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第二章王太子、オークの花嫁になる
王太子、オークの花嫁になる【6】
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オグル視点に変わります。
◆◆◆◆◆
思いがけず花嫁を手に入れてしまった。いや、まだ婚約者だ。いや、花嫁同然だ。いや、何を考えている。手を出してはいけない。
オグルは喜びとも困惑ともつかない感情を持て余しつつ、自邸の廊下を歩いた。行き先は、婚約者であるシスルにあてがった客室だ。手には、急遽シスルのために買った服を持っている。
「オグル、シスル殿はお疲れのご様子だ。早く休ませて差し上げろ」
アマリリスたちが帰ってすぐ、クオーンはそう言ってくれた。言葉に甘え、オグルはシスルを連れて帰った。
「こ、この格好のままで外に出るのか?これ以上誰にも見られたくない!」
「わかった。少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ」
「わぷっ!……うぅ……」
シスルは花嫁衣装姿を見られるのを嫌がっていたので、マントで包んで横抱きにして馬に乗せて帰った。シスルは人間にしては体格が良く鍛えているが、オークの自分からすれば抱え込むのに丁度いい大きさだ。それに、真っ赤になって照れる顔は可愛くてたまらない。人間特有の甘やかな匂いもする。キスしそうになるのを我慢して馬を走らせ、昼過ぎに自邸に到着した。
そして、花嫁姿を誰にも見られたくないというシスルを客室に押し込め、街で人間用の服を手に入れて来たのだ。
邸宅には執事をはじめとする使用人たちがいくらでも居たが、どうしても自分が選んで買いたかった。
「まいったな」
すっかり絆されているなと苦く笑う。
正直言って、オグルはオークからも他種族からもモテる。今まで相手に困ったことはない。ただし、花嫁にしたい相手に出会えたこともなかった。三十五歳になっても未婚で子供もいないのはそのせいだ。
けれどあの時、気づけば自分が婚約者になると進言していた。打算や同情はあれど、自らシスルを求めたのだ。
もちろん、たぶらかして国益のために利用するつもりだが、以前から気に入っていたのも事実である。先の戦で捕虜にした時は、時間を見つけては話をしに行ったものだ。シスルがオグルを無視せず会話したのも大きいが。
過去の会話を思い出す。
「ふん!また来たのか孕ませ豚!よほど暇なんだな」
「ええ、貴方とお話しするのが楽しくて来てしまいました」
「……ぐ、そ、そうか。何が楽しいのかは知らんが、相手をしてやってもいい。この赤花国王太子シスルがだ!光栄だろう!感謝するがいい!」
オーク嫌いを公言し蔑んでいるが、根が素直でお人好しな人間の男。また、力を持つ為政者としては無邪気過ぎた。常に前線に出たがるのも王太子としては軽率すぎる。つい忠告しては「貴様に言われる筋合いはない!」と、怒鳴られ「……まあ、参考にはしてやろう。貴様は孕ませ豚にしては物を知っているからな」などと少しだけ照れた様子で言われた。
その度に「あまりにチョロい。本当に大丈夫かコイツ」と呆れたものだ。
とはいえ、あの時点でシスルは二十歳だった。今だって二十二歳、まだまだ若造だ。これから成長するだろうと微笑ましく見ていたし、ツカサを連れてきた時もクオーン相手に一歩も引かない度胸に感心していた。
だが、ここまで落ちてしまった。
正直言ってシスルの立場は微妙だ。先の戦では、わずかとはいえ緑鉄国内にも犠牲が出た。また、シスル本人もこの国に馴染む気はないだろう。
なにより、オグルへの熱い眼差しは今だけの錯覚に違いない。元婚約者、人間の女を愛していたのだから。
赤花国との国交が正常化した後に、頃合いをみて婚約を解消して第三国に逃してやるべきだろう。エルフの多い青星国か、様々な種族が暮らす黄土国か、はたまた遥か遠い遠国か……そうなれば、きっと二度と会えないだろう。
「それまでは俺が守る。これは引き取った者の義務だ」
だから、口説きはしても手出しはすまい。オグルは矛盾した誓いを胸に、客室の扉を叩いた。
◆◆◆◆◆
思いがけず花嫁を手に入れてしまった。いや、まだ婚約者だ。いや、花嫁同然だ。いや、何を考えている。手を出してはいけない。
オグルは喜びとも困惑ともつかない感情を持て余しつつ、自邸の廊下を歩いた。行き先は、婚約者であるシスルにあてがった客室だ。手には、急遽シスルのために買った服を持っている。
「オグル、シスル殿はお疲れのご様子だ。早く休ませて差し上げろ」
アマリリスたちが帰ってすぐ、クオーンはそう言ってくれた。言葉に甘え、オグルはシスルを連れて帰った。
「こ、この格好のままで外に出るのか?これ以上誰にも見られたくない!」
「わかった。少し苦しいかもしれないが、我慢してくれ」
「わぷっ!……うぅ……」
シスルは花嫁衣装姿を見られるのを嫌がっていたので、マントで包んで横抱きにして馬に乗せて帰った。シスルは人間にしては体格が良く鍛えているが、オークの自分からすれば抱え込むのに丁度いい大きさだ。それに、真っ赤になって照れる顔は可愛くてたまらない。人間特有の甘やかな匂いもする。キスしそうになるのを我慢して馬を走らせ、昼過ぎに自邸に到着した。
そして、花嫁姿を誰にも見られたくないというシスルを客室に押し込め、街で人間用の服を手に入れて来たのだ。
邸宅には執事をはじめとする使用人たちがいくらでも居たが、どうしても自分が選んで買いたかった。
「まいったな」
すっかり絆されているなと苦く笑う。
正直言って、オグルはオークからも他種族からもモテる。今まで相手に困ったことはない。ただし、花嫁にしたい相手に出会えたこともなかった。三十五歳になっても未婚で子供もいないのはそのせいだ。
けれどあの時、気づけば自分が婚約者になると進言していた。打算や同情はあれど、自らシスルを求めたのだ。
もちろん、たぶらかして国益のために利用するつもりだが、以前から気に入っていたのも事実である。先の戦で捕虜にした時は、時間を見つけては話をしに行ったものだ。シスルがオグルを無視せず会話したのも大きいが。
過去の会話を思い出す。
「ふん!また来たのか孕ませ豚!よほど暇なんだな」
「ええ、貴方とお話しするのが楽しくて来てしまいました」
「……ぐ、そ、そうか。何が楽しいのかは知らんが、相手をしてやってもいい。この赤花国王太子シスルがだ!光栄だろう!感謝するがいい!」
オーク嫌いを公言し蔑んでいるが、根が素直でお人好しな人間の男。また、力を持つ為政者としては無邪気過ぎた。常に前線に出たがるのも王太子としては軽率すぎる。つい忠告しては「貴様に言われる筋合いはない!」と、怒鳴られ「……まあ、参考にはしてやろう。貴様は孕ませ豚にしては物を知っているからな」などと少しだけ照れた様子で言われた。
その度に「あまりにチョロい。本当に大丈夫かコイツ」と呆れたものだ。
とはいえ、あの時点でシスルは二十歳だった。今だって二十二歳、まだまだ若造だ。これから成長するだろうと微笑ましく見ていたし、ツカサを連れてきた時もクオーン相手に一歩も引かない度胸に感心していた。
だが、ここまで落ちてしまった。
正直言ってシスルの立場は微妙だ。先の戦では、わずかとはいえ緑鉄国内にも犠牲が出た。また、シスル本人もこの国に馴染む気はないだろう。
なにより、オグルへの熱い眼差しは今だけの錯覚に違いない。元婚約者、人間の女を愛していたのだから。
赤花国との国交が正常化した後に、頃合いをみて婚約を解消して第三国に逃してやるべきだろう。エルフの多い青星国か、様々な種族が暮らす黄土国か、はたまた遥か遠い遠国か……そうなれば、きっと二度と会えないだろう。
「それまでは俺が守る。これは引き取った者の義務だ」
だから、口説きはしても手出しはすまい。オグルは矛盾した誓いを胸に、客室の扉を叩いた。
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