半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

文字の大きさ
上 下
35 / 36
登場人物紹介・番外編など

番外編・なんとかは犬も食わない【後編】*

しおりを挟む
 何度目かの小さな絶頂の後、ルナルシオンはダガンによって横たえられた。ダガンも同じように横たわり対面する。興奮で激しく息をしているダガン。股間の剛直は、尖った亀頭からイボと隆起で出来た幹、その下にある睾丸に至るまで射精していないのが不思議なほど張り詰めている。
 横になったまま挿入するつもりだと察したルナルシオンが脚を開く前に、ダガンはルナルシオンの片脚を片手で持ち上げ、すでに指で柔らかくした窄まりに己の剛直を当てがった。

「……いいな?」

 ギラギラと欲に光る目をしている癖に、ちゃんと聞いてくれる。律儀だなとルナルシオンは笑い、手を伸ばした。

「うん。来て……っ!」

 窄まりが尖った亀頭を飲み込んでいく。

「あ、ああぁっ!……あぐっ……!ぁっ……っ!」

 どんなに優しくじっくり触れられても、貫かれる瞬間はやはり声を上げてしまう。圧迫感と身体を割り開かれていく感覚に息が詰まる。思わず逃げる腰をダガンの大きな手が掴み、腰をぐりぐりと押し付けた。

「あんっひあぁっ!」

 過ぎた快感に腰が跳ねた。肉壁は美味そうに剛直を咥え込んでいく。根本まで入る頃には、強烈な快楽の波にさらわれていた。
 尖った亀頭にひらかれ、幹のイボで擦られ、ダガンの剛直のため性器になった場所が悦びに戦慄いた。

「はぁっ……!ひぁっ……あ、きもち……い……んんっ」
 ダガンは快楽に喘ぐ唇を吸い、ルナルシオンの腹、自分の剛直を咥えているあたりをゆっくりと撫で回した。途端、ルナルシオンの身体が大きく跳ねる。

「んぉっ!……あっ!……あぁっ……あっ……!ひああっ!」

 外から圧迫されることで、さらに剛直の存在感と肉壁が受ける快感が増した。特に、いつもは中から擦られたり抉られたりすると感じる場所の近くは顕著だ。

「凄いな……こんな薄くてすべすべした腹の中に……俺のが全部入っている……俺を全部、受けとめてる……」

 心からの感嘆に震える声。ダガンのこれまでの人生が滲んだ声。ダガンはいまだに、こうやって感動することがあった。
 今まで誰も、ダガンの心と身体全てを受けとめたことがなかったという。こんなにも優しく、寂しがり屋で、実は涙脆いというのに残酷な話だ。

「……そう……だよ。きみのぜんぶ……わたしのものだ……」

 だからルナルシオンは笑う。これは当たり前のことだと示すために。
 ダガンの金色の目が喜びと安堵に潤む。唇が戦慄き、噛み殺しきれなかった嗚咽が漏れた。なんて美しい男だろうかと、ルナルシオンはいつも感動してしまう。自分も泣いてしまいそうだが、これだけは今、伝えなくては。

「きみが、どんなに……じぶんのからだが……きらいでも……きれいな……からだごと、きみがすきだよ」

 この事実を、いつか当たり前だと思って欲しい。

 ◆◆◆◆◆

 ダガンは眠るルナルシオンの髪を撫でた。白金の髪は、光のない部屋の中でもほのかに光って見える。薄らと汗をかき上気した頬も、ダガンの目には眩い。

「綺麗なのはお前だろうが」

 ダガンは自分の身体が好きではない。
 忌み嫌われる原因だったので当然だ。また、魔族が今まで人間にして来たことを嫌というほど知っているため、それも無理からぬことだと納得していた。自分自身、魔王が復活する前から魔族には恨みしかない。魔族とは、決して人間と相容れない生き物だ。
 一体、何人の戦友を殺されただろう?蹂躙された村や街を見ただろう?魔族にも力の差や性格の違いはあったが、人間を食い物か玩具か路傍の石としか見ていないことは間違い無かった。気が向く、あるいは邪魔だと思えば殺すのだ。なんの躊躇いもなく。世界には、魔族と人間が共存している場所もあると聞く。しかし、ダガンたちが住むユラン大陸ではこれが現実だ。
 ダガンは、魔族の血を引いている自分が嫌いだ。半魔にさえ生まれていなければ。せめて見た目だけでも魔族の特徴を受け継いでなければと、何度思ったかわからない。
 しかし、半魔でなければここまで強くなり、ルナルシオンと巡り合うことも、魔王から人類を守ることも出来なかっただろう。皮肉な話だ。
 勇者の絶対条件は『苦難に立ち向かう勇気を持ち、何があっても人類を守り抜こうとする魂』どれほど迫害され裏切られても、人類社会で人間と共に生きようと足掻いたダガンは、まさに勇者に相応しい魂だったのだ。
 この魂を維持できたのは、ダガンの育ての両親と、見た目や力をありのまま受け入れてくれた三人のおかげだ。バルドレッド、テオドラ、そして彼らの子供であるルナルシオンの。
 彼らはダガンを尊び、人間として扱い、更にルナルシオンは伴侶として愛してくれた。
 いつまでも、自分の身体を嫌って粗末に扱うのは失礼だ。わかっているつもりだったが、今日の出来事で自分が上辺しかわかっていなかったと思い知った。

(しっかりしないとな。泣かせてしまった)

 つらつらと考えていると、小さく扉を叩く音がした。独特の間隔がある。執事だと当たりをつけ、ベッドから抜け出して扉を開けた。
 老練さと柔軟さを兼ね備えた執事は一目で状況を悟ったらしい。

「夕食をお持ちしましたが、ご不要でしたでしょうか?」

「いや、もらっておく。……わざわざお前が来るのは珍しいな。何かあったか?」

 ダガンたちが寝室で食事をする時、運ぶのは召使いか侍女の仕事だ。食事の時間になっても二人が食堂まで来ないと、自然とそうなるようになって長い。だが、執事が食事を持って来たことは殆どない。

「何かあったと言いますか、心配だったと言いますか……」

 理由に心当たりがありすぎる。ダガンは顔に血が集まるのを感じた。

「そういや聞いてたな。騒がせて悪かった。もう大丈夫だ」

「よろしゅうございました。ところでダガン様、僭越せんえつながら元同僚として、一言申し上げてもよろしいでしょうか?」

 執事はにっこりと笑った。同僚時代によく見た笑顔に、ゾワッと背中に怖気が走る。だが頷いた。言わせないほうがややこしくなる。『いい年してみっともない』『少しは落ち着け』『公爵としての自覚を持て』辺りを言われるかと思った。
 しかし。

「もう少し、気を抜いて甘えることを覚えなさい。それがルナルシオン殿下の願いだと思いますよ」

「は?」

 何を言われたか、一瞬わからなかった。執事は深いため息を吐く。

「どうせ貴方のことだから『自分の考えが適切じゃなかった』『もっとしっかりするべきだ』とか思っていたんでしょう。で、今は『もう十分気を抜いて甘えてる』と、考えていらっしゃる」

 図星である。執事は固まったダガンに、夕食が乗ったワゴンを渡す。

「ルナルシオン殿下も我々も、貴方に守られているばかりの存在ではありません。貴方はもっと貪欲になっていい。と、いうかなりなさい。私たちは貴方の苦悩や葛藤を完全には理解できませんが、寄り添うことは出来ます」

 ダガンは不覚にも目頭が熱くなり、そっぽを向いた。昔はともかく、今は周りに恵まれ過ぎだと思う。

「最初は貴方を恐れて嫌悪した私たちが、心からお仕えするようになったのです。貴方もいずれ乗り越えられる日が来ます。ルナルシオン殿下がたっぷり甘やかして下さるでしょうから」

「……そうか、そうだな」

 ダガンは感極まりつつ、なんとか声を絞り出す。執事は微笑ましげに目を細めていたが……ビクリと肩を跳ねて後ろに下がった。どうしたのかと、ダガンが振り返ると眦を吊り上げたルナルシオンが居た。

「ダガン……ずいぶんホワホワした空気を出してるけど、浮気?」

「違う!」

「違います!」

 見事に唱和したが、ルナルシオンはジト目だ。

「ふーん。本当かな」

「本当だ!俺にはお前だけだ!お前以外を愛することはない!信じてくれ!」

 縋りついて叫ぶと、ルナルシオンは険しい顔を緩めた。

「ごめん。冗談だよ。私がいるのに構ってくれないから拗ねちゃった。ご飯食べよう。……巻き込んですまないね」

 最後だけ執事に言い、ルナルシオンはダガンを寝室の奥に導いた。ダガンが後ろ手に扉を閉める。
 締め出された執事はポツリと呟いた。

「ありゃマジだなあ。恋は盲目というか『夫を甘やかしていいのは自分だけだ』っていう宣言か。結婚して二年経ってもお熱いことで」

 執事は朝のようにやさぐれた口調だったが、表情は柔らかかった。今夜は自分も愛妻とゆっくり話そう。そう思いながら、その場を後にしたのだった。

 めでたしめでたし

◆◆◆◆◆

ストックは以上です。新作番外編執筆中です。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

【完結】第三王子は、自由に踊りたい。〜豹の獣人と、第一王子に言い寄られてますが、僕は一体どうすればいいでしょうか?〜

N2O
BL
気弱で不憫属性の第三王子が、二人の男から寵愛を受けるはなし。 表紙絵 ⇨元素 様 X(@10loveeeyy) ※独自設定、ご都合主義です。 ※ハーレム要素を予定しています。

処理中です...