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第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【4】*

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「寛大なお言葉に感謝します。アマリリス一世陛下、私がシスル王子の婚約者になることをお許し頂けないでしょうか?」

「まあ……願ってもないことです。お受けしましょう。緑鉄国のオグル卿といえば、我が国でも名の知れた将として有名ですもの。ねえ、貴方も知っていますよね?」

 呆然とした様子でオグルを見ていたシスルが口を開く。

「貴様……あの時のオークの将軍か」

 オグルはにこりと笑った。

「私を覚えて下さったのですか。しかもあの頃のような『孕ませ豚』呼ばわりではないとは……光栄です」

 シスルはキリッとした顔でオグルを睨む。花嫁衣装を着せられたままだし、尻にバイブがブッ刺さったままなのに目には力が戻っていた。
 妹にやり込められて萎れていたが、クオーンに臆さず怒鳴り返していただけあり、度胸と勇気は相当なものらしい。それにしても。

「二人は知り合いだったのか」

 俺の疑問に、オグルはかしこまって答えてくれた。

「王配陛下はご存知なくて当然です。先の戦でのことですから」

 当時、オグルは将軍として軍を率いて戦った。そしてシスルが率いていた軍と衝突し、オグル側が勝った。シスルは捕らえられ、それが終戦の契機になったのだという。
 オグルに捕らえられたシスルは『拷問も虐待も自分だけにしろ!』と言って配下たちを庇った。オグルはその勇気に免じて丁重に扱ったと話した。

「赤花国のシスル王子は勇猛果敢。常に前線に出て将兵を鼓舞されたことで有名ですが、捕らえられてなお配下を庇うなど、なかなか出来ることではありません」

 シスルは自尊心をくすぐられたのか、顔が輝いた。

「ふん!当然だ!穢らわしい敵兵から臣下を守るのも上に立つ者の勤めだからな」

 アマリリスの顔が険しくなり、シスルに向けて手をかざした。

「婚約者様に向かって失礼なことを言ってはなりません。……もう少し躾なければなりませんね」

「ま、まて違っ……!……ひぎいぃっ!あああっ!やめ、やめてくれええ!」

 魔法によってバイブが起動されたらしい。尻からぐちゃぐちゃと卑猥な音が立ち、王子は身悶えながら絶叫した。

「ほら、早く謝罪なさい。賤しい身で礼を失したことを。そして誓うのです身も心も婚約者様に捧げ従うと……」

「ああぁっ!やだっ!やだあぁっ!こんなのやだ!み、みないでくれえ!」

「止めろ!彼はもう俺の婚約者だ!これ以上嬲るなら貴国に抗議する!」

 オグルはシスルを抱きしめて叫んだ。アマリリスはどこか安心したように微笑み、手を下げる。バイブ音が止まる。
 シスルは涙をこぼしながら、弱々しくオグルの身体を叩いた。

「うっ……うぅ……一度ならず……!二度もオークに情けを……!くっ……!こ、殺せ!私を殺せ!」

「俺はお前を殺さない。婚約者として連れて帰る」

「何故だ!貴様の子を孕まされるぐらいなら……!」

「お前は死なすには惜しい男だ」

 真摯なオグルの言葉に、シスルの目に光が戻る。オグルはシスルの両手を広げさせ、撫でた。

「あの日と変わらず、剣だこだらけの無骨な手だ……強く気高く美しい。俺はあの日、配下たちを守ったこの手と、強い意志を宿す緑色の目に惚れた」

 シスルの頬が朱に染まり、緑色の目が木漏れ日のように揺れる。

「な、何を言って……!」

「赤花国のシスル王子に求婚している。無理強いはしないが、いずれは俺の花嫁となって欲しい。……今はこの想いを利用してくれて構わない」

「な……な、にを……」

 シスルは絶句し、握られた指を見つめて固まった。オグルの目がクオーンとアマリリスに向けられる。暗い青色の目は冷静そのものだ。シスルに気づかれないよう口が動く『いいな?』クオーンもアマリリスも無言で頷き、歩み寄って互いの手を握った。
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