半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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蜜月の日々と宴の支度

蜜月の日々【5】

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「……お前には怒ってない」

 ダガンは自分の拗ねた声に辟易とした。情け無い。いい年をして遅すぎる初恋に振り回され過ぎである。自己嫌悪で顔をしかめていると、ルナルシオンはそっと顔を引き寄せて目を合わせた。

「いいや。私が悪いよ。私が彼らに聞いたんだ。君が旅の間どんな風に過ごしていたか……そして、私の事を思い出してくれていたか。……浅ましいな」

 薄青い目に後悔と自嘲と、何よりダガンに対する思慕が浮かぶ。単純なもので、ダガンの自己嫌悪や怒りなど吹き飛んでしまった。

「そうじゃない。俺が怒ったのは、アイツらが俺たちの反応を面白がってたからだ。まあ、そこまで怒ってないから気にするな」

 安心させるように額に口付ける。ルナルシオンは表情を和らげ、お返しのようにダガンの首筋に口付けた。白金の髪が顎をくすぐる。

「悪くないが、どうせならこっちにしろ」

 唇を合わせやすいよう抱えなおし、しばし軽い口付けを交わしあう。考えてみれば、礼装姿のルナルシオンとこうするのは初めてだった。礼装は美貌と高貴さを引き立たせ、手の届かない存在だった頃を思い出させる。
 確かに旅の間、月を見ればルナルシオンを想起した。白金の髪からの連想ばかりではない。やはり当時から、いやそれ以前から恋をしていたのだろう。

「礼装のせいか、護衛騎士だった頃の君を思い出すよ。……あの頃は自覚していなかったけど、ずっと好きだったよ」

「……ああ、俺もだ」

 ダガンは幸せを噛み締めるように呟き、再び唇を寄せ白金の髪に指を遊ばせた。
 二人の睦み合いを広間の灯りと月の光が照らしていたが、誰も邪魔をしに来なかった。
 しばらく穏やかな愛撫を楽しんだダガンだったが、言わなければならない事を思い出してしまった。早い方がいいだろう。とても良い雰囲気だったから残念だが、ルナルシオンを膝の上から下ろして隣に座らせ口を開いた。

「ルナルシオン。俺たちの披露宴の話聞いたか?半年後に開催されるのが決定しているらしいんだが。先触れも済んでいるらしい」

 それまでホワホワと幸せそうに微笑んでいたルナルシオンの顔が固まった。

「なにそれ知らない……父上……」

 ルナルシオンは前半は呆然と、後半は怒りを滲ませて呟いた。身形を整えながら椅子から降り、広間の方向を向く。完全に『第三王子ルナルシオン』の顔に戻っている。そのままバルコニーの入り口近くまで歩み、控えていた従者に何かを囁いた。従者は静かに目立たぬよう歩き去る。

「ダガン、宴の後すぐ陛下と話せるよう手筈した。君も一緒に来て欲しい。いいね?」

「当たり前だろう。俺たち夫夫ふうふの話なんだから」

 ダガンがわざとおどけて言うと、ルナルシオンは花が綻ぶように微笑んだ。どの顔のルナルシオンも美しく愛しいが、やはり笑っている方がいいなと、ダガンは感じ入る。
 恐らく今夜、いや、これからしばらくはゆっくり出来なくなるだろうと分かった上での現実逃避であった。

 ◆◆◆◆◆◆

 魔王を倒しても戦後処理は残る。荒れた土地を復興し、滞りがちだった産業、物流、徴税、外交を正常化させねば国は立ち行かない。
 特に外交だ。ローゼラント王国は肥沃な土地、魅力的な資源、産業、文化を持つ大国である。ゆえに、常に周辺諸国から狙われていた。

「だからよぉー。舐められねえために、勇者であるダガンと王子であるルナルシオンの披露宴をド派手にする必要があんの。当たり前だろぉ」

 ここは国王バルドレッドの執務室だ。宴の閉会後、速やかにバルドレッドへのダガンとルナルシオンの謁見吊し上げが行われた。さっそく、息子に責められ息子婿兼親友にぶん殴られたバルドレッドは、完全に開き直った。ルナルシオンの眼差しが冷ややかさを増す。

「私たちが問題にしているのは、陛下が相談と連絡を怠ったからです。どうして家族のことになると自分一人の思い込みのまま暴走するんですか?ステラリリスに燃やされたぐらいではこたえませんか?私も魔具で攻撃するくらいはできますよ?……というか私、父上の事嫌いになりそうです」

「やだあああああ!ごめんなさい!おっしゃる通りです!オレが悪かったです!嫌わないでぇ!」

 泣いて息子にすがろうとするバルドレッドの顔をダガンの手が掴んで阻む。

「俺の夫に近づくな」

「うるせえ色ボケがあああああ!そもそもオレの息子だぞぉ!」

 ルナルシオンはポッと頬を赤らめてはにかむ。かわいいが、このままでは話が進まない。ダガンは口を開いた。
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