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【3】裏切り

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「オルタヌス家はお前を売ったんだよ。お前の兄も邪魔な妹が消えるのならと、喜んで俺たちの計画に賛同してくれた」

「邪魔? 私が……?」

 朝、使用人たちは笑顔で送り出してくれた。両親は学園生活を楽しんでくるようにと手を振り、兄だって同じ学園に通えることが誇らしいと言ってくれた。でもそれは嘘だったとエドワードは言う。

「家族に見放された娘、未来の王妃リリスの障害。だから誰もお前を探さない。お前がいなくなっても困らない」

「ふふっ、誰にも必要とされない可哀想なレジーナ様。でも、あたしの邪魔をするんだから、仕方ないですよね」

「私が、何をしたというの?」

 リリスのペースに呑まれるのが嫌で毅然と問う。

「レジーナ様って、存在が邪魔なんですよね。まずこの国には王女がいないから、公爵令嬢はこの国で最高位の女性。憧れの王子様エドワード様の婚約者で、学園に入学したらあたしのことを虐めるし、悪役令嬢なんて攻略に邪魔なだけ。なら最初からなかったことにして、排除すればいいと思ったんです。あたし天才」

「ふざけないで!」

 レジーナはありったけの力を込めて叫ぶ。怒りに反応して魔法を展開しようとするが、急激に魔力が吸い取られていった。なんとか手を突いて身体を起こしていたけれど、景色が歪みベッドに倒れる。

「な、に……」

 身体が重くて力が入らない。リリスはわざとらしく「恐~い」と言ってエドワードに縋りつく。けれどその表情はちっとも怯えておらず、むしろ勝ち誇ったように見える。

「その足の鎖は罪人用に作られた魔法を封じる装置なんですよ。レジーナ様が死ぬまで常に一定量の魔力を吸い上げて、この魔方陣は強い魔力に反応して魔法を吸収するんです。魔力は生命力なので、その状況で無理に魔法を使うと死んじゃいますよ?」

「罪人は大人しくしていろ」

「エドワード様の言う通りで~す」

 レジーナの死を何とも思っていない二人の態度にぞっとする。どこか夢のように感じていたこの状況が現実なのだと突きつけられていた。

「ほら、もう行きましょう。エドワード様」

 リリスはエドワードの手を引き部屋を出て行こうとする。

「待って、ここから出しなさい!」

 鎖を壊そうともう魔法を使えばその瞬間に力を吸い取られ膝が崩れた。去って行く二人がレジーナを顧みることはなく、遠ざかっていく背中に手は届かない。

「悪役令嬢なんてお呼びじゃないのよ」

 きっとリリスは自分と同じ転生者だ。何を言ってもレジーナが悪役令嬢であると決めつけ聞く耳を持たないだろう。ならばとレジーナは婚約者に助けを求めた。

「エドワード様! 助けて下さい!」

「気安く呼ぶなと言っただろう」

 冷たく見下すエドワードの横でリリスが無邪気に手を振る。それきり扉によって世界が分かれた。

「助けて! 誰か、いないの!?」

 窓に向かって声を張り上げる。けれど声が枯れるだけで、魔力を奪われ目眩がする。

「お父様とお母様が私を売った? お兄様は、私が邪魔だったの?」

 突きつけられた現実に涙が滲んだ。
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