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私たち結婚しました
私たち結婚しました【1】
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それは、勇者が魔王を倒した事を祝う宴でのことだった。
宴は、ローゼラント王国王城の広間で開催され、まず国王による勇者たちへの褒賞が発表された。
壇上には国王、王妃、第一王子、第二王子、第三王子、第五王女が並び、勇者たち五名は跪いて拝聴している。
白金の髪と緑色の目、堂々たる体躯を備えた国王バルドレッド・ローゼラントは厳かに述べた。
「勇者ダガンよ。そなたに公爵の位を与え、我が娘ステラリリスとの婚姻を許そう。我が義息子よ。面をあげよ。階を上がり我らが側近くに参るがいい」
広間に激震が走る。それは第五王女ステラリリス・ローゼラントも同じであった。歳は十八歳。金髪に緑色の目を持つ姫君は、顔を強ばらせ身体をよろめかせた。
その身体を、白金の長髪と薄青い目の貴公子が支える。若干二十二歳。月に喩えられる美貌を持つ第三王子ルナルシオン・ローゼラントであった。
「ダガン様……」
ルナルシオンは途方に暮れたように呟き、ダガンを見つめた。
他者の反応は様々だ。王妃、第一王子、第二王子は動じない。
王侯貴族の中でも武に秀でた者たちや、騎士などの武官たちは、ダガンに敬意や羨望の眼差しを送る。
どちらでも無い者たちは動揺しつつ見守った。
そして、大半の王侯貴族たちはダガンを睨む。
ダガンは元は王国の騎士だ。平民から成り上がり、子爵の位と家名を得ていた。彼らは身分ともう一つの理由でダガンを疎み、勇者として旅立つ際身分を捨てさせた。だと言うのに公爵の位を得るばかりか姫と縁組だ。もう一つの理由もあり、憎悪の眼差しを送るのは当然と言えた。
ダガンはこれら無数の視線にさらされたが、動じずに顔を上げて立ち上がる。
あちこちで、小声だが悲鳴じみた声が上がる。
「王家の血が穢れる!」
「混じりものが!」
勇者ダガンの背は高く筋骨隆々。黒髪と金色の目と赤黒い肌をもち、顔には五十歳の年輪と野生的な精悍さが刻まれている。
そして、頭にはねじれた角が二本生えていて八重歯が牙のように発達していた。
半魔。魔族と人間の合いの子である。
ダガンはその場で立ったまま、力強く豊かに響く声を発した。
「この身に余る栄誉でございます。ですが……お断り申し上げます」
ダガンの言葉に広間が凍りつく。国王は寛大な為政者だが、鍛え上げられた体躯を持つ恐るべき拳士でもある。特に戦場で戦う際と、王妃と子息女たちを蔑ろにする者を罰する際は容赦がない。
「なんだと?」
案の定、緑色の目を燃え上がらせて前に一歩出た。鋭い声で問う。
「ステラリリスになんの不満がある!」
「女だからです」
「は?」
「女とは結婚できません」
「え?」
今度こそ全員が凍りついた。そして、ダガンの態度と口調がガラリと変わる。呆れたように溜息をついて頭を掻きながらわめく。
「だから俺は男でしか勃たねえっつってんだ!」
「ええっ?」
波のように動揺が走り、広間中がざわめく。ダガンの仲間たち勇者一行もだ。
聖女は呆れたように「あらまあ。ご乱心?」と呟き、剣聖は同情を込めて「おいたわしやダガン殿。五年間戦いづめでしたからなあ……」と嘆き、魔術師は「す、ステラは僕のこ、こい、こここ……」と、鳴き、拳士は「声が小さいよ!しっかりおし!」と、魔術師を怒鳴った。
王妃は肩を震わせて扇子を広げて顔を隠し、第一王子は口をポカンと開けたのち苦笑いし、第二王子は怒りからか顔を歪めた。
国王もまた、体裁やら声やらが崩れてしまう。
「え?いや、おめぇ、なぁに言ってんだぁ?ボケたか?打ち合わせと違うって……おい!」
ダガンは国王を無視して壇上に上がり、ステラリリスとルナルシオンの前に立った。鋭い眼差しで品定めするように見下す。ステラリリスはすくみ上がった。
反面、妹姫に寄り添うルナルシオンは動じない。長身の自分より頭一つ分以上は大きなダガンを、真っ直ぐ見上げた。
「うん。お姫様じゃピクリともこねえ。勇者の血を取り込むのは諦めて好きな奴と一緒になりな。まあ……こっちの王子様ならもらってやってもいいぜ?」
ダガンの太い指がルナルシオンに伸ばされる。ルナルシオンは目を見開き手を上げ……。
「喜んで結婚します!貴方の好きにしてください!」
ルナルシオンは差し出された手を両手でしっかり握り、満面の笑みで承諾した。
「は?」
こうして勇者ダガンは第三王子ルナルシオン・ローゼラントと結婚したのだった。
宴は、ローゼラント王国王城の広間で開催され、まず国王による勇者たちへの褒賞が発表された。
壇上には国王、王妃、第一王子、第二王子、第三王子、第五王女が並び、勇者たち五名は跪いて拝聴している。
白金の髪と緑色の目、堂々たる体躯を備えた国王バルドレッド・ローゼラントは厳かに述べた。
「勇者ダガンよ。そなたに公爵の位を与え、我が娘ステラリリスとの婚姻を許そう。我が義息子よ。面をあげよ。階を上がり我らが側近くに参るがいい」
広間に激震が走る。それは第五王女ステラリリス・ローゼラントも同じであった。歳は十八歳。金髪に緑色の目を持つ姫君は、顔を強ばらせ身体をよろめかせた。
その身体を、白金の長髪と薄青い目の貴公子が支える。若干二十二歳。月に喩えられる美貌を持つ第三王子ルナルシオン・ローゼラントであった。
「ダガン様……」
ルナルシオンは途方に暮れたように呟き、ダガンを見つめた。
他者の反応は様々だ。王妃、第一王子、第二王子は動じない。
王侯貴族の中でも武に秀でた者たちや、騎士などの武官たちは、ダガンに敬意や羨望の眼差しを送る。
どちらでも無い者たちは動揺しつつ見守った。
そして、大半の王侯貴族たちはダガンを睨む。
ダガンは元は王国の騎士だ。平民から成り上がり、子爵の位と家名を得ていた。彼らは身分ともう一つの理由でダガンを疎み、勇者として旅立つ際身分を捨てさせた。だと言うのに公爵の位を得るばかりか姫と縁組だ。もう一つの理由もあり、憎悪の眼差しを送るのは当然と言えた。
ダガンはこれら無数の視線にさらされたが、動じずに顔を上げて立ち上がる。
あちこちで、小声だが悲鳴じみた声が上がる。
「王家の血が穢れる!」
「混じりものが!」
勇者ダガンの背は高く筋骨隆々。黒髪と金色の目と赤黒い肌をもち、顔には五十歳の年輪と野生的な精悍さが刻まれている。
そして、頭にはねじれた角が二本生えていて八重歯が牙のように発達していた。
半魔。魔族と人間の合いの子である。
ダガンはその場で立ったまま、力強く豊かに響く声を発した。
「この身に余る栄誉でございます。ですが……お断り申し上げます」
ダガンの言葉に広間が凍りつく。国王は寛大な為政者だが、鍛え上げられた体躯を持つ恐るべき拳士でもある。特に戦場で戦う際と、王妃と子息女たちを蔑ろにする者を罰する際は容赦がない。
「なんだと?」
案の定、緑色の目を燃え上がらせて前に一歩出た。鋭い声で問う。
「ステラリリスになんの不満がある!」
「女だからです」
「は?」
「女とは結婚できません」
「え?」
今度こそ全員が凍りついた。そして、ダガンの態度と口調がガラリと変わる。呆れたように溜息をついて頭を掻きながらわめく。
「だから俺は男でしか勃たねえっつってんだ!」
「ええっ?」
波のように動揺が走り、広間中がざわめく。ダガンの仲間たち勇者一行もだ。
聖女は呆れたように「あらまあ。ご乱心?」と呟き、剣聖は同情を込めて「おいたわしやダガン殿。五年間戦いづめでしたからなあ……」と嘆き、魔術師は「す、ステラは僕のこ、こい、こここ……」と、鳴き、拳士は「声が小さいよ!しっかりおし!」と、魔術師を怒鳴った。
王妃は肩を震わせて扇子を広げて顔を隠し、第一王子は口をポカンと開けたのち苦笑いし、第二王子は怒りからか顔を歪めた。
国王もまた、体裁やら声やらが崩れてしまう。
「え?いや、おめぇ、なぁに言ってんだぁ?ボケたか?打ち合わせと違うって……おい!」
ダガンは国王を無視して壇上に上がり、ステラリリスとルナルシオンの前に立った。鋭い眼差しで品定めするように見下す。ステラリリスはすくみ上がった。
反面、妹姫に寄り添うルナルシオンは動じない。長身の自分より頭一つ分以上は大きなダガンを、真っ直ぐ見上げた。
「うん。お姫様じゃピクリともこねえ。勇者の血を取り込むのは諦めて好きな奴と一緒になりな。まあ……こっちの王子様ならもらってやってもいいぜ?」
ダガンの太い指がルナルシオンに伸ばされる。ルナルシオンは目を見開き手を上げ……。
「喜んで結婚します!貴方の好きにしてください!」
ルナルシオンは差し出された手を両手でしっかり握り、満面の笑みで承諾した。
「は?」
こうして勇者ダガンは第三王子ルナルシオン・ローゼラントと結婚したのだった。
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