半魔の勇者は第三王子を寵愛する

花房いちご

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私たち結婚しました

私たち結婚しました【4】

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 ダガンは照れ隠しにそっぽを向いて返した。バルドレッドは出会った時から変わらない。ダガンの親友『拳士バルド』のままだ。
 しかし、半魔だ化け物だと蔑まれるのは昔からだ。関わるうちにダガンを認める者も多いが、聖女たち仲間ですら最初は警戒していた。
 初めからダガンを受け入れたのは、バルドレッドとテオドラとルナルシオンだけだ。この三人が居なければ、ダガンは勇者になれなかっただろう。まあ、バルドレッドとテオドラは感性がかなり常人離れしているからアレだが。

「んで、おめえはルナルシオンをどう思ってるんだ。目をかけてやってたのは知ってるけどよ」

「ああ……ルナルシオン殿下はお前ら以上に稀有なお方だったからな」

 ルナルシオンと初めて会った日の事を、ダガンは生涯忘れないだろう。

 ◆◆◆◆◆◆

 ダガンが三十六歳の時だった。
 王城に呼び出されて陞爵の儀を受けた。国王バルドレッドと王妃テオドラより、男爵の位と『自由に王城に出入りする権限』『先触れすれば国王以下王族に謁見できる権限』が与えられる。これまでの数々の武勲と忠義への褒賞だ。
 後ろ盾も無い騎士に対して破格の扱いだが、バルドレッドは不満顔である。

「頭の硬い者どもを説得するのに時間がかかりすぎた。しかし、男爵は低すぎる」

 ダガンに不満はない。そもそも、半魔の身で騎士になれたことが奇跡だ。やんわり伝えると、今度はテオドラが鋭く毒付いた。

「奇跡?私たちが認めたと言うのに?フッ。今までが不当だったと、いずれ誰もがその身に思い知るでしょう」

(いや、事実だ。だから口を慎め殺気を引っ込めろ。書記官が泡吹いてる)

 その後、バルドレッドとテオドラの子息女たちに会う場を設けられた。数は八人。上は十八歳で下は四歳であった。
 ダガンは騎士らしくひざまずいて挨拶したのだが……。

「そ、そなたがダガンか……」

「ひっ!な、なに、怖い……!」

「頭の角?魔族?何故ここに?」

「お前ら下がれ!」

 ほぼ全員がダガンの見た目に怯えるか嫌悪した。礼儀正しく挨拶をしようとする第一王子も顔が引きつっている。第二王子と第二王女に至っては拳を構え剣を抜こうとした。
 だが、八歳のルナルシオンだけが違った。

「みんな、どうして怖がってるの。こんなに優しい金色の目をしていて、私たちを怖がらせないよう穏やかな声を出してくれているのに。失礼だよ」

 ダガンは打ち震え、不敬とわかっていたがルナルシオンを凝視した。ルナルシオンは微笑み返す。その表情には、ダガンへの親しみと敬意しかない。

「君がダガンだね。いつも私たちのために戦ってくれてありがとう。北端砦の攻防も、ランダリオンの戦いも、ワイバーンの大発生も、君のおかげでおさまったと聞いたよ。これからもよろしくね」

 ルナルシオンはダガンに微笑みかけ、歩み寄って小さな手を差し出した。それは、王侯貴族が騎士に忠誠を許し、信頼を表明する際の姿勢だった。
 一番人見知りで気弱な性格なのにと、バルドレッドたちは驚く。しかし、一番驚いたのはダガンだった。捨て子だった自分を育ててくれた両親の、最期の言葉が浮かぶ。

『お前にとって世界は過酷だ。いつか全てを憎む日が来るだろう。だがどうか、憎しみだけに囚われないでくれ』

『生きて。今は悲しくても、いつかまた喜びは訪れるから。私たちの大切な子』

 悲しみの後の喜びはここにあった。
 ダガンは居住まいを正し、その手を取り改めて王家への忠誠を誓った。

「身に余るお言葉を賜り恐悦至極に存じます。このダガン・シュラハ。我が剣と魂に誓い、我が命果てるまでローゼラント王家にお仕え申し上げます」

 内心では、王家とは別にルナルシオン個人に対して強く忠誠を誓った。
 以来、ルナルシオンはダガンの光となった。
 どんな過酷な戦場においても、辛い行軍においても、悪辣な嫌がらせをされた時も、その顔を浮かべれば奮起ふんきし癒された。
 バルドレッドはあれ以来、ダガンを出来るだけ王城に招くようになり、必ずルナルシオンに会わせた。ルナルシオンはダガンの話を良く聞き、また自分も良く話した。

「ルナルシオン殿下は、もうギリク語とラスパニア語を話せるのですか」
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