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【7】末路
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「どうしたというのです、シレイネ。私がそのような悪事に手を染めると、本気で思っているのですか?」
「証拠ならここにあるけどー」
カインの合図で大聖堂の扉から現れたのは、屈強な男たちだ。
「魔術師様! 連れてきましたよ!」
「ご苦労さん」
統率の行き届いた彼らが差し出したのは、縄に繋がれた男たちである。
「こいつらが誘拐に加担していた奴らね。あんたのとこの神官見習いが罪に耐え切れず、俺を頼って告白してくれたよ。シレイネだけじゃなくて、他にも優秀な聖女候補を何人も誘拐してる前科ありってね」
神官長の顔に焦りが浮けかぶ。共犯者だけなら知らないと切り捨てることもできたが、神官見習いに裏切られるとは予想外だった。
「そんなに歴史に名を残すことが大事? あんたの野望にシレイネを巻き込むなよ」
「黙れ! お前のような魔術師の戯れ言を信じると思うのか!?」
「へえ……。なら身元保証人がいれば問題ない? だって。ねえ、父さん」
「は?」
カインの視線は即位式に集った貴族の集団に向けられる。その中で颯爽と立ち上がったのは、現国王の弟にあたる公爵だ。
「いくら神官長とはいえ、我が子を貶められるのは見過ごせませんな」
「我が子?」
これにはルビアスも驚愕していた。他人だと思っていた相手が、実は親戚だったというわけだ。お互いがお互いに興味がなかったせいで、今日まで明るみに出ることはなかった。
「俺、公爵家の生まれなんだよね。とはいえ当主からも玉座からも遠い人生だし、早々に魔術師として生きる道を選んだってわけ。才能あったしね。で? 公爵家の人間の言う事ならあんたも信じられるよな」
「お前、雇う時には一言も……っ! 私を裏切るのか魔術師カイン!」
「誰がいつ、あんたについたって? 高い金で雇ってくれたところ悪いけど。俺、そこの王子と違って地位も名誉も興味ないんだよね」
旅の同行者に選ばれたカインは、神官長の推薦を得て、金で雇われている。雇い主という関係だが、シレイネを傷つけた相手に恩も義理もない。あるのは憤りだけだ。
「貴族として生きることはできなかったけど、この道を選んでよかったって、今心底思うよ」
シレイネの復讐を手伝うことができたのもこの人生を歩んだ結果だ。
人攫いの罪状を突きつけられた神官長も、聖女を手にかけ他国と内通していた王子にも未来はない。それぞれが罪を犯してまで手に入れようとしたものは叶わず、破滅した。いい気味だ。
隣に立つシレイネは気丈にも終始笑顔を浮かべている。彼女にとって、彼らはすでに怒りをぶつける価値もない相手なのだ。
けれど自分は性格が悪いので、シレイネの分も自業自得だと笑ってやろう。
「行こうか」
英雄となった王子の罪。人格者であった神官長の罪。
混乱は収まらないけれど、最後まで付き合ってやるつもりはない。早くシレイネをこの場から連れ去ってあげたいと思う。
手を差し伸べると、シレイネは驚きながらも頷いてくれた。
「それではみなさま。ごきげんよう」
未だに即位式は中断されているが、シレイネは優雅な挨拶を口にする。そして復讐相手たちに背を向けて歩き出した。
カインの手を取ると心が揺れる。優しく握り返してくれる温かさが、慈しむような眼差しが、押さえていた感情を暴こうとする。
シレイネは唇を噛みしめ、ようやく声を絞り出した。
「お願い。ここから私を連れ出して」
頼られたことが嬉しくて、喜んでと言うようにカインは指先に口付ける。その囁きが合図となり、聖女と魔術師は大聖堂から姿を消した。
魔術が発動する直前、カインは父の姿を探す。視線を向けると、任せろと言うように頷いてくれた。
後に残るのは最大級の混乱だけだが、父がいればなんとかなるだろうとカインは全てを託すことにした。
「証拠ならここにあるけどー」
カインの合図で大聖堂の扉から現れたのは、屈強な男たちだ。
「魔術師様! 連れてきましたよ!」
「ご苦労さん」
統率の行き届いた彼らが差し出したのは、縄に繋がれた男たちである。
「こいつらが誘拐に加担していた奴らね。あんたのとこの神官見習いが罪に耐え切れず、俺を頼って告白してくれたよ。シレイネだけじゃなくて、他にも優秀な聖女候補を何人も誘拐してる前科ありってね」
神官長の顔に焦りが浮けかぶ。共犯者だけなら知らないと切り捨てることもできたが、神官見習いに裏切られるとは予想外だった。
「そんなに歴史に名を残すことが大事? あんたの野望にシレイネを巻き込むなよ」
「黙れ! お前のような魔術師の戯れ言を信じると思うのか!?」
「へえ……。なら身元保証人がいれば問題ない? だって。ねえ、父さん」
「は?」
カインの視線は即位式に集った貴族の集団に向けられる。その中で颯爽と立ち上がったのは、現国王の弟にあたる公爵だ。
「いくら神官長とはいえ、我が子を貶められるのは見過ごせませんな」
「我が子?」
これにはルビアスも驚愕していた。他人だと思っていた相手が、実は親戚だったというわけだ。お互いがお互いに興味がなかったせいで、今日まで明るみに出ることはなかった。
「俺、公爵家の生まれなんだよね。とはいえ当主からも玉座からも遠い人生だし、早々に魔術師として生きる道を選んだってわけ。才能あったしね。で? 公爵家の人間の言う事ならあんたも信じられるよな」
「お前、雇う時には一言も……っ! 私を裏切るのか魔術師カイン!」
「誰がいつ、あんたについたって? 高い金で雇ってくれたところ悪いけど。俺、そこの王子と違って地位も名誉も興味ないんだよね」
旅の同行者に選ばれたカインは、神官長の推薦を得て、金で雇われている。雇い主という関係だが、シレイネを傷つけた相手に恩も義理もない。あるのは憤りだけだ。
「貴族として生きることはできなかったけど、この道を選んでよかったって、今心底思うよ」
シレイネの復讐を手伝うことができたのもこの人生を歩んだ結果だ。
人攫いの罪状を突きつけられた神官長も、聖女を手にかけ他国と内通していた王子にも未来はない。それぞれが罪を犯してまで手に入れようとしたものは叶わず、破滅した。いい気味だ。
隣に立つシレイネは気丈にも終始笑顔を浮かべている。彼女にとって、彼らはすでに怒りをぶつける価値もない相手なのだ。
けれど自分は性格が悪いので、シレイネの分も自業自得だと笑ってやろう。
「行こうか」
英雄となった王子の罪。人格者であった神官長の罪。
混乱は収まらないけれど、最後まで付き合ってやるつもりはない。早くシレイネをこの場から連れ去ってあげたいと思う。
手を差し伸べると、シレイネは驚きながらも頷いてくれた。
「それではみなさま。ごきげんよう」
未だに即位式は中断されているが、シレイネは優雅な挨拶を口にする。そして復讐相手たちに背を向けて歩き出した。
カインの手を取ると心が揺れる。優しく握り返してくれる温かさが、慈しむような眼差しが、押さえていた感情を暴こうとする。
シレイネは唇を噛みしめ、ようやく声を絞り出した。
「お願い。ここから私を連れ出して」
頼られたことが嬉しくて、喜んでと言うようにカインは指先に口付ける。その囁きが合図となり、聖女と魔術師は大聖堂から姿を消した。
魔術が発動する直前、カインは父の姿を探す。視線を向けると、任せろと言うように頷いてくれた。
後に残るのは最大級の混乱だけだが、父がいればなんとかなるだろうとカインは全てを託すことにした。
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