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【4】あの日の真実
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王族を敬おうとしないカインのことは最初から気に入らなかったが、この場で敵対しても損をするだけと判断したルビアスは、二人を懐柔するため必死になった。
聖女シレイネと魔術師カインは、旅の間も多くの人たちを助け慕われている。これ以上余計な事を言われては、せっかく手に入れた英雄の地位が危うくなるかもしれない。
「そ、そうか。二人とも、今日は俺の即位を祝うために駆けつけてくれたんだな。シレイネが生きていたというのなら、それもめでたいことだ。ともに祝おう!」
「ありがとうございます。ですが、私からの祝辞はすでにお届けしまたので、あとはカインにお任せしますね」
「いいよ。あんたのためならはりきっちゃう」
カインが指先を鳴らすと、光を取り入れるだけだった大聖堂のステンドグラスに絵が映る。会場内にいれば、どこからでも見渡すことができる広大な画面だ。
浮かび上がる絵には銀髪の女性が映っている。美しかったであろうドレスは汚れ、髪も乱れてぼろぼろになっていた。それでも懸命に立つ女性の後ろ姿がシレイネであることは直ぐに伝わっただろう。
彼女が立っているのは古い城のようだが、目の前の床には巨大な穴が開いている。穴から覗く光景は、はるか遠くに青い海が見えた。どうやら魔王が拠点としていた空に浮かぶ古城らしい。
ルビアスは誰より早くこれから流れるであろう光景を理解する。何故なら少し前に自身が体験したことで、今ここで公けにされては非常に都合が悪いものだ。
「おい! 今すぐ止めさせろ!」
「殿下?」
命令された兵士が困惑する。
「何を黙って見ている。こいつらはシレイネを語る罪人だ! 早く捕らえろ!」
「いえ、ですが……」
兵士たちはシレイネを包囲するが、手を出していいのか迷うばかりだ。命令に従わない無能な部下を怒鳴りつけ、ルビアスの頭に血が上る。
「いいから早くしろ!」
兵士から剣を奪ったルビアスはシレイネを害そうとする。しかし彼女に従う影が暴挙を許すはずもない。
カインが手を翳すだけで剣は瞬きの間に消えてしまう。無防備になったルビアスは、すかさず足を払われ無様に倒れた。
「何をする!」
「こっちの台詞。シレイネが怪我でもしたらどう償うつもり? ああでも、剣も体術も苦手なあんたじゃ無理な話か」
「お前!」
「戦いではいつもシレイネに護られてたよな。それで勇者? 笑わせる。おっと、動くなよ」
ルビアスの眼前には手から消えた剣が突きつけられていた。
「知っての通り、これから面白くなるところだろ? 俺にとっては二度と見たくない最低最悪なシーンだけど」
「ーーっ、止めろ! おい、聖女は死んだんだ。何を黙って見ている。この反逆者どもを捕らえろ!」
動くことのできない周囲を置いて、無情にも映像は動き始めた。
『これで終ったのね』
ステンドグラスに映るシレイネの姿が動き出す。
音声までもが流れ始めたたことで、それがルビアスの想像以上に高度な記録と投影の魔術であることに絶望した。
一人呟くシレイネの背後に影が迫る。
『シレイネ!』
振り返ったシレイネと会話しているのはルビアスだ。
シレイネだけを映していた映像が二人の姿を捉え始める。
『君が魔王を倒したのか!?』
『はい。無事に浄化することができました。これで平和が訪れます』
シレイネは安堵したように緊張を解いた。
「殿下、先ほどの戦いで足場が不安定になっているようです。気を付けてくださいね』
巨大な穴から吹き上げる風がシレイネの髪を揺らし、戦いの激しさを物語っている。
『そうか……』
不穏な気配を感じ取ったのはシレイネだけではないだろう。
微笑む王子の表情が、急に怖ろしいもののように思えた。
『なら、俺たちの関係もここまでだな』
『殿下?』
『お前が魔王を倒したら、俺が英雄になれないだろう。だからシナリオを考えた。魔王は俺が倒した。そして最愛の聖女を失った王子は悲しみを乗り越えて王になる。どうだ? 素晴らしいと思わないか?』
『殿下? 何を言って』
『お前はいつも綺麗事ばかり。何かあれば二言目には民のため。気が強くて、婚約者だと言うのに俺の誘いを受けることもない。ずっとつまらない女だと思っていたよ』
『私のことが、疎ましかったのですか?』
『お前、邪魔なんだよ』
言葉と同時にルビアスがシレイネの胸を押す。
『え――?』
無防備だったシレイネの身体は、抵抗する間もなく背後へ傾いた。突き飛ばされたと理解する頃には巨大な穴に呑みこまれ、シレイネの身体はあっという間に奈落へ落ちて行く。
『これで俺が英雄になれる』
映像には、後に残ったルビアスが残酷な笑みを浮かべる様子が収められていた。
聖女シレイネと魔術師カインは、旅の間も多くの人たちを助け慕われている。これ以上余計な事を言われては、せっかく手に入れた英雄の地位が危うくなるかもしれない。
「そ、そうか。二人とも、今日は俺の即位を祝うために駆けつけてくれたんだな。シレイネが生きていたというのなら、それもめでたいことだ。ともに祝おう!」
「ありがとうございます。ですが、私からの祝辞はすでにお届けしまたので、あとはカインにお任せしますね」
「いいよ。あんたのためならはりきっちゃう」
カインが指先を鳴らすと、光を取り入れるだけだった大聖堂のステンドグラスに絵が映る。会場内にいれば、どこからでも見渡すことができる広大な画面だ。
浮かび上がる絵には銀髪の女性が映っている。美しかったであろうドレスは汚れ、髪も乱れてぼろぼろになっていた。それでも懸命に立つ女性の後ろ姿がシレイネであることは直ぐに伝わっただろう。
彼女が立っているのは古い城のようだが、目の前の床には巨大な穴が開いている。穴から覗く光景は、はるか遠くに青い海が見えた。どうやら魔王が拠点としていた空に浮かぶ古城らしい。
ルビアスは誰より早くこれから流れるであろう光景を理解する。何故なら少し前に自身が体験したことで、今ここで公けにされては非常に都合が悪いものだ。
「おい! 今すぐ止めさせろ!」
「殿下?」
命令された兵士が困惑する。
「何を黙って見ている。こいつらはシレイネを語る罪人だ! 早く捕らえろ!」
「いえ、ですが……」
兵士たちはシレイネを包囲するが、手を出していいのか迷うばかりだ。命令に従わない無能な部下を怒鳴りつけ、ルビアスの頭に血が上る。
「いいから早くしろ!」
兵士から剣を奪ったルビアスはシレイネを害そうとする。しかし彼女に従う影が暴挙を許すはずもない。
カインが手を翳すだけで剣は瞬きの間に消えてしまう。無防備になったルビアスは、すかさず足を払われ無様に倒れた。
「何をする!」
「こっちの台詞。シレイネが怪我でもしたらどう償うつもり? ああでも、剣も体術も苦手なあんたじゃ無理な話か」
「お前!」
「戦いではいつもシレイネに護られてたよな。それで勇者? 笑わせる。おっと、動くなよ」
ルビアスの眼前には手から消えた剣が突きつけられていた。
「知っての通り、これから面白くなるところだろ? 俺にとっては二度と見たくない最低最悪なシーンだけど」
「ーーっ、止めろ! おい、聖女は死んだんだ。何を黙って見ている。この反逆者どもを捕らえろ!」
動くことのできない周囲を置いて、無情にも映像は動き始めた。
『これで終ったのね』
ステンドグラスに映るシレイネの姿が動き出す。
音声までもが流れ始めたたことで、それがルビアスの想像以上に高度な記録と投影の魔術であることに絶望した。
一人呟くシレイネの背後に影が迫る。
『シレイネ!』
振り返ったシレイネと会話しているのはルビアスだ。
シレイネだけを映していた映像が二人の姿を捉え始める。
『君が魔王を倒したのか!?』
『はい。無事に浄化することができました。これで平和が訪れます』
シレイネは安堵したように緊張を解いた。
「殿下、先ほどの戦いで足場が不安定になっているようです。気を付けてくださいね』
巨大な穴から吹き上げる風がシレイネの髪を揺らし、戦いの激しさを物語っている。
『そうか……』
不穏な気配を感じ取ったのはシレイネだけではないだろう。
微笑む王子の表情が、急に怖ろしいもののように思えた。
『なら、俺たちの関係もここまでだな』
『殿下?』
『お前が魔王を倒したら、俺が英雄になれないだろう。だからシナリオを考えた。魔王は俺が倒した。そして最愛の聖女を失った王子は悲しみを乗り越えて王になる。どうだ? 素晴らしいと思わないか?』
『殿下? 何を言って』
『お前はいつも綺麗事ばかり。何かあれば二言目には民のため。気が強くて、婚約者だと言うのに俺の誘いを受けることもない。ずっとつまらない女だと思っていたよ』
『私のことが、疎ましかったのですか?』
『お前、邪魔なんだよ』
言葉と同時にルビアスがシレイネの胸を押す。
『え――?』
無防備だったシレイネの身体は、抵抗する間もなく背後へ傾いた。突き飛ばされたと理解する頃には巨大な穴に呑みこまれ、シレイネの身体はあっという間に奈落へ落ちて行く。
『これで俺が英雄になれる』
映像には、後に残ったルビアスが残酷な笑みを浮かべる様子が収められていた。
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