半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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蜜月の日々と宴の支度

宴の支度【4】

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 箱の中には張型……陰茎を模した淫具が入っていた。

「アイツがいなくて寂しいだろ?アイツのちんこはデカくてえぐいって聞いてるから、魔族モデルの特大サイズにしたぜ。イボもつけた。オーダーすればもっと大きさと形を変えれ……」

「今すぐ私の前から消えなさい」

「えっ?ルナルシオン?なんて言っ……痛え!」

 ルナルシオンは張型を箱ごとぶん投げた。見事、サンライアンの額に命中する。

「この穢らわしい物と共に私の前から消えなさい!下世話にもほどがあります!」

 ルナルシオンは激怒し、サンライアンをその場から追い出した。

 その後、サンライアンは配下たちや他の家族たちに説教されて反省したらしく、三日後ふたたび旅立つまで何度も謝罪に来た。が、ルナルシオンは拒絶した。旅立った後は、毎日謝罪の手紙が届いている。それも一枚も読まずに燃やしている。

   ◆◆◆◆◆

(絶対許さない)

 今まで、ルナルシオンがサンライアンに対しここまではっきりと怒った事はなかった。しかし許せなかった。
 下世話で不快なのは勿論だが、サンライアンはダガンの身体を揶揄した。悪気がなかったとはいえ許せない。それと同時に、身体を持て余している現状を見抜かれたようで嫌だった。

(サンライアン兄様の馬鹿!無神経!最低!いつまでも子供!大体ダガンの大事なモノのことを考えていいのは私だけだ!)

 庭園の花を眺めながら、ひたすら内心でサンライアンを罵る。それでもやはり、気は晴れない。深い溜息が出た。さらにそこへ、不快な男の気取った声がかかる。

「おお!そこに居られるのは我が愛しの君!」

 東屋の側にカタストロが現れた。ルナルシオンは無視、あるいは怒鳴りたいのを堪えて口を開く。端的に。これ以上なく冷たく。

「ギリークホラ卿。私に貴殿と話すことはない。お引き取り願おう」

「ああ!貴方は冬空に浮かぶ満月より気高く、芳しい香気を放つ白薔薇より美しい!そんな貴方に溜息は似合いません!」

 カタストロは歩み寄りながら、芝居じみた所作でルナルシオンに語りかける。こちらの反応などろくに見ずに。
 この男はずっとこうだった。ルナルシオンの内面に目を向けず、見てくれに欲を抱いて妄言を吐く。
 顔を合わせた時から酷かった。
「貴方は罪なお方だ。私は十年前、貴方様に微笑まれて心を奪われました。再びお会いできる日をずっと待っていたのです」などと言っていきなり求婚したのだ。迷惑な話だった。第一王女の婚礼の際、挨拶をしただけだったというのに。
 今も眼差しはねっとりとしていて気色が悪い。ルナルシオンの顔から表情、いや、温度がなくなっていった。
 カタストロは東屋の入り口に着き、中に入ろうとする。が、主の意を汲んだ護衛騎士と侍女たちが前に出て阻む。

「お下がりください。ルナルシオン殿下より、誰も近づけるなと言いつかっております」

 カタストロは顔をしかめた。小さく「下賤げせんの生まれが……」と、呟いたのがルナルシオンの耳にも届く。この瞬間、もともと最低であった好感度がさらに下がった。
 やはり何一つ気づかないカタストロは、さらに妄言を連ねた。

「ルナルシオン殿下。私は貴方様が溜息をつく理由を存じております。私がその憂いを払いましょう。魔族や魔獣はもとより、賤しい半魔の勇者など恐るに足りません」

 空気が凍りついた。護衛騎士らが息を呑む。主から立ち昇る冷たい怒気に。

「我が国へお越しください。私の夫となり、毎日を優雅に過ごしましょう。私は貴方様に学者の真似事などをさせません。永遠に貴方様をお守りしま……」

「私の夫は生涯ただ一人、愛するのもただ一人だ。貴殿ではない」

 氷の刃のごとく冷えた声に、カタストロの笑顔が引きつった。

「私は己の夫、臣下、勤めを侮辱した者を許すほど寛容ではない。陛下に奏上し、ギリク王国に抗議させていただく。追って、陛下と貴国の王が沙汰を下すだろう。だがどのような沙汰であれ、私が貴殿と会うことは二度とない」

 カタストロは顔を歪めた。当惑と怒りが混じった醜い顔だった。

「なぜ私が?賤しい者を賤しいと言ってなにが悪いというのです?」

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