【本編完結】白紙の未来

Popo

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第57話

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「なぁ…杏。昨日のことだが…。杏は、俺の番になってくれるのか?」

そう、俺は昨日ずっと「紫苑さんが好きなのにぃ。づがいでもいいのにぃ。」と本人の前で大号泣兼告白をしていたのだ。

急に脳内で再生され顔が赤くなるのがわかる。

「…おっお付き合いからで…お願いします。」

心臓の鼓動が耳で聞こえているぐらいバクバク言っているのがわかる。

クククッという低い笑い声が響く。
紫苑さんがツボったらしい。

「あぁ、お付き合いから…な?」

「けっ健全なお付き合いからでお願いします。」

にこにこしていた紫苑さんが急に真顔になったので少し焦る。
何かまずいことでも言った?

「もし、お前の病気がもうギリギリのとこまで悪化したらお前を生かすために噛んでもいいか?」

あぁ。俺の心配をしてくれるそーゆーところが好きなんだよな。

「紫苑さんが俺を捨てないならいいですよ。」

軽い冗談のように言うと紫苑さんは急に電話をかけ始めた。

「お前が今言ったからな。…あぁ俺だ。至急契約書を用意しろ。あぁ。形のないものが怖いなら形を作ればいい。俺は、お前を生涯捨てることも売ることも触れなくなることもない。むしろ、ずっと俺の隣で俺だけを信じて、見て、一緒に死んでくれ。」

普通の人なら束縛が強く感じるようなこのセリフだって俺には最高の言葉で。

せっかく止まった涙がまた溢れてくる。

「ぜっがぐ、なぎやんだのにぃ。なぎむじになっだらぎらわれる。」

目からも鼻からもドバドバで汚い顔になった俺を紫苑さんは抱きしめて背中をポンポンしてくれた。

紫苑さんの腕の中はいつも温かい。

ずっとこうやってくれるのも追加で書いてもらおうかななんて思う余裕が最後にはできていた。

昨日、紫苑さんが帰る時に無意識に手を伸ばして止めてしまったから、今日は帰るだろうなと思いながら泣き止んで疲れた頭で思っていた。

「夕飯食えるか?」

「紫苑…帰らないの?」

敬語もさん付けもやめろと言われたのではじめて無くして会話している。

「あ?帰るわけねぇだろ。ここで寝るし、ここで仕事する。」

「徹さんが大変じゃない?」

「徹も許してる。嬉しいのか?」

未だに表情筋が死んでいる俺は顔に出ることがないはずなのにいつもいつも紫苑にはバレる。この人を騙すことはあの日以降…これから先出来なさそうだ。

「うん。嬉しい。てっきり帰ると思っていたから。」

俺も思ったことはしっかり口に出せるように意識することにした。
嬉しいとかありがとうとかポジティブな感情を聞いて嫌になる人はいないだろうと思ったから。

「そうか。退院するまでこの部屋で過ごして、早く帰るぞ。」

「うん。」







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