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エピローグ
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珍しく俺のお客さんが事務所にいた。
「久しぶり…だな。」
「うん、久しぶり。どこに行っていたの?蓮。」
「海外の大学に進学したんだ。…卒業おめでとう。」
「ありがとう。みんなより遅くなったけど無事卒業できたよ。」
蓮とは時折会っていたけど、3年になってから会っていなかったので、久しぶりに対面している。
「杏、そんな愛嬌を振りまくな。」
「紫苑、無茶言わないで。久しぶりに会ったんだから。嬉しいんだもん。」
「…嬉しいのか?」
「嬉しいけど…なんで?」
「いや、いつも会った時もぎこちなかったし、俺はお前にとっていい存在じゃないだろ?」
「正直、もう覚えてないんだ。あの日のこと。お腹の傷があったことを残しているけどそれ以上もそれ以下もないんだ。だから、もしまだ蓮が罪悪感に苦しんでいるならもういいんだよ?罪悪感に苛まれなくてはいいけど反省はしてほしい。反省して、その行為の酷さを他のαや自分の子供ができた時にちゃんと伝えてほしい。Ωだって立派な人間ってこと。」
「わかった。約束する。」
「それに、俺にとっていい存在じゃないのは両親だけだし。」
父はあれから病院のお金を横領していたのがバレ、その他の犯罪もバレたので刑務所にいる。母は、未だに不倫していたことが父にバレないかビクビクしながらも貧しい生活を送っているらしい。
蓮も俺も水野家の人間じゃなくなったので本当に他人事。
「そうか…じゃあまた、時間があるときに連絡するな。」
「うん。また来て。」
「来なくていい。」
蓮を見送って部屋に戻ってくると、まだ少し緊張していたのか浅くなっていた息を深く吸う。
お茶を持って部屋に入ってきた紫苑のお茶を受け取る。
「…忘れてないだろ。」
「なんのこと?」
「俺の前では、嘘をつくことは許さないぞ。」
「ばれてた?忘れてないよ。あの日のこと。」
「夜にうなされて起きる原因の一つになるほどの思い出なのに。」
「あの日は俺の自殺願望の代わりの救済の日だったんだよ。紫苑に助けてもらった日だから忘れることはないよ。逃げる前に何があったのかは覚えてるし忘れられないけど、でも蓮がずっと罪悪感で俺に会ってほしくないから。俺、話すの下手だから騙せてよかったよ。」
「そうか。」
俺が、未来で笑顔になるために必要なのは今の家族との整理と新しい家族との信頼関係の構築。
俺はきっとこれからも間違えることがあるはずだけど、紫苑の傍にいたいから必要なものを必死こいて手の中でおさえておかないといけないから。
ちゃんと生きていくって決めたらやらなきゃいけないことは意外とたくさんあって、生きているって感じがした。
「杏、おいで。」
「ぎゅーして紫苑。」
「あぁ。」
それから、長い時間が経った。
「お母さん。」
「ん?どうしたの杏莉。」
「大好き!」
「そうなの?ありがとう。お母さんも杏莉のことが好きだよ?」
「おい、俺のことは?」
「紫苑、子供と張らないでよ。」
「俺は?」
「大好きだよ。俺の旦那さん。」
「僕は…?」
「莉苑も大好きだよ。」
「杏莉はお母さんもお父さんも莉苑も好き!」
「僕も杏莉とお父さんとお母さんが好き。」
「お前らのことは大切だが、杏は渡さねぇぞ。」
「大人げないよ紫苑。」
「今のうちに言うのが大切なんだよ。」
地獄の日々を過ごしていたときはこんな幸せな日々を送れるなんて夢にも思っていなかった。
死ぬことが救済で感情を捨てれば捨てるほど楽だった。
紫苑と出会ってからも全てがいい思い出だったわけじゃない。
何回か喧嘩したこともあったけど、それでも紫苑はいつも俺のそばにいてくれて一緒に喜んだり悲しんだりしてくれた。
運命の番に出会えてよかったというより、紫苑に出会えたことがよかった。
これ以上素晴らしい旦那さんはいないし、いいお父さんで育児も家のことも、すべて一緒にこなしてくれてこれからもきっとそばにいてくれる。
「紫苑。」
「ん?」
「これからも、ずっとそばにいて俺だけを愛してね。」
「もちろんだ。杏だっておれの傍にいて俺のことだけを愛してくれよ。」
「幸せ」の一言の重さをしっているから大切にできる。
先が見えなくて暗い未来でも、必死に生きてチャンスをつかめればこんなに幸せになれるんだ。
俺は運がよかったみたい。
「おかーさん?いくよーーーー!」
「うん。今行くよ!」
「久しぶり…だな。」
「うん、久しぶり。どこに行っていたの?蓮。」
「海外の大学に進学したんだ。…卒業おめでとう。」
「ありがとう。みんなより遅くなったけど無事卒業できたよ。」
蓮とは時折会っていたけど、3年になってから会っていなかったので、久しぶりに対面している。
「杏、そんな愛嬌を振りまくな。」
「紫苑、無茶言わないで。久しぶりに会ったんだから。嬉しいんだもん。」
「…嬉しいのか?」
「嬉しいけど…なんで?」
「いや、いつも会った時もぎこちなかったし、俺はお前にとっていい存在じゃないだろ?」
「正直、もう覚えてないんだ。あの日のこと。お腹の傷があったことを残しているけどそれ以上もそれ以下もないんだ。だから、もしまだ蓮が罪悪感に苦しんでいるならもういいんだよ?罪悪感に苛まれなくてはいいけど反省はしてほしい。反省して、その行為の酷さを他のαや自分の子供ができた時にちゃんと伝えてほしい。Ωだって立派な人間ってこと。」
「わかった。約束する。」
「それに、俺にとっていい存在じゃないのは両親だけだし。」
父はあれから病院のお金を横領していたのがバレ、その他の犯罪もバレたので刑務所にいる。母は、未だに不倫していたことが父にバレないかビクビクしながらも貧しい生活を送っているらしい。
蓮も俺も水野家の人間じゃなくなったので本当に他人事。
「そうか…じゃあまた、時間があるときに連絡するな。」
「うん。また来て。」
「来なくていい。」
蓮を見送って部屋に戻ってくると、まだ少し緊張していたのか浅くなっていた息を深く吸う。
お茶を持って部屋に入ってきた紫苑のお茶を受け取る。
「…忘れてないだろ。」
「なんのこと?」
「俺の前では、嘘をつくことは許さないぞ。」
「ばれてた?忘れてないよ。あの日のこと。」
「夜にうなされて起きる原因の一つになるほどの思い出なのに。」
「あの日は俺の自殺願望の代わりの救済の日だったんだよ。紫苑に助けてもらった日だから忘れることはないよ。逃げる前に何があったのかは覚えてるし忘れられないけど、でも蓮がずっと罪悪感で俺に会ってほしくないから。俺、話すの下手だから騙せてよかったよ。」
「そうか。」
俺が、未来で笑顔になるために必要なのは今の家族との整理と新しい家族との信頼関係の構築。
俺はきっとこれからも間違えることがあるはずだけど、紫苑の傍にいたいから必要なものを必死こいて手の中でおさえておかないといけないから。
ちゃんと生きていくって決めたらやらなきゃいけないことは意外とたくさんあって、生きているって感じがした。
「杏、おいで。」
「ぎゅーして紫苑。」
「あぁ。」
それから、長い時間が経った。
「お母さん。」
「ん?どうしたの杏莉。」
「大好き!」
「そうなの?ありがとう。お母さんも杏莉のことが好きだよ?」
「おい、俺のことは?」
「紫苑、子供と張らないでよ。」
「俺は?」
「大好きだよ。俺の旦那さん。」
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「莉苑も大好きだよ。」
「杏莉はお母さんもお父さんも莉苑も好き!」
「僕も杏莉とお父さんとお母さんが好き。」
「お前らのことは大切だが、杏は渡さねぇぞ。」
「大人げないよ紫苑。」
「今のうちに言うのが大切なんだよ。」
地獄の日々を過ごしていたときはこんな幸せな日々を送れるなんて夢にも思っていなかった。
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紫苑と出会ってからも全てがいい思い出だったわけじゃない。
何回か喧嘩したこともあったけど、それでも紫苑はいつも俺のそばにいてくれて一緒に喜んだり悲しんだりしてくれた。
運命の番に出会えてよかったというより、紫苑に出会えたことがよかった。
これ以上素晴らしい旦那さんはいないし、いいお父さんで育児も家のことも、すべて一緒にこなしてくれてこれからもきっとそばにいてくれる。
「紫苑。」
「ん?」
「これからも、ずっとそばにいて俺だけを愛してね。」
「もちろんだ。杏だっておれの傍にいて俺のことだけを愛してくれよ。」
「幸せ」の一言の重さをしっているから大切にできる。
先が見えなくて暗い未来でも、必死に生きてチャンスをつかめればこんなに幸せになれるんだ。
俺は運がよかったみたい。
「おかーさん?いくよーーーー!」
「うん。今行くよ!」
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