【四章完結】サラリーマン、オークの花嫁になる

花房いちご

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第二章王太子、オークの花嫁になる

元サラリーマン、どすけべウェディングドレスを着る【6】

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「クオーンは、国王の正装をアレンジするだけなのか?」

 テーブルを挟んで向かいのソファに座った人物が頷く。柔らかな笑顔と眼鏡が特徴の人間の男、仕立て屋のソーイだ。

「はい。正確には、王配陛下の御衣装と調和が取れるよう調整するのが、緑鉄国王家の伝統です。王配陛下の御衣装のデザインは、伝統的なものでも革新的なものでも自由です」

「そっか……。なら、俺の好みよりもクオーンが喜ぶような衣装にしたいな」

「仲睦まじくていらっしゃる。何よりでございますね」

 部屋にいる全員……目の前のソーイ、壁際に控えているソーイの部下たち、俺を護衛する近衛騎士たち皆が嬉しそうに微笑む。クオーンは敬愛され慕われ、幸福を願われているのだ。ほっこりしたが、ここから話は暴走する。

「では、下着も凝った方がいいですね。もちろんサンプルも持って来ています」

「わあエロい」

 テーブルの上に並べられる下着は、あまりにホットなデザインだった。ソーイの部下たちが頭を抱えるが、俺は浮き浮きだ。

「君!最高!めっちゃ話がわかるじゃん!というか、どうせなら下着を衣装にするのはどうだ?エロ同人のどすけべウェディングドレスみたいに」

「エロ・ドウジンがナニかわかりませんが素晴らしい発想!腕が鳴ります!」

 で、盛り上がり過ぎてエロ花嫁衣装のデザインが大量に生まれた。見かねたらしく、近衛騎士が口を挟む。

「王配陛下。いくらなんでも色ボケしくさりやがり過ぎです。仕立て屋も悪ノリに付き合うな」

 呆れた様子で言うのは、近衛騎士隊隊長であるオグルだ。クオーンほどでは無いが長身で筋骨隆々。黒髪で暗い青色の目の、やや人間に近い顔つきのオークだ。威圧感が半端ないので、ソーイたちは怯えて縮こまってしまった。

「ひぃっ!申し訳ございません!」

「お怒りはごもっともですが、どうかご寛容な沙汰を!」

「店主は仕事となると我を忘れてしまうのです!」

 オグルは表情と雰囲気をやわらげ「怯えなくていい。こんなことで罰しない」と告げる。理知的で温厚なところがクオーンによく似てる。父方の叔父だそうだから血筋かもしれない。それに凄く気さくで、馬鹿な話題もめっちゃ言いやすい。

「オグル、どすけべウェディングドレスで式を挙げた王配って居ないのか?」

「いる訳ねえでございましょうが。頭湧いていらっしゃるのですか。ぶん殴りますよ」

「隊長!お言葉が過ぎます!」

 あ、違うわ。気さくって言うより、俺がいらんことばかり言うから態度が雑になりやすいだけだな。めんごめんご。それはともかく。

「居ないのか……そうか……」

 残念すぎて凹む。ソーイも沈痛な面持ちで頷いた。

「そうなんですよ……いらっしゃらないんです……。オークの皆様の倫理観と社会通念がしっかりしているせいで!」

「いい事じゃねえか。というか、お前ら人間は俺らオークにナニを求めてるんだ」

 オグルの突っ込みをスルーしつつ、人間二人でお通夜のような空気を出す。
 ソーイが赤花国から亡命したのは自由な服作り、特にエロ衣装制作を規制されたからだという。だというのに、理想のエロ大国だと思って亡命した緑鉄国は、品行方正な素晴らしい国だった。なんと悲しい過去だろうか。しかしソーイは、満ち足りた笑みを浮かべた。

「ベッドの上では活用して頂けてますから充分です。私の夫もそうなんです。いつもは真面目で無口なんですけど、私がエロ衣装を着ると豹変するんです。言葉責めしながらガツガツ揺さぶってくれて……ハアハア思い出したら身体が熱くなって……雄子宮うずく……」

「いい加減にしろ!仕事中にナニする気だ馬鹿野郎!」

「隊長!落ち着いてください!貴方の拳で人間を殴ったら死にます!」

「いいなあ。俺も今夜がんばろう。サンプルもらっていいんだよな?」

「もちろんです!好きなだけお使い下さい!」

「ありがとう。早速使わせてもらうよ。俺も奉仕したいし、クオーンもめちゃくちゃ喜ぶんだ」

「ツカサああああ!衣装選びも公務の一環だってわかってんのか!口を慎みやがれ!」

「隊長!こらえてください!ツカサ様は王配陛下!色ボケてても我らが主君です!」

「不敬とか気にしなくていいぞー。あ、ブラはコレにしよう。クオーンって俺の乳首舐めるの好きだし」

「ではショーツはこちらをお使いください。統一感が出ますしセクシーです。後はベールと手袋とストッキングを……」

「クオーンは、こういうシンプルなの好きだな。グッとくるらしくてこの前も……」

「止めろおおお!甥っ子の閨事情なんざ聞きたくねえんだよおおお!」

 と、いうわけでクオーンに『花嫁衣装の候補が決まったから見て欲しい』と言って寝室に待機し、後はなし崩しに致したのだった。
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