上 下
18 / 96
第二章王太子、オークの花嫁になる

王太子、オークの花嫁になる【2】

しおりを挟む
 言われてようやく気づく。あの時のクソッタレ王太子だと。いや、だってわからねえよ。召喚された時から人のこと物扱いして、あんまり顔あわせなかったし。というか思ったより若いし体格いいな。よく俺、殴り倒せたな。
 俺は内心めっちゃ混乱していた。他の奴らもドン引き顔だ。しかし、アマリリスは俺たちの反応をよそに笑みを深めた。

「ええ。その通りです。コレは数日前まで王太子だった、我が国唯一の王子です。さあ、ご挨拶なさい」


 命令と同時にアマリリスの手が動く。その動きに合わせて、シスルは頭を下げた。その目は絶望に染まっている。
 待って。これ何てプレイ?この人たち実の兄妹だよね?怖いんですけど。
 アマリリスは淡々と説明した。

「我が国の内情から説明します。まず、我が赤花国の大多数の国民は、緑鉄国と敵対することを望んでおりません。もちろん私、革新派、穏健派およびそれらに属さぬ臣下たちもです。緑鉄国との戦は、原点回帰派、彼らの傀儡である前国王、そして元王太子であるコレの独断でした」

 原点回帰派にとって、オーク討伐は赤花国建国以来の悲願。成し遂げれば国王として盤石の支持を得れ、失敗しても勇気を讃えられる。
 その観点からいくと、シスルたちの立ち回りはそこまで悪いものではなかった。
 負けて領土を差し出すはめになったが、赤花国側が最も問題視していた『緑鉄国と赤花国は、互いに侵略されない限り相手に侵略してはならない』という不戦条約を結ばずに済んだ。原点回帰派からすれば、憎きオークに兵権を委ねかねない条約を跳ね除けたのだ。
 その代替の『和平の証に、国王クオーンに相応しい花嫁を用意する』という条件も、結果的には王族や高位貴族の娘を差し出さずに済んだ。
 クオーンからの『無関係な異界人を召喚して巻き込んだ上に、謁見時にクオーンたちオークを侮辱した』点への抗議も、俺を娶ったことで警告以上の効力を発揮できなかった。シスルは大いに讃えられた。
 だが、ここからが問題だった。

「先の戦で国民も国土も疲弊しました。にも関わらず前国王とコレは、緑鉄国へ再侵攻することを一方的に決めました。そのために、今まで以上の徴兵と重税を課すこともです。当然、多くの臣下が反対しました」

 前国王は彼らを捕え、拷問にかけて従わせようとした。従わない場合は処刑だ。彼らの中にはシスルの婚約者の父親もいた。

「彼女は父親の恩赦を求め、コレに身体を要求されました」

 言い終わるかいなか。ずっと黙っていたシスルが悲痛な声を上げる。

「ち、違う!私は彼女の想いを信じたかったんだ!私たちと彼女の父親の意見は別れたが、私は彼女を想っていた!彼女も同じなら証をと……」

「貴方の想い?笑わせないでくださいな。貴方は彼女に贈り物をしたことも、茶会と夜会以外で会うことも、私的に会話することもほとんど無かったではありませんか」

「そ、それは公務が忙しかったから……」

「彼女は公爵令嬢として、また未来の王太子妃として多忙な日々を過ごしていましたが、折に触れて貴方へ贈り物をし、手紙をしたためて送り、わずかな時間をぬって会おうとしました。貴女はその全てを無視するか拒絶しました。くだらない戦争ごっこに熱中するためだけに」

「戦争ごっことは何だ!私も臣下も国益のために戦った!訂正し……ひぎっ!」

「お黙りなさい」

 アマリリスの固い声と共に、ブゥンと聞き慣れたバイブ音が響く。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

もう人気者とは付き合っていられません

花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。 モテるのは当然だ。でも――。 『たまには二人だけで過ごしたい』 そう願うのは、贅沢なのだろうか。 いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。 「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。 ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。 生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。 ※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

ふたなり治験棟

ほたる
BL
ふたなりとして生を受けた柊は、16歳の年に国の義務により、ふたなり治験棟に入所する事になる。 男として育ってきた為、子供を孕み産むふたなりに成り下がりたくないと抗うが…?!

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

禁断の祈祷室

土岐ゆうば(金湯叶)
BL
リュアオス神を祀る神殿の神官長であるアメデアには専用の祈祷室があった。 アメデア以外は誰も入ることが許されない部屋には、神の像と燭台そして聖典があるだけ。窓もなにもなく、出入口は木の扉一つ。扉の前には護衛が待機しており、アメデア以外は誰もいない。 それなのに祈祷が終わると、アメデアの体には情交の痕がある。アメデアの聖痕は濃く輝き、その強力な神聖力によって人々を助ける。 救済のために神は神官を抱くのか。 それとも愛したがゆえに彼を抱くのか。 神×神官の許された神秘的な夜の話。 ※小説家になろう(ムーンライトノベルズ)でも掲載しています。

側妻になった男の僕。

selen
BL
国王と平民による禁断の主従らぶ。。を書くつもりです(⌒▽⌒)よかったらみてね☆☆

処理中です...