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第二章王太子、オークの花嫁になる
王太子、オークの花嫁になる【2】
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言われてようやく気づく。あの時のクソッタレ王太子だと。いや、だってわからねえよ。召喚された時から人のこと物扱いして、あんまり顔あわせなかったし。というか思ったより若いし体格いいな。よく俺、殴り倒せたな。
俺は内心めっちゃ混乱していた。他の奴らもドン引き顔だ。しかし、アマリリスは俺たちの反応をよそに笑みを深めた。
「ええ。その通りです。コレは数日前まで王太子だった、我が国唯一の王子です。さあ、ご挨拶なさい」
命令と同時にアマリリスの手が動く。その動きに合わせて、シスルは頭を下げた。その目は絶望に染まっている。
待って。これ何てプレイ?この人たち実の兄妹だよね?怖いんですけど。
アマリリスは淡々と説明した。
「我が国の内情から説明します。まず、我が赤花国の大多数の国民は、緑鉄国と敵対することを望んでおりません。もちろん私、革新派、穏健派およびそれらに属さぬ臣下たちもです。緑鉄国との戦は、原点回帰派、彼らの傀儡である前国王、そして元王太子であるコレの独断でした」
原点回帰派にとって、オーク討伐は赤花国建国以来の悲願。成し遂げれば国王として盤石の支持を得れ、失敗しても勇気を讃えられる。
その観点からいくと、シスルたちの立ち回りはそこまで悪いものではなかった。
負けて領土を差し出すはめになったが、赤花国側が最も問題視していた『緑鉄国と赤花国は、互いに侵略されない限り相手に侵略してはならない』という不戦条約を結ばずに済んだ。原点回帰派からすれば、憎きオークに兵権を委ねかねない条約を跳ね除けたのだ。
その代替の『和平の証に、国王クオーンに相応しい花嫁を用意する』という条件も、結果的には王族や高位貴族の娘を差し出さずに済んだ。
クオーンからの『無関係な異界人を召喚して巻き込んだ上に、謁見時にクオーンたちオークを侮辱した』点への抗議も、俺を娶ったことで警告以上の効力を発揮できなかった。シスルは大いに讃えられた。
だが、ここからが問題だった。
「先の戦で国民も国土も疲弊しました。にも関わらず前国王とコレは、緑鉄国へ再侵攻することを一方的に決めました。そのために、今まで以上の徴兵と重税を課すこともです。当然、多くの臣下が反対しました」
前国王は彼らを捕え、拷問にかけて従わせようとした。従わない場合は処刑だ。彼らの中にはシスルの婚約者の父親もいた。
「彼女は父親の恩赦を求め、コレに身体を要求されました」
言い終わるかいなか。ずっと黙っていたシスルが悲痛な声を上げる。
「ち、違う!私は彼女の想いを信じたかったんだ!私たちと彼女の父親の意見は別れたが、私は彼女を想っていた!彼女も同じなら証をと……」
「貴方の想い?笑わせないでくださいな。貴方は彼女に贈り物をしたことも、茶会と夜会以外で会うことも、私的に会話することもほとんど無かったではありませんか」
「そ、それは公務が忙しかったから……」
「彼女は公爵令嬢として、また未来の王太子妃として多忙な日々を過ごしていましたが、折に触れて貴方へ贈り物をし、手紙をしたためて送り、わずかな時間をぬって会おうとしました。貴女はその全てを無視するか拒絶しました。くだらない戦争ごっこに熱中するためだけに」
「戦争ごっことは何だ!私も臣下も国益のために戦った!訂正し……ひぎっ!」
「お黙りなさい」
アマリリスの固い声と共に、ブゥンと聞き慣れたバイブ音が響く。
俺は内心めっちゃ混乱していた。他の奴らもドン引き顔だ。しかし、アマリリスは俺たちの反応をよそに笑みを深めた。
「ええ。その通りです。コレは数日前まで王太子だった、我が国唯一の王子です。さあ、ご挨拶なさい」
命令と同時にアマリリスの手が動く。その動きに合わせて、シスルは頭を下げた。その目は絶望に染まっている。
待って。これ何てプレイ?この人たち実の兄妹だよね?怖いんですけど。
アマリリスは淡々と説明した。
「我が国の内情から説明します。まず、我が赤花国の大多数の国民は、緑鉄国と敵対することを望んでおりません。もちろん私、革新派、穏健派およびそれらに属さぬ臣下たちもです。緑鉄国との戦は、原点回帰派、彼らの傀儡である前国王、そして元王太子であるコレの独断でした」
原点回帰派にとって、オーク討伐は赤花国建国以来の悲願。成し遂げれば国王として盤石の支持を得れ、失敗しても勇気を讃えられる。
その観点からいくと、シスルたちの立ち回りはそこまで悪いものではなかった。
負けて領土を差し出すはめになったが、赤花国側が最も問題視していた『緑鉄国と赤花国は、互いに侵略されない限り相手に侵略してはならない』という不戦条約を結ばずに済んだ。原点回帰派からすれば、憎きオークに兵権を委ねかねない条約を跳ね除けたのだ。
その代替の『和平の証に、国王クオーンに相応しい花嫁を用意する』という条件も、結果的には王族や高位貴族の娘を差し出さずに済んだ。
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だが、ここからが問題だった。
「先の戦で国民も国土も疲弊しました。にも関わらず前国王とコレは、緑鉄国へ再侵攻することを一方的に決めました。そのために、今まで以上の徴兵と重税を課すこともです。当然、多くの臣下が反対しました」
前国王は彼らを捕え、拷問にかけて従わせようとした。従わない場合は処刑だ。彼らの中にはシスルの婚約者の父親もいた。
「彼女は父親の恩赦を求め、コレに身体を要求されました」
言い終わるかいなか。ずっと黙っていたシスルが悲痛な声を上げる。
「ち、違う!私は彼女の想いを信じたかったんだ!私たちと彼女の父親の意見は別れたが、私は彼女を想っていた!彼女も同じなら証をと……」
「貴方の想い?笑わせないでくださいな。貴方は彼女に贈り物をしたことも、茶会と夜会以外で会うことも、私的に会話することもほとんど無かったではありませんか」
「そ、それは公務が忙しかったから……」
「彼女は公爵令嬢として、また未来の王太子妃として多忙な日々を過ごしていましたが、折に触れて貴方へ贈り物をし、手紙をしたためて送り、わずかな時間をぬって会おうとしました。貴女はその全てを無視するか拒絶しました。くだらない戦争ごっこに熱中するためだけに」
「戦争ごっことは何だ!私も臣下も国益のために戦った!訂正し……ひぎっ!」
「お黙りなさい」
アマリリスの固い声と共に、ブゥンと聞き慣れたバイブ音が響く。
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