人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 陛下は凌遅刑を取り止めてくれた。
 商船の船員さん達はアルカラ含めて連行される事になった。
 陛下と私は陛下の軍船に乗り込む。
「しかしレイティア、そんな恰好で人前に出て来るとは思わなかったぞ」
 陛下は私の肩を抱いて、少し呆れた様に笑った。
 私は元のサイズに戻ったレジーヌを胸に抱いて陛下を見上げた。
「だって、服が無くなっていたんです。でも絶対行かなきゃと思って……」
「ああ、服は儂が捨てた」
「ええ! 捨ててしまったのですか? ……どうしよう……、どうやって王城に戻ろう……」
 陛下は更に呆れた様に笑う。
「持って来させる。これ以上そんなあられもない恰好を人前で晒されてたまるか」
 そう強めに言われると陛下の船室に半ば押し込める様な形で背を押された。
 私は大事な事を陛下に切り出す。
「陛下? 今すぐ命じて頂きたい事があるのです」
「なんだ?」
「アラギス林道で助けてくれたグレーゲルが足の腱を切られてしまったんです」
 陛下は疑問を表情に乗せて、私の顔を覗き込んだ。
「グレーゲル? お前は城を出て何をしておった?」
「私、陛下はマイヤール領で全軍の指揮を執ると思ったんです。ですから、マイヤールに向かったんです。そしたら街に私の捕縛依頼が出ていて、それを聞きつけたグレーゲルは私だと直感して、雇われてくれるに至ったのですけど……」
「叛逆軍に捕まったという事か」
「はい、通りがかりの赤ちゃんを人質に取られてしまって……」
「それで商船に乗せられたのか」
「はい。なので、今すぐアラギス林道に戻りたいのです。助けに行かなくちゃ!」
「心配するな、迎えをやる」
「でも、きっと軍人さんは信用してくれないと思います……。なんせグリムヒルトの軍人が襲って来たのですから」
「グレーゲルは誰ならわかる? そいつに行かせよう」
 私は少し考える。
「グレーゲルが確実に私の味方だと認識してるのは、ヘリュ様と陛下ですね」
「そうか、ではセイレーン殿に頼むとするか」
 私は焦って拒否する。
「ちょっと待って下さい! そんな、国の至宝と呼ばれる方にお使いみたいな事させられません!」
「自らの主の使いなら喜んでするだろう」
「主って? 誰ですか?」
 陛下はジッと私を見つめる。
「お前は自覚がなかったのか。この国に来る道中で忠誠を誓われたのであろう?」
 私はしばらく考える。確かにグリムヒルトにやって来る軍船の上で、跪いて手の甲にキスをしてもらった事があった。
 あれは騎士が忠誠を誓う時にやるけど、まさかグリムヒルトでも同じ慣習があったなんて……。
 どうやら私の顔はそれを思い出して青ざめていたようで、陛下はくつくつと笑い出した。
 今更だけど事の大きさに私は戸惑う。
 だって、この国一番の剣豪でこの国の至宝とも呼ばれる炎のセイレーンに忠誠を誓われるなんて大変な事だ。
 しかもその頃はマグダラスの王女で妾妃として輿入れする予定だった自分にそんな方が忠誠を誓って下さったなんて、事の重大さを考えたら今更慄いてしまう。
 陛下はそんな私の戸惑う様子を見て、更に笑った。
「セイレーン殿はお前のものだ。今後はそう思って使うがいい」
「……そんな……」
「で? グレーゲルは助けてやらんのか?」
「そうだった! ……ではヘリュ様にお願いする事にします」
 ヘリュ様にお願いするのは申し訳ないけど、ここは素直に甘えよう。
 そう言って、一息ついて一番言い難い事を思い出す。
「……あと……、多分、その、内通者がいると思うんです……」
 陛下は私の背を押してソファに導きながら、事も無げに答えた。
「いるな。大体見当はついておる」
「え?! もう?!」
「自ら墓穴を掘りおった」
 私は勧められたソファに座りながら、感心を口にした。
「陛下は本当に凄い方ですね……」
「それについてはアルカラが証拠を握っておるようだからな。問題なく捕らえる事が出来るだろうが」
 陛下は私の横にドスっと座って背凭れに背中を預けて脚を組んだ。
「……もう、ご存じかもしれませんけれど……、街に私の捕縛依頼を出した商会というのがカルステニウス商会という商会です」
「……ほう?」
「で、その商会はどうやらアルバニウス商会という商会の代理で捕縛依頼を出したようです」
「なるほど。繋がったな」
「? 何が繋がったのですか?」
 陛下はしばらくジッと船室の窓から見える海原を見つめていた。
 そして意を決した様に私に向き直る。
「……レイティア。儂はこの者の事だけは許す気はないぞ?」
「……それは、どなたなのですか?」
「繋がりから考えて、ヴィカンデルだ」
「!!!!っ」
 私は声が出ない位、驚く。
 だって、あれだけ私に協力してくれて、いつも仲良くして下さっていたエミリア様が……?
「……どうして、……エミリア様だと?」
 腕の中に抱いていたレジーヌをぎゅっと抱きしめる。
 それに気が付いたレジーヌのアイスブルーの瞳が、私を見上げた。
 慌ててレジーヌの頭を優しく撫でる。
「あれは立て籠もっておったにも拘らず、お前が商船に乗せられると断言しおった。それにヴィカンデル家の御用達商人はアルバニウス商会で、更に言えば、その創立メンバーは先代のヴィカンデル家当主の弟、つまりあれにとっての叔父にあたるな」
「……そうなのですか……」

「ヴィカンデルはお前の信頼を裏切ったばかりか、お前をこれ以上ない危険に晒した。儂は決して情状を与える気はない」
 陛下はきっぱりと、とても強い意志を宿した瞳で、私をずっと捉えて離さなかった。
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