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蜜月の日々と宴の支度
宴の支度【3】
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一方その頃、ルナルシオンは苛立っていた。また、落ち込んでもいた。気晴らしに王城の庭園を散策し、気に入りの東屋で茶を飲んでいるが、あまり効果はなかった。
今日、ルナルシオンが王城に来たのは、披露宴の礼装と装飾品の最終打ち合わせのためだ。前から楽しみにしていたというのに、早々に切り上げる羽目になってしまった。王家御用達の仕立て屋から『腹を立てて集中できない時に晴れ着を選ぶな』と、美辞麗句で包んで伝えられたためである。態度には出していないはずだったが、長い付き合いの仕立て屋はお見通しだった。迷惑をかけた自分が情けなくて落ち込み、いや、自分ばかりのせいではないと苛立つ。ルナルシオンが私情で公務に支障を出すのは珍しい。だが、原因を知る周囲は口出ししなかった。それだけ、十日前にルナルシオンがされた事は酷かった。
しかも、やらかしたのは身内だった。
◆◆◆◆◆
やらかした身内、第二王子サンライアンは獅子の立髪を思わせる豊かな金髪、濃い青色の目を持つ筋骨隆々の偉丈夫である。まだ二十五歳だが、戦場で負った傷跡も相まって十歳は上に見える。
この兄が、ルナルシオンは苦手であった。悪い人物ではない。嫌いではないし、尊敬もしている。ただ、発言に配慮を欠く上に行動すべてが短絡的で……ようするにガサツなのだ。公の場で何かやらかすたびに、男兄弟であるスカイレッドとルナルシオンが苦労させられたものである。サンライアンがある程度まで成長してからは、嬉々として戦場や王領への視察に行くようになったのでそこまで迷惑はかけられてないが。
現に、つい十日前までサンライアンは王領へ視察に行っていた。いつも通り王城に帰還し報告を済ませたのだが、次の視察まで間があるからという理由で、ルナルシオンに面会を申し出てきた。ルナルシオンもちょうど王城に居たし、面倒だったが断る理由もないので応じた。
「久しぶりだなー!ルナルシオン!おめーは相変わらず細いな!ちゃんと食ってるか?」
「サンライアン殿下、お久しぶりです。お気遣いありがとうございます。私はつつがなく過ごしております」
遠慮なく肩を叩こうとするのをサッと避けながら挨拶を交わす。
「……なんだよ、相変わらずつれねーなー。俺様は大事な弟に会えて嬉しいのにー」
しょんぼりする顔はあどけない。ルナルシオンは憎めない人だなと苦笑いした。
「……私もサンライアン兄様がお元気そうで嬉しいです。お怪我はございませんか?」
「おう!まーだ魔獣どもがいやがったが、俺様の拳にかかれば一発だぜ!森もそこまで荒らされてなかったしな!」
豪快な笑い声が響く。なんだかんだで仲が悪くない兄弟は、しばし武勇伝や近況報告で盛り上がった。
「おっと、忘れるところだったぜ。結婚祝いがあるんだ。受け取ってくれ」
差し出されたのは、ショッキングピンクの包紙に金色のリボンを結んだ箱だ。割と大きくて重みがあった。
「お忙しい中、わざわざありがとうございます」
ルナルシオンは感動した。この兄が、他人を慮って贈り物をするなど初めてではないだろうか。
「気にすんな。俺様直々に祝ってやりたくなったんだよ。アイツと結婚した時はビックリしたし、反対しようかと思ったけどよー。幸せなんだろ?」
「はい。幸せです」
「顔見りゃわかるさ。……ああ、サイズが合わないかも知れねーから、開けて確認してくれ」
「サイズですか?わかりました。少し待って下さい……ね……」
箱を開けたルナルシオンは固まった。サンライアンはニコニコと笑っている。
今日、ルナルシオンが王城に来たのは、披露宴の礼装と装飾品の最終打ち合わせのためだ。前から楽しみにしていたというのに、早々に切り上げる羽目になってしまった。王家御用達の仕立て屋から『腹を立てて集中できない時に晴れ着を選ぶな』と、美辞麗句で包んで伝えられたためである。態度には出していないはずだったが、長い付き合いの仕立て屋はお見通しだった。迷惑をかけた自分が情けなくて落ち込み、いや、自分ばかりのせいではないと苛立つ。ルナルシオンが私情で公務に支障を出すのは珍しい。だが、原因を知る周囲は口出ししなかった。それだけ、十日前にルナルシオンがされた事は酷かった。
しかも、やらかしたのは身内だった。
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現に、つい十日前までサンライアンは王領へ視察に行っていた。いつも通り王城に帰還し報告を済ませたのだが、次の視察まで間があるからという理由で、ルナルシオンに面会を申し出てきた。ルナルシオンもちょうど王城に居たし、面倒だったが断る理由もないので応じた。
「久しぶりだなー!ルナルシオン!おめーは相変わらず細いな!ちゃんと食ってるか?」
「サンライアン殿下、お久しぶりです。お気遣いありがとうございます。私はつつがなく過ごしております」
遠慮なく肩を叩こうとするのをサッと避けながら挨拶を交わす。
「……なんだよ、相変わらずつれねーなー。俺様は大事な弟に会えて嬉しいのにー」
しょんぼりする顔はあどけない。ルナルシオンは憎めない人だなと苦笑いした。
「……私もサンライアン兄様がお元気そうで嬉しいです。お怪我はございませんか?」
「おう!まーだ魔獣どもがいやがったが、俺様の拳にかかれば一発だぜ!森もそこまで荒らされてなかったしな!」
豪快な笑い声が響く。なんだかんだで仲が悪くない兄弟は、しばし武勇伝や近況報告で盛り上がった。
「おっと、忘れるところだったぜ。結婚祝いがあるんだ。受け取ってくれ」
差し出されたのは、ショッキングピンクの包紙に金色のリボンを結んだ箱だ。割と大きくて重みがあった。
「お忙しい中、わざわざありがとうございます」
ルナルシオンは感動した。この兄が、他人を慮って贈り物をするなど初めてではないだろうか。
「気にすんな。俺様直々に祝ってやりたくなったんだよ。アイツと結婚した時はビックリしたし、反対しようかと思ったけどよー。幸せなんだろ?」
「はい。幸せです」
「顔見りゃわかるさ。……ああ、サイズが合わないかも知れねーから、開けて確認してくれ」
「サイズですか?わかりました。少し待って下さい……ね……」
箱を開けたルナルシオンは固まった。サンライアンはニコニコと笑っている。
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