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第73話
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それは初めて蓮に犯された日の話。
それはクラスメイトに犯された日の話。
それは紫苑の家に住むようになってから初めて紫苑と同じ同業者の誘拐された時の話。
それは紫苑売られたと勘違いした時の話。
それは親にまた売られたときの話。
それは、それは、それは…。
まるで永遠に続くとも思われるくらい長かった回想がようやく終わったようだった。
「これからどうすればいいんだろう…。」
紫苑の元に帰る術がない。
…帰りたい。
記憶を辿れば辿るほど紫苑のそばがいかに落ち着いて安心できる場所なのか実感する。
「帰らないの?」
「帰りたいんだけど、道がないんだ。」
「そこにあるじゃん。しっかり見てみな。」
指の先を辿ると微かに光が見えてきた。
「でも、本当に戻るの?あんな地獄で、楽しくないのに。」
「うん。戻るよ。大丈夫。現実は楽しくなる予定なんだ。」
「ぼくたちに見せてね。」
「うん。紫苑のそばにいれば大丈夫だと思うんだ。」
「帰るなら…どんな声が聞こえても振り返らないで止まらないで真っ直ぐ帰るんだよ。」
光に向かって歩き始める。
足元をほんのり照らす程度の光しかないから止まりたくなるけど足を止めることはない。
俺を誘惑する影の手が伸びてきてそれを避けながら進む。
光は遠くていくら歩いても届かない気がしてきた。
手を掴まなければ吐かれる暴言にもだいぶ聞きなれてきたけど、声はみんな紫苑の声のせいで心臓は痛い。
紫苑俺、じゅうぶん頑張ったけどさ届かないから先にはいけないよ。
足はもう棒になりそうだし、心はボロボロで粉々になりそう。
もう諦めてとまりたい。
蹲って休みたい。
そう思って足が止まりかけたとき光の方から声がした。
「杏、こっちだ。」
紫苑の声だ…。
紫苑が呼んでる。
「杏、おいで。」
光が大きくなった気がして足が再び軽くなる。
「杏、杏!」
光はそのまま俺を包み込むように大きくなり、俺の意識は途絶えた。
最後に、後ろから「頑張ってね。」
そう聞こえたような気がした。
それはクラスメイトに犯された日の話。
それは紫苑の家に住むようになってから初めて紫苑と同じ同業者の誘拐された時の話。
それは紫苑売られたと勘違いした時の話。
それは親にまた売られたときの話。
それは、それは、それは…。
まるで永遠に続くとも思われるくらい長かった回想がようやく終わったようだった。
「これからどうすればいいんだろう…。」
紫苑の元に帰る術がない。
…帰りたい。
記憶を辿れば辿るほど紫苑のそばがいかに落ち着いて安心できる場所なのか実感する。
「帰らないの?」
「帰りたいんだけど、道がないんだ。」
「そこにあるじゃん。しっかり見てみな。」
指の先を辿ると微かに光が見えてきた。
「でも、本当に戻るの?あんな地獄で、楽しくないのに。」
「うん。戻るよ。大丈夫。現実は楽しくなる予定なんだ。」
「ぼくたちに見せてね。」
「うん。紫苑のそばにいれば大丈夫だと思うんだ。」
「帰るなら…どんな声が聞こえても振り返らないで止まらないで真っ直ぐ帰るんだよ。」
光に向かって歩き始める。
足元をほんのり照らす程度の光しかないから止まりたくなるけど足を止めることはない。
俺を誘惑する影の手が伸びてきてそれを避けながら進む。
光は遠くていくら歩いても届かない気がしてきた。
手を掴まなければ吐かれる暴言にもだいぶ聞きなれてきたけど、声はみんな紫苑の声のせいで心臓は痛い。
紫苑俺、じゅうぶん頑張ったけどさ届かないから先にはいけないよ。
足はもう棒になりそうだし、心はボロボロで粉々になりそう。
もう諦めてとまりたい。
蹲って休みたい。
そう思って足が止まりかけたとき光の方から声がした。
「杏、こっちだ。」
紫苑の声だ…。
紫苑が呼んでる。
「杏、おいで。」
光が大きくなった気がして足が再び軽くなる。
「杏、杏!」
光はそのまま俺を包み込むように大きくなり、俺の意識は途絶えた。
最後に、後ろから「頑張ってね。」
そう聞こえたような気がした。
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