半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

文字の大きさ
上 下
14 / 36
蜜月の日々と宴の支度

蜜月の日々【3】

しおりを挟む
 翌朝、二人は礼装に身を包み王城に向かった。ダガンは黒地に銀に近い水色の刺繍を施した騎士の礼装で、ルナルシオンは白地に金色の刺繍を施した礼装だ。互いの目の色の刺繍を施すことで、婚姻したことを示している。
 まずは、うやむやになっていた褒賞の授与式だ。ダガンら勇者一行は、あの時のように壇上の下に整列して褒賞を受けた。ダガンはルナルシオンと結婚したので壇上にあがる権利があるが、仲間たちを蔑ろにしているようで嫌だったのだ。

「別に良いのにねえ」

「意外と気にしいなダガンさんらしい」

 などと言いつつ、仲間たちはにっこりした。

「お前ら、私語は慎め」

 ともかく、勇者ダガンは公爵の位と第三王子ルナルシオンを得た。また、今後も公爵として国防に携わる限り莫大な年金が支給される。聖女、魔術師、剣聖、拳士らもそれぞれが功績に見合った褒賞を与えられた。
 なお、魔術師ザリードは伯爵の位と、研究費として多額の報奨金を得た。ステラリリスとどうなるかは、彼ら自身の努力次第だろう。と、いうか若者たちは自分たちで色々と計画や根回しをしていたらしい。

(アイツ、まだちょっと焦げてるな……)

 ぶち壊したバルドレッドはあの後めちゃくちゃ怒られて、ステラリリスに物理的に燃やされたりぶっ飛ばされていたりした。そのせいで授与式の日取りとダガンたちの蜜月が微妙に伸びていたのだが、話の本筋から外れるので割愛する。
 また、勇者以外にも褒賞を与えられた者たちがいた。旅の支援者たちはもちろん、魔獣と魔族の討伐に高い功績があった者たちである。ローゼラント王国では、魔王が復活してから魔獣と魔族の出現率が跳ね上がり深刻化していたのだ。

「第三王子ルナルシオンよ。汝の功績は大である」

 その褒賞を与えられた一人に、第三王子ルナルシオンもいた。様々な古代および異国語の魔術書の翻訳に尽力し、数々の古代魔術と遺物の発見に貢献したからである。すでに管理していた王領を正式に譲り受け、さらにダガンとは嫁ぐ形で結ばれたが王子の位はそのままになった。反対する声は一つもない。五年前までは、武術も魔術も才がないルナルシオンを軽んじる者が少なくなかった。ルナルシオンはその頭脳と立ち回りで今の地位を盤石にしたのだ。

(流石は俺のルナルシオンだ)

 ダガンは我が事のように誇らしく、嬉しかった。

「皆、楽にせよ」

 全ての褒賞の授与が終わり、宴の開始までの休憩時間になっても、壇上のルナルシオンを見ていた。ルナルシオンも時折、ダガンに柔らかな眼差しを向けていた。
 幸福を噛み締めていたダガンに、勇者一行の一人である拳士サンダーソニアが話しかける。

「アンタ、本当にあの王子様が好きなんだねえ」

「っ!か、顔に出てたか?参ったな……」

 狼狽えるダガン。サンダーソニアは豪快に笑ってバンッ!と、背を叩いた。彼女はダガンよりずっと背は低いが、力は同じぐらい強い。攻撃してるとしか思えない衝撃が走った。

「冗談みたいな流れで結婚した時はどうなるかと思ったけど安心したよ!アタシは故郷に帰るけど元気でやんな!」

「あ、ああ。旦那さんと子供たちによろしくな」

 五年間ともに過ごした仲間たちとは、今日でお別れだ。それぞれが、故郷で復興作業に従事したり、元の生活に戻ったり、新しい勤めに従事するのだ。ひょっとしたら、もう一生会う事はないかもしれない。しんみりとするダガンだが、聖女グロリオーサは安心させるように微笑む。

「私は以前のように救いをもたらすため各地を周りますが、皆様にも会いに行きますわ」

「某も里に帰るが、復興後はいつでも馳せ参じよう。戦でも酒盛りでも、気軽に呼んでくれてかまわぬ」

「ええ……フォラータさんはお酒はちょっと。いや、剣で脅しても駄目ですよ。禁酒しなさい酒乱剣士が」

「あはは!ちんちくりん魔術師ザリードも言うようになったねえ!」

「ちんちくりんは止めてくださいよ。猪拳士め。と、言いますかダガンさん。少なくとも半年後には私たち再会しますよ」

「ん?なんかあったか?」

「えっ。まさか聞いてないんですか?あなたとルナルシオン殿下の披露宴が行われるんですが?」

 一切聞いてない。バルドレッドが勝手に決めたのだろう。親友と息子に対して雑すぎる。

「いやあ、アンタたちがいちゃついてて話聞いてなかっただけじゃないか?恋愛結婚なんだから新婚なんてそんなものだけどさ」

「確かに。ダガンさんって思い込み激しいところがありますし」

 否定できないのでバルドレッドをぶん殴ってから確認するのはやめにした。確認してから殴ろう。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

飼われる側って案外良いらしい。

なつ
BL
20XX年。人間と人外は共存することとなった。そう、僕は朝のニュースで見て知った。 なんでも、向こうが地球の平和と引き換えに、僕達の中から選んで1匹につき1人、人間を飼うとかいう巫山戯た法を提案したようだけれど。 「まあ何も変わらない、はず…」 ちょっと視界に映る生き物の種類が増えるだけ。そう思ってた。 ほんとに。ほんとうに。 紫ヶ崎 那津(しがさき なつ)(22) ブラック企業で働く最下層の男。悪くない顔立ちをしているが、不摂生で見る影もない。 変化を嫌い、現状維持を好む。 タルア=ミース(347) 職業不詳の人外、Swis(スウィズ)。お金持ち。 最初は可愛いペットとしか見ていなかったものの…?

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

男子高校生だった俺は異世界で幼児になり 訳あり筋肉ムキムキ集団に保護されました。

カヨワイさつき
ファンタジー
高校3年生の神野千明(かみの ちあき)。 今年のメインイベントは受験、 あとはたのしみにしている北海道への修学旅行。 だがそんな彼は飛行機が苦手だった。 電車バスはもちろん、ひどい乗り物酔いをするのだった。今回も飛行機で乗り物酔いをおこしトイレにこもっていたら、いつのまにか気を失った?そして、ちがう場所にいた?! あれ?身の危険?!でも、夢の中だよな? 急死に一生?と思ったら、筋肉ムキムキのワイルドなイケメンに拾われたチアキ。 さらに、何かがおかしいと思ったら3歳児になっていた?! 変なレアスキルや神具、 八百万(やおよろず)の神の加護。 レアチート盛りだくさん?! 半ばあたりシリアス 後半ざまぁ。 訳あり幼児と訳あり集団たちとの物語。 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 北海道、アイヌ語、かっこ良さげな名前 お腹がすいた時に食べたい食べ物など 思いついた名前とかをもじり、 なんとか、名前決めてます。     *** お名前使用してもいいよ💕っていう 心優しい方、教えて下さい🥺 悪役には使わないようにします、たぶん。 ちょっとオネェだったり、 アレ…だったりする程度です😁 すでに、使用オッケーしてくださった心優しい 皆様ありがとうございます😘 読んでくださる方や応援してくださる全てに めっちゃ感謝を込めて💕 ありがとうございます💞

完結・オメガバース・虐げられオメガ側妃が敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン王から溺愛されました

美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!

【完結】冷酷眼鏡とウワサされる副騎士団長様が、一直線に溺愛してきますっ!

楠結衣
恋愛
触ると人の心の声が聞こえてしまう聖女リリアンは、冷酷と噂の副騎士団長のアルバート様に触ってしまう。 (リリアン嬢、かわいい……。耳も小さくて、かわいい。リリアン嬢の耳、舐めたら甘そうだな……いや寧ろ齧りたい……) 遠くで見かけるだけだったアルバート様の思わぬ声にリリアンは激しく動揺してしまう。きっと聞き間違えだったと結論付けた筈が、聖女の試験で必須な魔物についてアルバート様から勉強を教わることに──! (かわいい、好きです、愛してます) (誰にも見せたくない。執務室から出さなくてもいいですよね?) 二人きりの勉強会。アルバート様に触らないように気をつけているのに、リリアンのうっかりで毎回触れられてしまう。甘すぎる声にリリアンのドキドキが止まらない! ところが、ある日、リリアンはアルバート様の声にうっかり反応してしまう。 (まさか。もしかして、心の声が聞こえている?) リリアンの秘密を知ったアルバート様はどうなる? 二人の恋の結末はどうなっちゃうの?! 心の声が聞こえる聖女リリアンと変態あまあまな声がダダ漏れなアルバート様の、甘すぎるハッピーエンドラブストーリー。 ✳︎表紙イラストは、さらさらしるな。様の作品です。 ✳︎小説家になろうにも投稿しています♪

精霊の港 飛ばされたリーマン、体格のいい男たちに囲まれる

風見鶏ーKazamidoriー
BL
 秋津ミナトは、うだつのあがらないサラリーマン。これといった特徴もなく、体力の衰えを感じてスポーツジムへ通うお年ごろ。  ある日帰り道で奇妙な精霊と出会い、追いかけた先は見たこともない場所。湊(ミナト)の前へ現れたのは黄金色にかがやく瞳をした美しい男だった。ロマス帝国という古代ローマに似た巨大な国が支配する世界で妖精に出会い、帝国の片鱗に触れてさらにはドラゴンまで、サラリーマンだった湊の人生は激変し異なる世界の動乱へ巻きこまれてゆく物語。 ※この物語に登場する人物、名、団体、場所はすべてフィクションです。

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...