【本編完結】白紙の未来

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第49話

「…ん！杏！」

「…？なんですか？紫苑さん。」

「もう夜も遅いから寝るぞ。」

「もう少しやってから…「寝るぞ。」…はい。」

ここ最近はずっとこの調子の繰り返し。
 

一度紫苑さんに寝ると言って部屋に入った後も勉強していたら紫苑さんの寝室に連れていかれそのまま二人で寝るようになってからずっと二人で寝ている。

たまに紫苑さんが寝ている時にトイレに行こうとしても起きるし、少し動いても「寝れないのか？」って起きるからベッドから紫苑さんにバレずに出れたことはない。

「おやすみ杏。」

「はい。おやすみなさい。」

真っ暗な部屋で寝れない俺のために常夜灯をつけてくれている紫苑さんは寝辛いだろうにむしろ暗くないか聞いてくれる。

「また明日やればいい。勉強道具は逃げない。」

頭を撫でながらそう言ってくれる紫苑さんは優しいんだけど、俺はそれに返す言葉が思いつかない。

明日まで生きていけるかわからない。
別に死んでもいい。
ちゃんと最後は紫苑さんにお礼を言えば心残りなんてない。

でも、生きている限り俺はまだ学生だから、学校に行かなくてはならない。
学生の本分は勉強だ。

日に日に落ちていく学力はあの家で完璧を求められた俺には苦痛だった。怒られるのも怖いし、呆れられるのはもっと嫌だ。

紫苑さんが俺をみてくれなくなったら今周りで俺を支えてくれている人たちはみんないなくなってしまう。

それは死ぬことよりずっと嫌なことだからこそ現状がいやだった。

朝早くに紫苑さんのスマホの着信音で目が覚める。

「もう少し寝てろ。」と頭を撫でてからスマホを持って部屋を出ていった。
ドアのすぐそばで電話を取ったからなのか、俺が目が覚めてしまってリビングに向かおうとしたからなのか、紫苑さんの電話の声が聞こえてしまった。

「あぁ。俺だ。」

「…いや、計画は順調に…。あ？もちろん。売るに決まってるだろ。いらねぇよ。あぁ。それだけか？…あいつは元気だ。あぁ、心配は要らない。近いうちに動くから待ってろ。」

計画。売る。いらない。あいつって誰？

なんの計画？誰を売る？やっぱりいらなかった？

せっかく紫苑さんを信じようと思って最近は気にしないようにしていたのに。

こんなの聞いたら俺のこととしか思えない。

その場で動けなくなって固まっていた俺を見つけた紫苑さんはもう一度ベッドへ俺を促す。

「寝れなくても横になってろ。」

言われるがままに横になってずっと考えないように目を瞑る。

もしも近いうちに死ねるのなら、紫苑さんに売られる前に死にたい。そう考えたあたりで俺はまた夢の世界に戻った。