【本編完結】白紙の未来

Popo

文字の大きさ
上 下
45 / 99
5

第43話

しおりを挟む
「心と体が一致しないことはどんな人でも起きる事だし、それを知るだけでいいんだ。無理して笑顔を作ろうとしたり、一致しないとこに思い詰めすぎないで。自然に笑えるようになるからね。じゃ。また来週~。」

そう言って帰って行った渡辺先生。

気にするなは難しい。

「俺…ずっとあの顔で紫苑さんと話していたのかなぁ。いつからだったんだろう。」

鏡の前で顔を揉みながらそう口に出してみた。

笑えない。
いろんな意味で笑えない。

紫苑さんも徹さんも、聖君も夏井先生も宮さんも篠宮さんも、みんな思っていたけど言わないでいてくれたんだろうな。

俺、もしかして伝わってなかったんじゃないか。本当に嬉しかったことも楽しかったことも何も伝わってなくて、紫苑さんたちは義務感でここに俺をいさせてくれてるんじゃないのか?


帰ってきた紫苑さんと夕食を一緒に食べる。
ちなみに、箸も使えるようになった。

食後お茶を飲みながら紫苑さんと話す時間。

「あの、紫苑さん。」

「何があった?」

「俺、俺いつも死んだ顔してて、笑ってないんですけど…本当に本当にここでの生活は楽しいし、いろんな嬉しいことがあって最近は体調もすごく良くてあの…。」

「ゆっくりでいい。」

「それで、もし…もし紫苑さんがもう義務感で俺をここにいさせてくれるなら俺、家に帰ります。」

「渡辺に何言われた。」

「先生は何も言ってません。」

「帰りたいのか?」

帰りたくない。ここにいたい。

「俺は…。」

「お前に初めてあった時、その目の輝きのなさに驚いた。一般人がする目じゃなかったからな。…食事会で会うたびに心が苦しかった。嬉しいって言っても美味しいって言っても動かない表情。」

「おれ…本当に!」

「あぁ。わかっていた。心から嬉しがっているのも楽しんでいるのも。だから、俺がその目に輝きを取り戻させて俺に笑ってほしいからお前をここに連れてきたんだ。」

「…。」

「俺は、人より少し愛が重い。それが好きなやつで番にしたいやつなら尚更な。」

「紫苑さん…?」

「杏。俺はお前が手に入ったら束縛するだろう。GPSは持たせるし、どこに行こうとも俺に言わせるし着いていく。お前が自由にいられるのは俺の側だけで他人の隣じゃない。どうだ?怖いか?嫌だろ?」

狂おしいほどの愛ってどんなのだろう。
俺が今までずっと欲しかったものはそれで満足できるのだろうか。

「足りなかったら…どうしますか?」

「ふっ。足りないなら増やすだけだ。なんだ?怖くないのか?」

「俺は…怖くないです。帰りたくないし、紫苑さんと居たいです。」

「義務感で他人を住ませるような性格じゃない。俺は俺の好きなやつと大切なやつしかここに入れない。分かるか?杏。義務感じゃないんだ。」

ハグしながら耳元でそう言う紫苑さん。

あぁ、この人は本気でそう思ってるんだって不思議と思えた。
義務感じゃない。この人はあの家の人たちと違って俺を大切にしてくれるんだ。

いつか、俺も紫苑さんのことを好きになれるのかな?






しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

組長と俺の話

性癖詰め込みおばけ
BL
その名の通り、組長と主人公の話 え、主人公のキャラ変が激しい?誤字がある? ( ᵒ̴̶̷᷄꒳ᵒ̴̶̷᷅ )それはホントにごめんなさい 1日1話かけたらいいな〜(他人事) 面白かったら、是非コメントをお願いします!

a pair of fate

みか
BL
『運命の番』そんなのおとぎ話の中にしか存在しないと思っていた。 ・オメガバース ・893若頭×高校生 ・特殊設定有

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

ヤクザと捨て子

幕間ささめ
BL
執着溺愛ヤクザ幹部×箱入り義理息子 ヤクザの事務所前に捨てられた子どもを自分好みに育てるヤクザ幹部とそんな保護者に育てられてる箱入り男子のお話。 ヤクザは頭の切れる爽やかな風貌の腹黒紳士。息子は細身の美男子の空回り全力少年。

表情筋が死んでいる

白鳩 唯斗
BL
無表情な主人公

家族になろうか

わこ
BL
金持ち若社長に可愛がられる少年の話。 かつて自サイトに載せていたお話です。 表紙画像はぱくたそ様(www.pakutaso.com)よりお借りしています。

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

処理中です...