた。ほろほろと、寂しげな声がこぼれる。

「……ラベンナは野の花のような美しさと優しさを持つ人だった。聡明だが、驕るようなところはなく誰に対しても穏やかで……彼女が私の前で声を荒げたのは、あの時だけだった」

 シスルは一度言葉を切る。じっと自分の内面を見つめている様子だった。

「思えば私は、ラベンナに甘えていたのだ。どう扱っても私を愛してくれるはずだと……彼女だけではない。アマリリスや臣下たちに対してもそうだった。ただ、己の信じるまま行動すれば、愛も忠誠も捧げられる。それが当たり前だと思い込んでいた」

 その結果がこれだ。王太子の座を追われ、蔑み殺し合ったオークの元に下げ渡された。

「……私は彼女たちを裏切り者と罵ったが、裏切られて当然だな。彼女たちには彼女たちの考えと立場と……心があるというのに……考えようともしなかった」

「ああ、確かにそうだな。だが、お前は自分の過ちを受け止めて反省するだけの器がある。戦場で配下を守った度胸と胆力もだ。だからこそ、アマリリス一世陛下はお前が生き残れる道を残したんだろう」

 シスルの目と目が合う。間違いないと頷いてやる。そうでなければおかしい。
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