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第二章王太子、オークの花嫁になる
王太子、オークの花嫁になる【9】*
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「ひぁ……はぁっ……はぁっ……」
「身体を拭く。もう少し我慢してくれ」
余韻に浸るシスルの身体をずらして仰向けにする。シスルはぼんやりと、オグルが自分の股間を拭くのを見ていたが。
「……すまない。助かった」
小さな感謝の言葉に胸が熱くなる。
「気にするな。ただの介抱だ。……幸い怪我はしてないようだが、痛みはないか?」
シスルはオグルの言葉に表情を和らげ、ふわりと花開くように微笑んだ。
「……ありがとう。大丈夫だ。今度こそ、後は自分で出来……」
オグルは、初めて見るシスルの、嘲笑でも作り笑顔でもない笑みに固まってしまった。シスルはオグルの動揺に気づかぬ様子で半身を起こし、同じように固まった。
しまった。
木漏れ日の輝きの目は、布越しでもはっきり主張したオグルの股間に釘付けだ。
「……な……わ、わた、私を、見て、そうなったのか?」
カアっと赤らむ顔から身体ごと目を逸らし、今更だが股間を手で隠した。
「すまん!すぐ出ていく!後で食事を運ばせるから休んで……」
慌てベッドから降りようとしたが、鍛えられた腕が腰にすがりついて阻まれた。しかもあろうことか、その手は服の上からも明らかなほど張り詰めた股間を撫でた。
「か、借りばかり作るのは、私の矜持に反する……だから……手伝ってやる」
オグルは、布越しの手の感触と言葉だけで射精しそうだったが何とか鎮め、シスルの手を取って振り返った。
「気にするな。お前はそんな事をしなくていい」
「駄目だ。借りを作ったままになる」
「ただの介抱だ。貸し借りにはならない。いいから一度休め」
「嫌だ。私は……」
シスルはまだしがみついてくる。固い声でそれを制した。
「駄目だ。お前に無理はさせたくない」
緑色の目が怒りに燃えた。
「勝手に決めるな!無理ではない!私にも貴様を介抱させろ!」
「いい加減にしろ!俺はオークだ!抜くだけで終わらないのがわからないのか!」
明け透けな叫びに、シスルは一瞬ためらいつつも叫び返した。
「か、構わない!覚悟の上で言ってる!」
決心は鈍りそうにない。
頑固者め。オグルは逡巡の後、腹をくくった。
「シスル王子、元婚約者はどんな人だった?今でも愛しているんだろう?」
「な、なにをいきなり。話を逸らすな」
「いいから答えろ」
シスルは暗い表情で顔をうつむけた。
「……私を捨てた女など……」
「惚れた相手をそんな風に言うな。伝え方は盛大に間違ってたらしいが、愛していたのは本当なんだろう?お前にとってどんな人だった?」
しばしの沈黙の後、シスルはゆっくりと顔を上げて口を開いた。ほろほろと、寂しげな声がこぼれる。
「……ラベンナは野の花のような美しさと優しさを持つ人だった。聡明だが、驕るようなところはなく誰に対しても穏やかで……彼女が私の前で声を荒げたのは、あの時だけだった」
シスルは一度言葉を切る。じっと自分の内面を見つめている様子だった。
「思えば私は、ラベンナに甘えていたのだ。どう扱っても私を愛してくれるはずだと……彼女だけではない。アマリリスや臣下たちに対してもそうだった。ただ、己の信じるまま行動すれば、愛も忠誠も捧げられる。それが当たり前だと思い込んでいた」
その結果がこれだ。王太子の座を追われ、蔑み殺し合ったオークの元に下げ渡された。
「……私は彼女たちを裏切り者と罵ったが、裏切られて当然だな。彼女たちには彼女たちの考えと立場と……心があるというのに……考えようともしなかった」
「ああ、確かにそうだな。だが、お前は自分の過ちを受け止めて反省するだけの器がある。戦場で配下を守った度胸と胆力もだ。だからこそ、アマリリス一世陛下はお前が生き残れる道を残したんだろう」
シスルの目と目が合う。間違いないと頷いてやる。そうでなければおかしい。
「身体を拭く。もう少し我慢してくれ」
余韻に浸るシスルの身体をずらして仰向けにする。シスルはぼんやりと、オグルが自分の股間を拭くのを見ていたが。
「……すまない。助かった」
小さな感謝の言葉に胸が熱くなる。
「気にするな。ただの介抱だ。……幸い怪我はしてないようだが、痛みはないか?」
シスルはオグルの言葉に表情を和らげ、ふわりと花開くように微笑んだ。
「……ありがとう。大丈夫だ。今度こそ、後は自分で出来……」
オグルは、初めて見るシスルの、嘲笑でも作り笑顔でもない笑みに固まってしまった。シスルはオグルの動揺に気づかぬ様子で半身を起こし、同じように固まった。
しまった。
木漏れ日の輝きの目は、布越しでもはっきり主張したオグルの股間に釘付けだ。
「……な……わ、わた、私を、見て、そうなったのか?」
カアっと赤らむ顔から身体ごと目を逸らし、今更だが股間を手で隠した。
「すまん!すぐ出ていく!後で食事を運ばせるから休んで……」
慌てベッドから降りようとしたが、鍛えられた腕が腰にすがりついて阻まれた。しかもあろうことか、その手は服の上からも明らかなほど張り詰めた股間を撫でた。
「か、借りばかり作るのは、私の矜持に反する……だから……手伝ってやる」
オグルは、布越しの手の感触と言葉だけで射精しそうだったが何とか鎮め、シスルの手を取って振り返った。
「気にするな。お前はそんな事をしなくていい」
「駄目だ。借りを作ったままになる」
「ただの介抱だ。貸し借りにはならない。いいから一度休め」
「嫌だ。私は……」
シスルはまだしがみついてくる。固い声でそれを制した。
「駄目だ。お前に無理はさせたくない」
緑色の目が怒りに燃えた。
「勝手に決めるな!無理ではない!私にも貴様を介抱させろ!」
「いい加減にしろ!俺はオークだ!抜くだけで終わらないのがわからないのか!」
明け透けな叫びに、シスルは一瞬ためらいつつも叫び返した。
「か、構わない!覚悟の上で言ってる!」
決心は鈍りそうにない。
頑固者め。オグルは逡巡の後、腹をくくった。
「シスル王子、元婚約者はどんな人だった?今でも愛しているんだろう?」
「な、なにをいきなり。話を逸らすな」
「いいから答えろ」
シスルは暗い表情で顔をうつむけた。
「……私を捨てた女など……」
「惚れた相手をそんな風に言うな。伝え方は盛大に間違ってたらしいが、愛していたのは本当なんだろう?お前にとってどんな人だった?」
しばしの沈黙の後、シスルはゆっくりと顔を上げて口を開いた。ほろほろと、寂しげな声がこぼれる。
「……ラベンナは野の花のような美しさと優しさを持つ人だった。聡明だが、驕るようなところはなく誰に対しても穏やかで……彼女が私の前で声を荒げたのは、あの時だけだった」
シスルは一度言葉を切る。じっと自分の内面を見つめている様子だった。
「思えば私は、ラベンナに甘えていたのだ。どう扱っても私を愛してくれるはずだと……彼女だけではない。アマリリスや臣下たちに対してもそうだった。ただ、己の信じるまま行動すれば、愛も忠誠も捧げられる。それが当たり前だと思い込んでいた」
その結果がこれだ。王太子の座を追われ、蔑み殺し合ったオークの元に下げ渡された。
「……私は彼女たちを裏切り者と罵ったが、裏切られて当然だな。彼女たちには彼女たちの考えと立場と……心があるというのに……考えようともしなかった」
「ああ、確かにそうだな。だが、お前は自分の過ちを受け止めて反省するだけの器がある。戦場で配下を守った度胸と胆力もだ。だからこそ、アマリリス一世陛下はお前が生き残れる道を残したんだろう」
シスルの目と目が合う。間違いないと頷いてやる。そうでなければおかしい。
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