半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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私たち結婚しました

私たち結婚しました【8】

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 ルナルシオンは、あれだけ盛り上がって結婚したが、しょせんは『神聖愛歌エンダーイヤー』の効果だろうと当たりをつけていた。すぐに態度を改めたとはいえ、宴ではあれ程ルナルシオンをおとしめたのだ。

(ダガンは、私のことなど良くて『かつて忠誠を誓った主』か『親友の息子』悪くて『自分に懐いてる王族』としか思っていないだろう)

 そもそも、共に過ごした間にダガンがルナルシオンに性的な眼差しを向けた事もなかったのだ。まあ、王子と護衛騎士という関係。しかも、二十八歳差なのだから当たり前といえば当たり前だが。
 男好きだと公言していたが、よほどルナルシオンは好みでないか、子供としか思っていなかったのだろう。形だけの夫夫ふうふになる可能性が高い。冷静に分析すればするほど悲しい。切ない。

「今夜は何もないかも知れないな……いや!ならば私からダガンの所に行けばいい!」

 今度は不安を散らすためゴロゴロした。
 男好きならば、性的なアレそれは不可能ではないはず。これから頑張って口説こう。とりあえず、今日は思い出話に花を咲かせて警戒心を解いて、昔みたいに沢山甘えて一緒に寝よう。などと妄想を膨らませた。

「で、でも上手くいったら手をつないじゃったり、く、くち、く……!」

 ゴロンゴロンしながら妄想に照れるルナルシオン。知識はあってもねやの手解きは受けていない。純情まっしぐらな青少年であった。

「だめだ。落ち着こう。いい歳してこんな……」

「何やってんだお前」

「わー!って、ダ、ダガン様!なんっ?うぇっ!」

 ルナルシオンはパニックにおちいった。好きな人に妄想を炸裂させているのを見られた。落ち着けるわけがない。ダガンは何を思ったか、そんなルナルシオンを優しく見つめて頬を撫でる。
 ルナルシオンは固まった。触れられた頬が熱い。

「おう。扉叩いても返事がないから勝手に入らせてもらった」

「そ、そうですか。失礼しまし……あの……?」

「ん?嫌だったか?」

 ダガンはへにゃっと眉を下げて手を引く。ルナルシオンは慌てて手を取った。

「まさか!びっくりしただけです!」

 ルナルシオンはぎゅっと手を握った。そして気づく。宴では色々とそれどころではなかったが、ダガンの手は旅に出る前よりも傷だらけで分厚く固く節くれだっていた。
 この手は、五年の歳月と過酷な戦いが作り上げたのだ。胸が熱くなり涙が滲む。

「本当に無事でよかった……。ダガン様の尊い御手に触って頂けるなんて……嬉しいです」

 それはそうとトキメキと身体の反応がヤバいので控えて欲しい。と、言う前に手を離され、大きな身体に抱きしめられた。

「あの……?」

 ルナルシオンの全身が火照り、鼓動が早鐘を打つ。そしてそれはダガンも同じだった。

(ダガン……私で興奮しているのか?抱いてくれるのか?)

 驚きと幸福で気が遠くなっていった。だというのに、ダガンはとどめを刺した。

「ダガン様じゃない。言っただろ?昔みたいに呼び捨てにして敬語をやめろ。……お前は臣下じゃない。俺の夫なんだ」

「あ……。ダガン……んっ!」

 ルナルシオンが息も絶え絶えに名前を呼んだ瞬間、名前を奏でた舌を絡め取られた。口付けは深く、長く、容赦なく続く。
 やがてルナルシオンの傷一つない端正な手がダガンの背に回る。無意識に腰が動き、薄絹越しにダガンの腹に擦り付けた。
 ダガンは口付けを中断して手を伸ばす。

「あっ……んっ!」

 軽く触れられたルナルシオンの陰茎はゆるく勃ち、先走りで薄絹をしっとりと濡らしていった。ダガンは雄臭い笑みを零した。

「……若いな。そんなに俺が好きか?」

 ルナルシオンは羞恥に頬を染めつつ頷いた。

「うん……だからどうか、君の好きにして欲しい……」

「……っ!わ、わかった」

 ダガンは照れ臭いのか頬を染めてそっぽを向いた。ルナルシオンは子供っぽい仕草にときめき、また先走りをこぼしてしまう。

「……で、お前は?俺に何をして欲しい?何がしたい?」

 ルナルシオンはダガンの優しさに胸がいっぱいになった。

「君も私の名を呼んで」

「それだけか?」

「……充分だよ」

 本当は自分を好きになって欲しいし、二度と側を離れないで欲しい。だが、それは言えない。勇者には魔王を倒した後も使命がある。有事の際、人類の希望として最前線で戦う使命が。それは勇者だからこそできる偉業だ。ルナルシオンはよくわかっていた。
 けれど、ダガンは納得していない様子だ。

「わかった。言いたくなるまで可愛がってやる」

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