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【19】偽り聖女と誘い
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いくら許可されたとはいえ裸同然の格好でアロイスの前に出ることには躊躇いがある。しかしそんな羞恥よりも大切なのはアロイスの身体だ。リエーベルは思い切って浴室を飛び出した。
「お待たせして申し訳ありませんでした。アロイス様も、早く温まって下さいね」
けれどアロイスは一度こちらに視線を寄越してからというもの、開いてもいないカーテンの向こうに意識を向けている。
「雨、随分と強くなっているみたいだ。これは朝まで止みそうにないかな」
激しい雨音に混じり、この宿で一夜を明かすことが決定として告げられる。それよりもリエーベルは早くアロイスに身体を温めてほしかった。
「アロイス様……私は、何か至らないことがありましたか?」
「え?」
アロイスの発した声は驚きを感じさせるものではあるが、まだこちらを向いてくれるつもりはないらしい。
「先ほどから私の方を見て下さらないのですね」
「ああ……」
はっきりと指摘をしてもアロイスはこちらを見ようとはしなかった。ぼんやりとした返答をされるばかりのリエーベルは自ら踏み込み、アロイスの頬に触れることで境界を越える。両手でやんわりと挟み込んだ頬はやはり冷えていた。
「ちょっ、きみっ!?」
「アロイス様、やはりお身体が冷えています。早くお湯を浴びて下さい。アロイス様?」
話を聞いてほしくて瞳を覗く。当然ではあるが、強引に視線を合わせるとアロイスは状況に困惑していた。
「……きみがあたためてはくれないの?」
「私がですか?」
言われた意味がわからず、つい首を傾げてしまう。アロイスは触れてたリエーベルの手に自らのものを重ねると猫のようにすり寄った。
「何も知らない顔をして、きみは残酷だね」
そこまでされて、遂にリエーベルは温めるの意味を正しく理解したのだたった。
「あ……! な、わ、私、知らないふりだなんて!」
「そうだね。きみは純粋な子だから。でもここはね、そういうことをするための場所だよ。どうしてベッドが一つしかないと思うの? 純粋なきみはそんなことも知らないんだね」
これだから何も知らない聖女はと、馬鹿にされているようだった。まあ、聖女は関係ないけれど。
「きみが入浴している間、頭を冷やしていたんだ。またきみを襲ってしまいそうで、自分を押さえてた。それなのにきみは、警戒もせず俺に近づいてしまう。自分がどれほど心許ない格好をしているのか、きちんとわかっている?」
ため息を吐くようにアロイスは指摘を続けてくる。
「ここで泣き叫んだって夫婦の間に起きたことだ。誰もきみを助けてはくれないよ」
選択権はリエーベルに与えられた。それでもいいのかと眼差しが答えを求めてくる。
突き放すような言い草にリエーベルも黙ってはいられない。何も言わなくてもあれほどリエーベルの望みを察してくれた人が、こんな時ばかりはまるで気持ちを汲んではくれないのだ。アロイスは大切な部分を誤解している。
「どうして助けが必要になるのですか。私はアロイス様に乱暴されるのではありません。私は、アロイス様に襲われたなんて思いません」
「きみ……」
「私だって……アロイス様のことを求めました」
リエーベルは震える指先でタオルを落とす。結び目を解かれたタオルは床に落ち、リエーベルの裸体を隠すものはなくなった。
白い肌が驚きに見開かれたアロイスの眼前に晒されている。美しい瞳に映る貧相な身体を想像して恐怖に身が竦んだが、リエーベルは引き下がらなかった。
「もう一度、愛していただけたら嬉しいと……あなたを求めていたのは私も同じです。私も……いけないことを、考えてしまいました」
「いけないこと?」
興味深そうに訊ねられる。恥ずかしいけれど、自分から言い出したのだから答えなければならない雰囲気だ。
「とても、ふしだらなことです。聖女として、いえ女性としてあるまじき、ような……」
「たとえば?」
「たとえば!?」
なんとかぼかして答えたのだが、追求されて余計に酷い展開になってしまった気がする。
「それはっ……、ですからアロイス様に、抱かれたいと……きっ、キスをしたいとかっ!」
それ以上の発言は何をどう言えば伝わるのかわからなかった。あるいは最初から、愛して欲しいと言えばよかったのだろうか。
「そっか……ありがとう。嬉しいな」
わずかな言葉であるからこそ、そこにアロイスの喜びが満ちていることを感じた。
「初めての時は、いくらきみが許してくれたとはいえ本当に悪かったと思ってる。きみの身体に負担を強いてしまったね。だからきみがどうしたいのか、何を思っているのか不安だった」
「アロイス様、私の答えは決まっています。それに私はアロイス様の方が……」
「ん?」
「私は……私はっ、アロイス様に気持ちよくなっていただきたいのです! あ、アロイス様が望んで下るのなら私は、どんなことでも叶えて差し上げたいのです!」
勢い任せに言い放つとアロイスの表情が固まった。いくら願っていたこととはいえ正直すぎただろうか。
「うん。いつまでも女性を待たせておくわけにはいかないよね。――きて」
とびきりの笑顔で誘われる。アロイスから差し出された手は甘い誘惑のようだった。手を重ねればゆっくりとベッドへ導かれ、この先に待つ快楽に喉が鳴る。
アロイス自身も羽織っていたタオルを落とし、煩わしそうにシャツも脱ぎ捨てた。
ベッドの上へと導かれたリエーベルは身体が緊張で強張るのを感じていた。つい勢いで言ってしまったけれど、とんでもないことをしでかしたと早くも後悔していた。少し、いやかなり、はしたなかったのではないだろうか。
さっそくリエーベルは引き締まったアロイスの身体を前に足を崩した格好で固まっていた。ベッドの上には居場所がないように思えて身動きがとれない。
アロイスから無言で身体を見つめられ、リエーベルは大切な場所を隠したくなった。本来ドレスの下に隠しておくべき胸も秘部も、すぺて見られているのだ。しかし見越したアロイスに腕をとられて阻止される。
「見せて。きみの身体、ちゃんと見たいんだ」
やけにじっくりと見られているとは思ったけれど、気のせいではなかったらしい。
「あの時は見ている余裕がなかったからね」
アロイスの言う通りだった。何も見えないままに始まって、怖くて。ずっと痛くて。焼け付くような感覚を堪えているうちに意識が飛んでいた。
「今度はちゃんと、きみを善くしてあげたいんだ。俺がどれほどきみのことを愛しているかも知ってほしい。だから、ね。見せて?」
とびきりのお願いに否定する気なんて起こらない。とても恥ずかしいけれど、アロイスのためならとリエーベルは掴まれていた腕から力を抜いた。
「ところで……きみに不安を与えてしまったことは申し訳なかったけれど、見えない中での初めてって、刺激的だった?」
身体はなんとか我慢したけれど、リエーベルは一瞬の隙を突いて顔を隠していた。続けて語られる赤裸々な言葉に耐えきれそうになかった。
「お待たせして申し訳ありませんでした。アロイス様も、早く温まって下さいね」
けれどアロイスは一度こちらに視線を寄越してからというもの、開いてもいないカーテンの向こうに意識を向けている。
「雨、随分と強くなっているみたいだ。これは朝まで止みそうにないかな」
激しい雨音に混じり、この宿で一夜を明かすことが決定として告げられる。それよりもリエーベルは早くアロイスに身体を温めてほしかった。
「アロイス様……私は、何か至らないことがありましたか?」
「え?」
アロイスの発した声は驚きを感じさせるものではあるが、まだこちらを向いてくれるつもりはないらしい。
「先ほどから私の方を見て下さらないのですね」
「ああ……」
はっきりと指摘をしてもアロイスはこちらを見ようとはしなかった。ぼんやりとした返答をされるばかりのリエーベルは自ら踏み込み、アロイスの頬に触れることで境界を越える。両手でやんわりと挟み込んだ頬はやはり冷えていた。
「ちょっ、きみっ!?」
「アロイス様、やはりお身体が冷えています。早くお湯を浴びて下さい。アロイス様?」
話を聞いてほしくて瞳を覗く。当然ではあるが、強引に視線を合わせるとアロイスは状況に困惑していた。
「……きみがあたためてはくれないの?」
「私がですか?」
言われた意味がわからず、つい首を傾げてしまう。アロイスは触れてたリエーベルの手に自らのものを重ねると猫のようにすり寄った。
「何も知らない顔をして、きみは残酷だね」
そこまでされて、遂にリエーベルは温めるの意味を正しく理解したのだたった。
「あ……! な、わ、私、知らないふりだなんて!」
「そうだね。きみは純粋な子だから。でもここはね、そういうことをするための場所だよ。どうしてベッドが一つしかないと思うの? 純粋なきみはそんなことも知らないんだね」
これだから何も知らない聖女はと、馬鹿にされているようだった。まあ、聖女は関係ないけれど。
「きみが入浴している間、頭を冷やしていたんだ。またきみを襲ってしまいそうで、自分を押さえてた。それなのにきみは、警戒もせず俺に近づいてしまう。自分がどれほど心許ない格好をしているのか、きちんとわかっている?」
ため息を吐くようにアロイスは指摘を続けてくる。
「ここで泣き叫んだって夫婦の間に起きたことだ。誰もきみを助けてはくれないよ」
選択権はリエーベルに与えられた。それでもいいのかと眼差しが答えを求めてくる。
突き放すような言い草にリエーベルも黙ってはいられない。何も言わなくてもあれほどリエーベルの望みを察してくれた人が、こんな時ばかりはまるで気持ちを汲んではくれないのだ。アロイスは大切な部分を誤解している。
「どうして助けが必要になるのですか。私はアロイス様に乱暴されるのではありません。私は、アロイス様に襲われたなんて思いません」
「きみ……」
「私だって……アロイス様のことを求めました」
リエーベルは震える指先でタオルを落とす。結び目を解かれたタオルは床に落ち、リエーベルの裸体を隠すものはなくなった。
白い肌が驚きに見開かれたアロイスの眼前に晒されている。美しい瞳に映る貧相な身体を想像して恐怖に身が竦んだが、リエーベルは引き下がらなかった。
「もう一度、愛していただけたら嬉しいと……あなたを求めていたのは私も同じです。私も……いけないことを、考えてしまいました」
「いけないこと?」
興味深そうに訊ねられる。恥ずかしいけれど、自分から言い出したのだから答えなければならない雰囲気だ。
「とても、ふしだらなことです。聖女として、いえ女性としてあるまじき、ような……」
「たとえば?」
「たとえば!?」
なんとかぼかして答えたのだが、追求されて余計に酷い展開になってしまった気がする。
「それはっ……、ですからアロイス様に、抱かれたいと……きっ、キスをしたいとかっ!」
それ以上の発言は何をどう言えば伝わるのかわからなかった。あるいは最初から、愛して欲しいと言えばよかったのだろうか。
「そっか……ありがとう。嬉しいな」
わずかな言葉であるからこそ、そこにアロイスの喜びが満ちていることを感じた。
「初めての時は、いくらきみが許してくれたとはいえ本当に悪かったと思ってる。きみの身体に負担を強いてしまったね。だからきみがどうしたいのか、何を思っているのか不安だった」
「アロイス様、私の答えは決まっています。それに私はアロイス様の方が……」
「ん?」
「私は……私はっ、アロイス様に気持ちよくなっていただきたいのです! あ、アロイス様が望んで下るのなら私は、どんなことでも叶えて差し上げたいのです!」
勢い任せに言い放つとアロイスの表情が固まった。いくら願っていたこととはいえ正直すぎただろうか。
「うん。いつまでも女性を待たせておくわけにはいかないよね。――きて」
とびきりの笑顔で誘われる。アロイスから差し出された手は甘い誘惑のようだった。手を重ねればゆっくりとベッドへ導かれ、この先に待つ快楽に喉が鳴る。
アロイス自身も羽織っていたタオルを落とし、煩わしそうにシャツも脱ぎ捨てた。
ベッドの上へと導かれたリエーベルは身体が緊張で強張るのを感じていた。つい勢いで言ってしまったけれど、とんでもないことをしでかしたと早くも後悔していた。少し、いやかなり、はしたなかったのではないだろうか。
さっそくリエーベルは引き締まったアロイスの身体を前に足を崩した格好で固まっていた。ベッドの上には居場所がないように思えて身動きがとれない。
アロイスから無言で身体を見つめられ、リエーベルは大切な場所を隠したくなった。本来ドレスの下に隠しておくべき胸も秘部も、すぺて見られているのだ。しかし見越したアロイスに腕をとられて阻止される。
「見せて。きみの身体、ちゃんと見たいんだ」
やけにじっくりと見られているとは思ったけれど、気のせいではなかったらしい。
「あの時は見ている余裕がなかったからね」
アロイスの言う通りだった。何も見えないままに始まって、怖くて。ずっと痛くて。焼け付くような感覚を堪えているうちに意識が飛んでいた。
「今度はちゃんと、きみを善くしてあげたいんだ。俺がどれほどきみのことを愛しているかも知ってほしい。だから、ね。見せて?」
とびきりのお願いに否定する気なんて起こらない。とても恥ずかしいけれど、アロイスのためならとリエーベルは掴まれていた腕から力を抜いた。
「ところで……きみに不安を与えてしまったことは申し訳なかったけれど、見えない中での初めてって、刺激的だった?」
身体はなんとか我慢したけれど、リエーベルは一瞬の隙を突いて顔を隠していた。続けて語られる赤裸々な言葉に耐えきれそうになかった。
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