半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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蜜月の日々と宴の支度

宴の支度【2】

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 ギリク王国の親善大使がルナルシオンに接近している。知らせたのは、すでに内政、外政ともに手腕を発揮している第一王子スカイレッドであった。

『ギリク王国の狙いは嫌がらせでしょう。勇者である貴方と私ども王家に不和をもたらす、そこまではいかなくとも醜聞を流すといったところです』

 みみっちい狙いもあったものである。
 ギリク王国の親善大使カタストロ・ギリークホラ。ダガンも世評は知っている。歳は二十八歳。青みがかった銀髪に、やや垂れた紫色の目が印象的な美男だ。一年前に即位した現ギリク王の唯一同腹の弟で、現王と共に母方の血筋の高貴さで名高い。が、それ以上に男女問わず浮名を流す手癖の悪さが有名だった。
 ダガンが残党狩りに向かって半月後、彼は王城にやって来た。名目は、魔王討伐および勇者ダガンと第三王子ルナルシオンの婚姻を祝し、二国間の友好を深めるためだ。誰もそんな名目を信じていない。十年前に一度会ったというだけで、ルナルシオンにつきまとっている時点で明らかである。ルナルシオンは語学堪能であるが、対面での外交経験は少ない。調略はたやすいと判断したのだろう。
 カタストロはルナルシオンが王城に行くたびにどこからともなく現れ、露骨に口説くのだという。無論、ルナルシオンは相手にしていない。近寄る前にバッサリ切り捨てている。

「ああ!幼い頃からお慕いしておりました!なんと美しく成長されたことか。しかも我がギリク語まで完璧とは運命を感じ「人違いですね。私は貴方を存知あげておりませんし、運命も感じません」

「勇者殿が居なくてお寂しいでしょう。私でよければお慰めし「結構です。ご機嫌よう」

「月より気高き貴方に賤しい血筋の男は相応しくな「私の夫を侮辱するか。撤回しない場合はギリク王国に正式に抗議させていただく」

 ルナルシオンは、『凍える月の君』『微笑まぬ氷輪』『冷ややかな大理石の君』と呼ばれる冷徹さを表す時がある。その冷徹をカタストロに対して遺憾無く発揮し、影すら踏ませない距離で拒絶した。
 しかし、相手は腐ってもギリク王国の王弟。外交問題になりかねないので、披露宴が終わるまでは追い出せない。外交官の受け入れを早めたのが仇となった形だ。
 問題はそれだけではない。ルナルシオンも周囲も、かなり最初の頃からカタストロに会わないようにしている。だというのに、カタストロは行く先々すべてで現れるのだ。
 スカイレッドは直接的な表現は使ってないが、内通者がいる可能性がある。それもルナルシオンの細かい行動が分かる近しい者だ。

『ただ、そうだとしても不自然です。嫌な予感がします。貴方が出来るだけ早く帰って来れるようにするので、時が来たら真っ先にルナルシオンの元に向かって下さい』

 『スカイレッドの勘』は外れない。悪い虫は、どうやらただの虫ではないらしい。ダガンは焦ったが、まだまだ残党が多い。各地を回って二ヵ月以上が過ぎたが、最低でもあと一ヵ月は帰れないだろう。残党の数ばかりではない。勇者本人が直々に回ることにも大いな意義があるのだ。

「勇者ダガン様と騎士団が来てくださった!もう大丈夫だぞ!」

「この御恩は忘れません!死んだ息子も浮かばれます!」

 勇者の登場に安堵する者、泣き崩れながら感謝する者、希望を抱いて復興作業に従事する者、彼らが待つ以上ダガンは帰れない。

「ルナルシオン……無事でいてくれ」

 聖剣を振り回しながら、愛しい伴侶を想った。
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