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【17】二人の朝
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穏やかな光が二つの影を照らす。
シレイネが瞼を開けると、薄暗かった部屋はすっかり明るくなっていた。
「おはよう」
頭上から優しい声が聞こえる。誘われるように視線を向けると、眩しさの中でカインが微笑んでいた。身体を起こしてはいるけれど、手を伸ばせば届く距離にいてくれることが嬉しい。
「おはようございます」
朝一番に挨拶を交わす。旅の途中で何度も繰り返したやり取りではあるが、同じ寝具で目覚めるのは初めてなので緊張する。もっと言えば、お互いに素肌なので刺激が強い。
昨夜は夢中だったけれど、細身でありながらも、しっかりとした体格のカインに戸惑う。女性でも嫉妬しそうな美しさがあり、その美しい人に愛された事を思い出して、より緊張が高まった。
このままではいけないと、シレイネは疲労の抜けきらない身体を起こそうとする。
「すみませんでした。起きるのが遅かったですよね」
「ぜんぜん。俺が一晩中起きてただけだよ」
「え?」
「眠るのが勿体なくて、ずっとあんたの顔を見てた」
「……冗談ですよね?」
「さあ」
小さく笑ったカインの手元には、魔術で生み出された鳥がいる。それが魔術師たちの連絡手段であることはシレイネにも察することができた。
何か急ぎの連絡だろうかと身構えるも、カインが安心しろというように教えてくれる。
「父さんからの手紙だよ。あれからどうなったのかが書いてある」
「そうですか」
内容に触れようとすると、カインに止められた。
「ねえ。あんたはこれからどうしたい?」
この状況で訪ねられるという事は、手紙には今後のことも記されているのだろう。
「先に言っておくけど、俺はあんたが望むなら何だってするし、あんたが望まないことは絶対にさせたくない。させるつもりもないからね」
きっと手紙を読めばこの先の人生が変わってしまう。その選択を求められている。
「あんたが望むなら、破り捨てて見なかったことにするけど?」
もし逃げたいと望んだら、カインは叶えてくれるのだろう。けれどシレイネに目を背けるつもりはない。復讐を誓った日に抱いた夢を叶えるためには、逃げてばかりもいられない。
感謝を伝え、望みを口にする。
「私の望みは、この国を百年先も続く平和な国にすることです」
「壮大な夢。俺に手伝えることはある?」
「手伝ってくれるのですか?」
「もちろん」
だとしたら彼に望むことは一つだ。
「実は、そのためには私が幸せでいなければならないのですが」
絶望することで魔王になるのなら、正反対の人生を歩もう。ゲームの主人公を悲劇のヒロインにはさせない。
「私の幸せにはカインが必要なのです」
伝えた瞬間、カインが固まるのがわかった。
寡黙で無表情と言われ続けた魔術師が。昨夜シレイネが羞恥に頬を染めた行為にも平然としていた人が。
これが自分だけに見せる表情なのだとしたら可愛いと、胸がいっぱいになる。
「嫌がったって離れてやらないから」
「ありがとうございます」
カインの頬が赤い気がする。指摘すると表情を切り替え、照れながらも約束をしてくれた。
「あんたが失ったものは、俺が全部が取り戻してあげる。本当の家族だって、きっと見つけてみせるから」
「ですがそれは……」
シレイネは魔術の専門家ではないが、それがとても難しいことであることは理解している。決して彼を困らせたいわけではなかった。
どう受け止めるべきか迷っていると、自信に満ちた魔術師は言う。
「忘れちゃった? 俺は最強の魔術師だよ。それに俺、どうしてもあんたの両親に会いたいの。会ってちゃんと、娘さんをくださいって伝えたいしね。何かおかしい?」
「いいえ。少しも」
幸せを望むシレイネに、カインは彼女が失ったものを求めた。けれどもう、シレイネは過去に囚われてはいない。
「ありがとうございます。でも、私はもう一人ではありません。たとえ家族と会えなかったとしても、孤独ではないのです。だって、カインが家族になってくれるのでしょう?」
「なっ……!」
あまりの幸福に、しばらく呆けていたカインが我に返る。そして思い出したように華奢な手を握った。
「俺! あんたのこと絶対幸せにするから!」
身を乗り出すカインに苦笑する。
「それは私の台詞ですよ」
カインとともに、二人で新しい思い出をたくさん作ろう。そして今度は絶対に忘れたりしないと、誓うようにキスをした。
シレイネが瞼を開けると、薄暗かった部屋はすっかり明るくなっていた。
「おはよう」
頭上から優しい声が聞こえる。誘われるように視線を向けると、眩しさの中でカインが微笑んでいた。身体を起こしてはいるけれど、手を伸ばせば届く距離にいてくれることが嬉しい。
「おはようございます」
朝一番に挨拶を交わす。旅の途中で何度も繰り返したやり取りではあるが、同じ寝具で目覚めるのは初めてなので緊張する。もっと言えば、お互いに素肌なので刺激が強い。
昨夜は夢中だったけれど、細身でありながらも、しっかりとした体格のカインに戸惑う。女性でも嫉妬しそうな美しさがあり、その美しい人に愛された事を思い出して、より緊張が高まった。
このままではいけないと、シレイネは疲労の抜けきらない身体を起こそうとする。
「すみませんでした。起きるのが遅かったですよね」
「ぜんぜん。俺が一晩中起きてただけだよ」
「え?」
「眠るのが勿体なくて、ずっとあんたの顔を見てた」
「……冗談ですよね?」
「さあ」
小さく笑ったカインの手元には、魔術で生み出された鳥がいる。それが魔術師たちの連絡手段であることはシレイネにも察することができた。
何か急ぎの連絡だろうかと身構えるも、カインが安心しろというように教えてくれる。
「父さんからの手紙だよ。あれからどうなったのかが書いてある」
「そうですか」
内容に触れようとすると、カインに止められた。
「ねえ。あんたはこれからどうしたい?」
この状況で訪ねられるという事は、手紙には今後のことも記されているのだろう。
「先に言っておくけど、俺はあんたが望むなら何だってするし、あんたが望まないことは絶対にさせたくない。させるつもりもないからね」
きっと手紙を読めばこの先の人生が変わってしまう。その選択を求められている。
「あんたが望むなら、破り捨てて見なかったことにするけど?」
もし逃げたいと望んだら、カインは叶えてくれるのだろう。けれどシレイネに目を背けるつもりはない。復讐を誓った日に抱いた夢を叶えるためには、逃げてばかりもいられない。
感謝を伝え、望みを口にする。
「私の望みは、この国を百年先も続く平和な国にすることです」
「壮大な夢。俺に手伝えることはある?」
「手伝ってくれるのですか?」
「もちろん」
だとしたら彼に望むことは一つだ。
「実は、そのためには私が幸せでいなければならないのですが」
絶望することで魔王になるのなら、正反対の人生を歩もう。ゲームの主人公を悲劇のヒロインにはさせない。
「私の幸せにはカインが必要なのです」
伝えた瞬間、カインが固まるのがわかった。
寡黙で無表情と言われ続けた魔術師が。昨夜シレイネが羞恥に頬を染めた行為にも平然としていた人が。
これが自分だけに見せる表情なのだとしたら可愛いと、胸がいっぱいになる。
「嫌がったって離れてやらないから」
「ありがとうございます」
カインの頬が赤い気がする。指摘すると表情を切り替え、照れながらも約束をしてくれた。
「あんたが失ったものは、俺が全部が取り戻してあげる。本当の家族だって、きっと見つけてみせるから」
「ですがそれは……」
シレイネは魔術の専門家ではないが、それがとても難しいことであることは理解している。決して彼を困らせたいわけではなかった。
どう受け止めるべきか迷っていると、自信に満ちた魔術師は言う。
「忘れちゃった? 俺は最強の魔術師だよ。それに俺、どうしてもあんたの両親に会いたいの。会ってちゃんと、娘さんをくださいって伝えたいしね。何かおかしい?」
「いいえ。少しも」
幸せを望むシレイネに、カインは彼女が失ったものを求めた。けれどもう、シレイネは過去に囚われてはいない。
「ありがとうございます。でも、私はもう一人ではありません。たとえ家族と会えなかったとしても、孤独ではないのです。だって、カインが家族になってくれるのでしょう?」
「なっ……!」
あまりの幸福に、しばらく呆けていたカインが我に返る。そして思い出したように華奢な手を握った。
「俺! あんたのこと絶対幸せにするから!」
身を乗り出すカインに苦笑する。
「それは私の台詞ですよ」
カインとともに、二人で新しい思い出をたくさん作ろう。そして今度は絶対に忘れたりしないと、誓うようにキスをした。
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