人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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196、閑話ー科戸4ー

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 レイティアの乗った軍船は、無事に昼頃にはグリムヒルトの王都に着いた。
 軍港には入らずに、交易港であるヴィエタ港に着港した。
 船を降りたレイティアはその喧騒に驚いた。
 マグダラスの港はこんなに船をたくさん泊める事は出来ないのでその大きさにまずは面食らった。
 そしてそのたくさんの船からは次々と荷が降ろされ、更に荷が運び込まれ、その活気はレイティアが初めて見るものだった。
「……すごい……」
 すっかり感心し惚けて桟橋で立ち尽くしていると、ヘリュに優しく背を押される。
「さあ、降りよう」
「あ、はい!」
 桟橋を降りると、すぐに馬車が用意してあった。
 ヴィルッキラ夫妻と共にその馬車に乗り込んで着席するが、レイティアは外の景色が気になって仕方がない。
 それを察したヘリュはレイティアの隣に座り、レイティアの後ろから窓の外を一緒に覗き込んだ。
「ここはヴィエタ港。交易港だ」
「大きな港ですね! あ、あの衣装珍しい!」
「あれはニヨルダの衣装だ」
「ニヨルダ……?」
「ニヨルダはヴィンザンツ大陸のジャハランカ民族連合国の一民族だ」
「そうなんですか。ヴィンザンツ大陸の文化ですか……。鮮やかな布地が凄く目を引きますね! あれ、あれは何をしている所でしょう?」
「あれは下した荷の競りをしている所だろう」
「取引先が決まってなくても荷が運ばれてくる事もあるんですか?」
「ああ、このヴィエタ港に運ばれてくる荷はそういうものが多いな」
「へえ……。皆が自由に商売してるんですね! グリムヒルトは賑やかで開かれた国なのですね!」
 窓の外に広がる、街の様子に興奮するレイティアをヘリュは複雑な気分で見つめた。
 この国を否定的に捉える自分とは対照的に、人質同然で連れて来られたこの王女はこの国を肯定的に捉えている。
 そんな様子のレイティアの質問に一つ一つ答えていると、じきに馬車は王城に辿り着いた。
「……大きなお城……」
 マグダラスの城の何倍はあろうかというほどの規模のグリムヒルトの王城は半分海に沈んでいる。
 その様子はレイティアにとってとても不思議な光景だった。
「半分海に浮かんでいるのですね……。やっぱり王城から船に乗れたりするんですか?」
 軍師は柔かな笑みを浮かべて、レイティアの質問に答えた。
「ええ。初代の頃は船の規模が小さかったので、軍船を入れておりました。しかし今陛下が所有する軍船はどれもこの王城の船着き場には入りませんので、今は遊覧船がたまに出入りする位です」
 レイティアは感嘆の溜息を吐く。
 グリムヒルトに到着してから見るもの全てにいちいち驚いている。
 今日からこの城に自分も住まう事になるのだが、あまりの規模の違いにただただ茫然とした気分になった。
 王城の主城門をくぐって外殿の入り口で馬車は停まった。
「さあ、姫、着きました」
 先に馬車を降りた軍師はレイティアに手を差し伸べた。
「あ、その、大丈夫ですから……、私ではなくて奥様に……」
「心配いらない。私はエスコートされる様な柄ではないから」
「そうです、妻が私の手を取ってくれた事などございませんから。お気になさらず」
「……えっと……、はい……」
 お断りするのもなんだか悪い気がして、ここはお言葉に甘えておく。
「まずは貴賓室にご案内致します」
 軍師がレイティアの手を取って言った。
「すみません、そのお部屋では着替えは出来そうですか?」
「はい、出来ますよ。ヘリュ、姫のお召替えのお手伝いを」
「ああ、わかった」
 レイティアは慌てて首を横に振った。
「大丈夫です! 着替えは自分で出来ますから!」
「ヘリュで不足なら侍女をお付けします」
 レイティアは軍師のその言葉にまた慌てて首を横に振る。
「違います! ヘリュ様が不足なんて事はないです! 私着替えは本当に自分で出来ますから!」
「今来たばかりの城で一人きりでは何かと不便だろう。私もよく知ってる訳ではないがいないよりはいい」
「……あの、ではお言葉に甘えて、お願いします」
 自分よりも長い船旅をしてきた二人はきっと疲れているだろうと固辞したのだが逆に気遣いを受けてレイティアは夫妻の親切な態度に母親であるマグダラス王妃の言葉を思い出した。
『きっと軍師は貴女をぞんざいには扱わないでしょう』
 今、このグリムヒルトで頼りになる人達はこの夫妻だけだ。きっと今後もお世話になる事がたくさんあるだろうと二人の顔をじっと見てしまう。
「……? どうされた?」
 ヘリュはじっと自分達を見つめるレイティアに訊ねる。
「いえ、お二人はとても親切だなと思って。色々とお気遣いして頂いて、ありがたいです」
 レイティアが笑顔でそう言うとヘリュは少し複雑そうにレイティアを見つめ返した。
「……私が初めて来た時の部屋に案内するのでいいのか?」
 レイティアの言葉に答えられずにヘリュは目を逸らした。
「ああ、あの部屋でかまわない。姫、私は宰相殿に姫が到着された事を報告しに一旦御前を離れます」
「あ、はい」
 そう言うと軍師は颯爽と外殿の中へと入っていった。
 ヘリュとレイティアはゆっくりとヘリュの案内する貴賓室に向かった。
 レイティアはこうして城内を歩いているだけで、この城の大きさや、珍しい調度品で飾られた豪華さに目が眩みそうだった。
 マグダラスとは何もかも規模が違う。
 こんな田舎者の、とりとめて特筆する様な特徴のない自分が、15も歳上の男性にまともに相手をしてもらえるのか、きちんと話を聞いてもらえるのか、感動の尾が離れた今、不安が胸をもたげる。
 貴賓室に入ると、やっぱりその豪華さに面食らう。
 恐らくマグダラスの自分の部屋より大きく、誂えられているベッドはとても大きくそれに敷かれている布団に被せてあるシーツは絹だ。
「……すごい……」
 貴賓室でこの豪華さなのだから、王族の部屋はもっと豪華でもっと贅の限りを尽くしているのだろう。
 グリムヒルトの国力がとても大きく強いのだという事がよくわかる。
「お召替えをなさるのだろう?」
「あ、そうですね、このドレスではさすがにグリムヒルト国王に失礼ですから。……あ、でも今日会って頂けるとは限らないのですよね」
「さあ、どうだろうな。あの男は気まぐれだからわからない」
「一応、着替えておきます。もしお呼び下さってお待たせしてはいけないですから」
 レイティアは着替えはじめ、ヘリュはその手伝いをした。
「……ヘリュ様は国王陛下の事をあの男と呼んでいるのですか?」
 ヘリュはレイティアのペチコートを支えながら事も無げに答えた。
「私はあの男には忠誠は誓っていない。……仕える気もない」
 何かヘリュの言葉の中に国王に対する反感みたいなものを感じ取ったレイティアはそれ以上は何も聞けなかった。
 ヘリュのこの態度から国王がどんな人物なのか、更に不安が募った。
 自分に対してこれだけ親切なヘリュがこれほど露骨に反感を表に出している。ヘリュの為人はレイティアから見て誠実で実直で誇り高いという印象だ。
 そのヘリュが嫌う人物なのだから、噂通りの残酷な人物なのだろうか?
 着替えながらそんな事を考えているとより緊張が増した。
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