上 下
25 / 86
第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【9】*

しおりを挟む
「ひぁ……はぁっ……はぁっ……」

「身体を拭く。もう少し我慢してくれ」

 余韻に浸るシスルの身体をずらして仰向けにする。シスルはぼんやりと、オグルが自分の股間を拭くのを見ていたが。

「……すまない。助かった」

 小さな感謝の言葉に胸が熱くなる。

「気にするな。ただの介抱だ。……幸い怪我はしてないようだが、痛みはないか?」

 シスルはオグルの言葉に表情を和らげ、ふわりと花開くように微笑んだ。

「……ありがとう。大丈夫だ。今度こそ、後は自分で出来……」

 オグルは、初めて見るシスルの、嘲笑でも作り笑顔でもない笑みに固まってしまった。シスルはオグルの動揺に気づかぬ様子で半身を起こし、同じように固まった。
 しまった。
 木漏れ日の輝きの目は、布越しでもはっきり主張したオグルの股間に釘付けだ。

「……な……わ、わた、私を、見て、そうなったのか?」

 カアっと赤らむ顔から身体ごと目を逸らし、今更だが股間を手で隠した。

「すまん!すぐ出ていく!後で食事を運ばせるから休んで……」

 慌てベッドから降りようとしたが、鍛えられた腕が腰にすがりついて阻まれた。しかもあろうことか、その手は服の上からも明らかなほど張り詰めた股間を撫でた。

「か、借りばかり作るのは、私の矜持に反する……だから……手伝ってやる」

 オグルは、布越しの手の感触と言葉だけで射精しそうだったが何とか鎮め、シスルの手を取って振り返った。

「気にするな。お前はそんな事をしなくていい」

「駄目だ。借りを作ったままになる」

「ただの介抱だ。貸し借りにはならない。いいから一度休め」

「嫌だ。私は……」

 シスルはまだしがみついてくる。固い声でそれを制した。

「駄目だ。お前に無理はさせたくない」

 緑色の目が怒りに燃えた。

「勝手に決めるな!無理ではない!私にも貴様を介抱させろ!」

「いい加減にしろ!俺はオークだ!抜くだけで終わらないのがわからないのか!」

 明け透けな叫びに、シスルは一瞬ためらいつつも叫び返した。

「か、構わない!覚悟の上で言ってる!」

 決心は鈍りそうにない。
 頑固者め。オグルは逡巡の後、腹をくくった。

「シスル王子、元婚約者はどんな人だった?今でも愛しているんだろう?」

「な、なにをいきなり。話を逸らすな」

「いいから答えろ」

 シスルは暗い表情で顔をうつむけた。

「……私を捨てた女など……」

「惚れた相手をそんな風に言うな。伝え方は盛大に間違ってたらしいが、愛していたのは本当なんだろう?お前にとってどんな人だった?」

 しばしの沈黙の後、シスルはゆっくりと顔を上げて口を開いた。ほろほろと、寂しげな声がこぼれる。

「……ラベンナは野の花のような美しさと優しさを持つ人だった。聡明だが、驕るようなところはなく誰に対しても穏やかで……彼女が私の前で声を荒げたのは、あの時だけだった」

 シスルは一度言葉を切る。じっと自分の内面を見つめている様子だった。

「思えば私は、ラベンナに甘えていたのだ。どう扱っても私を愛してくれるはずだと……彼女だけではない。アマリリスや臣下たちに対してもそうだった。ただ、己の信じるまま行動すれば、愛も忠誠も捧げられる。それが当たり前だと思い込んでいた」

 その結果がこれだ。王太子の座を追われ、蔑み殺し合ったオークの元に下げ渡された。

「……私は彼女たちを裏切り者と罵ったが、裏切られて当然だな。彼女たちには彼女たちの考えと立場と……心があるというのに……考えようともしなかった」

「ああ、確かにそうだな。だが、お前は自分の過ちを受け止めて反省するだけの器がある。戦場で配下を守った度胸と胆力もだ。だからこそ、アマリリス一世陛下はお前が生き残れる道を残したんだろう」

 シスルの目と目が合う。間違いないと頷いてやる。そうでなければおかしい。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。今のところ主人公は、のんびり重視の恋愛未満です。 全17話、約6万文字。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

転生令息は冒険者を目指す!?

葛城 惶
BL
ある時、日本に大規模災害が発生した。  救助活動中に取り残された少女を助けた自衛官、天海隆司は直後に土砂の崩落に巻き込まれ、意識を失う。  再び目を開けた時、彼は全く知らない世界に転生していた。  異世界で美貌の貴族令息に転生した脳筋の元自衛官は憧れの冒険者になれるのか?!  とってもお馬鹿なコメディです(;^_^A

誕生日会終了5分で義兄にハメられました。

天災
BL
 誕生日会の後のえっちなお話。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

何故か正妻になった男の僕。

selen
BL
『側妻になった男の僕。』の続きです(⌒▽⌒) blさいこう✩.*˚主従らぶさいこう✩.*˚✩.*˚

そばにいてほしい。

15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。 そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。 ──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。 幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け 安心してください、ハピエンです。

新しいパパは超美人??~母と息子の雌堕ち記録~

焼き芋さん
BL
ママが連れてきたパパは超美人でした。 美しい声、引き締まったボディ、スラリと伸びた美しいおみ足。 スタイルも良くママよりも綺麗…でもそんなパパには太くて立派なおちんちんが付いていました。 これは…そんなパパに快楽地獄に堕とされた母と息子の物語… ※DLsite様でCG集販売の予定あり

処理中です...