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蜜月の日々と宴の支度
蜜月の日々【6】
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「披露宴の必要性は理解しているが、それにしても半年後に各国の要人を招くのは早急すぎないか?」
一番の問題はそこだった。魔王の爪痕は今だに深い。
五年前、魔王はローゼラント王国の北の隣国ガルガンジアで誕生した。そして、大量の魔族と魔獣を生み出し、瞬く間にガルガンジアを滅ぼしてローゼラントの北部を蹂躙した。さらに、ローゼラントにすでに存在していた魔族と魔獣は呼応するかのように凶暴化し増殖した。
ローゼラント王国は未曾有の危機に陥った。国王バルドレッドの方針により、騎士団と魔術師団に潤沢な資金と庇護を与え、貴族が私軍をもち領土を防衛することを許していなければ、一年と保たなかっただろう。彼らは被害を防ぐべく、懸命に戦った。もちろんバルドレッドら王族も同じだ。それぞれの能力を活かして戦いぬいた。
だがそれでも、いくつかの領土と街は蹂躙されてしまった。半年で復興できる規模ではない。魔族と魔獣の残党狩りも必要だ。
「せめて一年に伸ばせないのか?いや、正直言ってそれでも難しいだろうが」
「いや、駄目だ。半年でも遅いぐらいだ。戦勝と復興を印象づけ、ローゼラント王国は盤石だと示さねばならん。特にギリクに対してな」
バルドレッドは西の隣国の名を吐き捨てるように言った。同時にルナルシオンの顔が険しくなる。
「得心いたしました。陛下の仰る通り、可能ならば今すぐにでも大規模な披露宴を催すべきでしょう。……ダガン、二年前のルビルク侵攻は知ってるかな?」
ダガンは旅先で聞いた凶報を思い出す。
やるせない事に、国土が蹂躙されたのは魔族と魔獣のせいばかりではなかった。
魔王が誕生して三年後の春。突如、南の隣国ギリク王国がローゼラント南端の領地ルビルクを侵攻した。数は騎士、兵士、魔術師あわせておよそ二万人の大軍であった。
『魔王が倒されるまでは、全ての国家間の軋轢は忘れ団結すべし』と、されるユラン大陸条約への重大な違反であり、ローゼラント王国への侮辱であった。しかもそのせいで、王家の信頼厚い辺境伯夫妻はじめ南方辺境伯軍はことごとくが戦死。筆舌に尽くし難い方法で皆殺しにされた。
当然、バルドレッドは激怒した。
バルドレッドは第二王女ラヴィネリッサと共に、一万人を率いてギリク軍を叩き潰した。ギリク兵の大半は、ラヴィネリッサの氷魔術と剣によって凍らされ斬り裂かれるか、バルドレッドの拳で文字通り炸裂し赤い花火となった。特にバルドレッドの戦いぶりは苛烈を極めた。降伏を許さず敵を粉砕する様は正に鬼神。ルビルクの山々の至る場所に、血の池と川が出来たと語られる戦いぶりであった。
こうして、ルビルク侵攻からわずか三か月で勝敗は決した。ギリク軍は全滅し、停戦協定が結ばれた。このままギリクを侵攻し滅ぼしてやりたいのが本音だったが、魔族と魔獣の対応に追われている現状では現実的ではない。また、そうでなくとも資源に乏しいギリク王国を滅ぼす利は少ない。
結局、教会と東の隣国であるラスパニアのとりなしのもと、ギリク王国が多額の賠償金を払う事、公文書にて正式に謝罪する事、『不戦の誓い』を結ぶ事で手打ちとした。『不戦の誓い』は魂を縛る契約である。今後、ギリク王国王族はローゼラント王国に侵攻できなくなった。ギリクの国王は調停式にて屈辱に震えていたが、怒りたいのはこちらである。
「あの火事場泥棒どもが反省するわけねえ。『不戦の誓い』も他所の国にやらせるなりなんなり抜け道があるしなぁ。だから、格の違いを見せつけて不埒な考えを叩き潰してやらねえといけねえんだ。もちろん、他の国に対してもだ。わかったか?国から離れていたダガンはともかく、ルナルシオンはここまでわかってねえと駄目だぞ。幸せボケしすぎだぁ」
「仰る通りです。私が短慮でした」
「俺もだ。浮かれすぎていた」
ルナルシオンとダガンは素直に謝罪した。
「おう。以後気をつけろよぉ」
バルドレッドは鷹揚に許す。ダガンは口を開いた。
「それはそれとして、俺たちに関わる事を相談なく決めるのはやめろよ。俺はルナルシオンと国を出てもいいんだからな」
「えっ」
「私もいいよ。もちろん業務と研究の引き継ぎは完璧に行います。ご安心下さい」
「やだあああああ!ごめんなさい!もうしませんんんんん!」
こうして謁見は終わった。
翌日からダガンとルナルシオンは忙殺される事になる。
一番の問題はそこだった。魔王の爪痕は今だに深い。
五年前、魔王はローゼラント王国の北の隣国ガルガンジアで誕生した。そして、大量の魔族と魔獣を生み出し、瞬く間にガルガンジアを滅ぼしてローゼラントの北部を蹂躙した。さらに、ローゼラントにすでに存在していた魔族と魔獣は呼応するかのように凶暴化し増殖した。
ローゼラント王国は未曾有の危機に陥った。国王バルドレッドの方針により、騎士団と魔術師団に潤沢な資金と庇護を与え、貴族が私軍をもち領土を防衛することを許していなければ、一年と保たなかっただろう。彼らは被害を防ぐべく、懸命に戦った。もちろんバルドレッドら王族も同じだ。それぞれの能力を活かして戦いぬいた。
だがそれでも、いくつかの領土と街は蹂躙されてしまった。半年で復興できる規模ではない。魔族と魔獣の残党狩りも必要だ。
「せめて一年に伸ばせないのか?いや、正直言ってそれでも難しいだろうが」
「いや、駄目だ。半年でも遅いぐらいだ。戦勝と復興を印象づけ、ローゼラント王国は盤石だと示さねばならん。特にギリクに対してな」
バルドレッドは西の隣国の名を吐き捨てるように言った。同時にルナルシオンの顔が険しくなる。
「得心いたしました。陛下の仰る通り、可能ならば今すぐにでも大規模な披露宴を催すべきでしょう。……ダガン、二年前のルビルク侵攻は知ってるかな?」
ダガンは旅先で聞いた凶報を思い出す。
やるせない事に、国土が蹂躙されたのは魔族と魔獣のせいばかりではなかった。
魔王が誕生して三年後の春。突如、南の隣国ギリク王国がローゼラント南端の領地ルビルクを侵攻した。数は騎士、兵士、魔術師あわせておよそ二万人の大軍であった。
『魔王が倒されるまでは、全ての国家間の軋轢は忘れ団結すべし』と、されるユラン大陸条約への重大な違反であり、ローゼラント王国への侮辱であった。しかもそのせいで、王家の信頼厚い辺境伯夫妻はじめ南方辺境伯軍はことごとくが戦死。筆舌に尽くし難い方法で皆殺しにされた。
当然、バルドレッドは激怒した。
バルドレッドは第二王女ラヴィネリッサと共に、一万人を率いてギリク軍を叩き潰した。ギリク兵の大半は、ラヴィネリッサの氷魔術と剣によって凍らされ斬り裂かれるか、バルドレッドの拳で文字通り炸裂し赤い花火となった。特にバルドレッドの戦いぶりは苛烈を極めた。降伏を許さず敵を粉砕する様は正に鬼神。ルビルクの山々の至る場所に、血の池と川が出来たと語られる戦いぶりであった。
こうして、ルビルク侵攻からわずか三か月で勝敗は決した。ギリク軍は全滅し、停戦協定が結ばれた。このままギリクを侵攻し滅ぼしてやりたいのが本音だったが、魔族と魔獣の対応に追われている現状では現実的ではない。また、そうでなくとも資源に乏しいギリク王国を滅ぼす利は少ない。
結局、教会と東の隣国であるラスパニアのとりなしのもと、ギリク王国が多額の賠償金を払う事、公文書にて正式に謝罪する事、『不戦の誓い』を結ぶ事で手打ちとした。『不戦の誓い』は魂を縛る契約である。今後、ギリク王国王族はローゼラント王国に侵攻できなくなった。ギリクの国王は調停式にて屈辱に震えていたが、怒りたいのはこちらである。
「あの火事場泥棒どもが反省するわけねえ。『不戦の誓い』も他所の国にやらせるなりなんなり抜け道があるしなぁ。だから、格の違いを見せつけて不埒な考えを叩き潰してやらねえといけねえんだ。もちろん、他の国に対してもだ。わかったか?国から離れていたダガンはともかく、ルナルシオンはここまでわかってねえと駄目だぞ。幸せボケしすぎだぁ」
「仰る通りです。私が短慮でした」
「俺もだ。浮かれすぎていた」
ルナルシオンとダガンは素直に謝罪した。
「おう。以後気をつけろよぉ」
バルドレッドは鷹揚に許す。ダガンは口を開いた。
「それはそれとして、俺たちに関わる事を相談なく決めるのはやめろよ。俺はルナルシオンと国を出てもいいんだからな」
「えっ」
「私もいいよ。もちろん業務と研究の引き継ぎは完璧に行います。ご安心下さい」
「やだあああああ!ごめんなさい!もうしませんんんんん!」
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