人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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198、閑話ー白眉ー

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 鳥を腕に乗せる。
 その鳥の足首には小さな筒が取り付けられている。
 ウルリッカはその筒を取り外して中の小さな羊皮紙に書かれた内容に満足した。
 自分の命じた事は正確に遂行されたようだ。
 ウルリッカは鳥を放ち、足早にベネディクト王の執務室に向かった。
 衛士に取次ぎを頼むと入室の許可が出た。
 その扉を不躾にガチャリと開けた。
「陛下~~! バッチリよ!」
「何がだ?」
「マイナルディの件。しっかりけじめ付けたわよ」
「……委細を話せ」
 ベネディクト王は執務の手を休めずに目線もウルリッカに移す事無く訊ねた。
「マイナルディとその家族は攫って痛めつけて殺したわ。で、その遺体を王子個人の4件ある別邸の庭先にそれぞれ投げ込んでおいた」
 ウルリッカはにこりと笑い、楽し気に報告した。
 ここで初めてベネディクト王の手が止まった。
「……一切の躊躇が無くていっそ小気味良いな」
「やるなら徹底的に、でしょ?」
「まあ、それだけされればあの似非王子も今後は下手な手出しは出来んだろうな」
「マイナルディは色々ゲロってくれたみたいよ? 追及する?」
 ベネディクト王は顔を上げ、机に頬杖をついてウルリッカを見た。
「いや、どうせ行きつく先はプトレドの高級官吏になるだろう。そこまで行ってしまえばプトレドも本腰を入れて調査せざるを得なくなる。そうすれば暗部達の身が危ない。これ以上はもう良い」
「じゃあ、マイナルディのすぐ上は脅すだけでやめておくわ。つまんないけど」
 ウルリッカは執務机の前に置かれたソファにドカリと座った。
「プトレド王には素知らぬ顔してマイナルディの死の調査も依頼して~~、更には外交カードにすればいいわよね~~♪」
「こちらは向こうの悪意に晒された被害者であるという立場を通せばいい」
「実際、王妃が攫われそうになったんだもの。うちの可愛い王妃を慰み者にしようなんて信じられないわ」
「あれが欲しかったとして、実際プトレドに連れて行っても正妃にする事はもちろん、妾妃にする事すら出来んだろうがな」
「まあ、そうよね。同盟国の王妃を穏便に自分の妃にする方法なんてないわよねぇ。互いの同意がない限りは」
「どんなに欲しても、レイティアの立場を守った形での婚姻は無理である以上、慰み者にする位しか方法はなかっただろうな」
 ウルリッカは少し考えた様子を見せて、ベネディクト王に視線をやった。
「ねえ? それってさ? レイティア様がもし妾妃だったらどうだったかしら?」
「……何が言いたい?」
 ウルリッカは脚を組みその膝に肘を乗せて思案するように口許に指をやった。
「だって、あくまでも妾妃でしょ? 正妃である以上の重要性は無いし、本人不在で帰国を嫌がってるって言っちゃっても正妃ほどの問題は起こらないわよね~~? で、ほとぼりが冷めたら自分の妾妃にでもすればいいわけだし」
「…………」
「むしろ嫌がって亡命して表にも出てこない妾妃如きにムキになる王にきっと他国は冷ややかな目を向けるわ。今回の問題でプトレドに借りを作れたのはレイティア様が正妃だったから、というのは大きいと思うの」
 ウルリッカはベネディクト王の顔をじっと見つめる。
 たっぷりの間の後、とどめの一言を見舞った。
「太公様に感謝しなきゃね、陛下」
 ベネディクト王は盛大に眉を顰めた。
 ただ、レイティアを正妃にした経緯は確かに太公の遺言があってこそだ。あれがなければきっとそのままなし崩しに妾妃として輿入れさせていただろう。
 ベネディクト王はあまり体裁を気にしない王だ。出来得る限りの面倒ごとは省きたい質であるし、自身の威信にもあまり興味がない。
 それらを整えているのはあくまでも重臣達で本人ではない。
 逆に先代のエルネスティ王は大変に体裁を重んじた。他国に対する体裁を整える事にその治世を費やしたと言っても過言ではない。
「陛下? 今回の事で少しはわかったでしょ? 確かに体裁には面倒ごとが付随するけど、国として大事なものを守る為の詭弁としては大変に重要だったりするのよ? わかった?」
 ベネディクト王は不服そうに眉を顰めたが、大きく溜息を吐くと一言だけ返事をした。
「わかった」
「最近の陛下は物分かりが良くて本当に助かるわ~~。それもこれも王妃が可愛いおかげよね~~♪ で、ヴィカンデル様の処遇は決まったの?」
 ウルリッカは小首を傾げてベネディクト王に訊ねた。
「ああ、流刑だ」
「あれ? ホンカサロ様と同じ流刑地?」
「ああ、そうだ」
 第三妾妃であったレニタ・ヴィルヘルミーナ・ホンカサロはセオ島よりも更に南にある諸島群の小さな南の島にある流刑地に幽閉されている。
 彼女への処罰は斬首だったが刑はベネディクト王の婚姻式まで延期され、その後恩赦で減刑となって流刑に処された。
「まだ認めてないんでしょ?」
「あの女は絶対に認めんだろうな。そういう女だ」
 ベネディクト王はその話題には関心がなさそうに執務の手を動かし始めた。
「ラルセン様も無事にお嫁に行かれたし、これでお妃様はレイティア様だけになったわね~~」
「もうあれ以外は要らん」
 執務の手を休めず、視線は書類にやったままベネディクト王はサラリと答えた。
 書類にささっとサインをして、更に新しい書類を手に取る。
 そんなベネディクト王をウルリッカはニマニマと笑い頬杖をついて眺めた。
「……なんだ?」
「いや、陛下もすっかり愛妻家になっちゃったなぁ~~って。だって王妃可愛いもんね~~。レイティア様はご自分の事を普通だと思ってるみたいだけど」
「……あれは自分の目に見える能力しか測っておらんのだろうな」
「そうね~~。レイティア様は自分は剣が振るえないとか、政治が出来ないとか外交が出来ないとか、そんな事に目が行きがちよね」
「あれには人を惹きつける魅力がある。人の上に立つ者としては不可欠な能力だろうな」
 どんどん書類を分類しながらベネディクト王はレイティアを想う。
 想えば想うほど、その笑顔にいち早く会いたくなり作業と化している書類整理のスピードを上げていく。
「そうよね、レイティア様の為なら何でもやってあげたくなっちゃうもの」
「そういう意味では儂ですらあれに使われておるようなものだろうな。さ、これで政務は終わった。お前は暇そうだな。宰相にこの一角をもう一度吟味するように言っておけ」
 時間は昼過ぎ。今ならレイティアと昼食を摂れるかもしれない。
「はいはい、陛下。賜りましたわ」
 その返事を聞くとベネディクト王はウルリッカを置いて、さっさと執務室を出て行った。
 ウルリッカはそんなベネディクト王を微笑ましく見送り呟いた。
「そうね、グリムヒルトの実質の支配者はレイティア様だものね~~……」
 彼女の為ならば、汚れ仕事も進んでする程に心掴まれた自分達。
 
 ふと、その王妃から個人的に賜ったお守りに目をやる。
 お守りを手渡された時のレイティアの可愛らしさを思い出すと今でも顔に微笑みが乗る。
 ウルリッカはそれをきゅっと握って自分達の大切な王妃に想い馳せた。
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