人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 儂に呼びつけられやって来た宰相にこの海遊庭園で拘束された者達から目を離さぬように命じた。
 更にその者達の背景を徹底して調べさせる。
 内通者は明らかにこの中にいる。
 儂の中では大体の目星はつけたが、尻尾を掴まなければ言い逃れされ、逃げ切られる。
 儂は王の間に移り、玉座に座し、脚を組んで頬杖をついた。
 城内で抵抗していた叛逆軍は粗方捕縛し捕らえた。
 叛逆そのものはほぼ鎮圧されたと言っていいだろう。
 いつもの余裕の消え失せた宰相が足早に王の間に入ると、膝をついた。
「陛下、ヴィスタ港からビアニア行の商船の船団が今しがた出港したようです。この船はプトレドのデル・オレモ商会に籍があります。荷は主に調度品のようです」
「……そのデル・オレモ商会との取引商会はどこだ?」
「それが聞いた事のない商会でカルステニウス商会という最近スケニア領で立ち上げられたばかりの商会のようです。籍もスケニア領にあります。船団を組むほどの規模の商会と、立ち上げたばかりの小規模な商会とではあまりにも釣り合いが取れないのでおかしいと思いご報告申し上げました」
「……それだ。その船を追う」
「陛下自ら出られるのですか?」
「ああ、お前はそのカルステニウス商会を徹底的に調べろ。構成員の出自までも全てな。……儂の勘ではアルバニウス商会がどこかで絡んでくる筈だ」
 宰相は険しい顔をする。
「……アルバニウス……ですか……」
 アルバニウスの名を出した事で察したようだ。
「良いか? 気取られるな? 恐ろしく周到に用意しておった連中だ。逃げ道は全て塞いで決して逃がすな?」
「御意」
 そう返事すると、宰相はまた足早に王の間を後にする。
 儂もまた立ち上がり、王城に隣接する軍港に向かうべく、速足で歩み出す。
 部屋の隅に控えていたバーリリンドは儂に追従する。
「主城門に馬を回せ。時間が惜しい」
「御意」
 バーリリンドはそう返事をすると走っていく。
 外殿を出ると、すぐに主城門がある。
 主城門はまだまだ混乱が尾を引いて騒然としている。
 先を走って行ったバーリリンドが白馬を引いてやって来た。
 用意されていた白馬に跨る。黒馬は昨夜早駆けをさせたので休ませているのだろう。
「バーリリンド、ここから先は海戦になる。お前は休んで良い」
「御意」
 単身で軍港に馬を走らせる。宰相から知らせを受け、儂の軍船が準備されているだろう。
 恐らく、軍師のギネゼ領海軍が件の商船団を追っている筈だ。
 それに儂の王軍を合わせれば、難なく敵を拿捕出来る。
 問題はレイティアを盾に取られた場合だ。
 その場合儂かセイレーン殿が乗り込むのがいいだろう。
 セイレーン殿は予めギネゼ領海軍の船に向かわせた。今頃は領軍の船でデル・オレモ商会の船団を追いかけている事だろう。
 白馬を駆って軍港へと入る。
「お、陛下、いらっしゃい」
「すぐに出せるか?」
 儂に声をかけたこの男はこの軍港の管理を受け持つウルマス・イミ・ラヤラという男だ。
「もちろん。毎日の保守は欠かしてねえっすよ」
 儂の王旗の上がった船は着港し、渡し橋が架けられている。
 海戦になる事が想定されているようで、弓矢を防ぐ大型の盾も装備してある。
「今回は腕のいい航海士がいなくて。だもんで俺が乗リますね」
「頼む」
 こうは言うがこのラヤラは航海にかけては右に出る者無しと言っても過言ではない程に海を熟知した男で航海士としても操舵手としても非常に優秀で、よく戦に出ていた時代にはこの男の機転で何度となく命拾いをし、儂の無茶な要求にも難なく応えた。
「てか、陛下すげー怒ってるじゃないっすか。超怖いんですけど」
「流石にこれだけいい様にされてはな。自分自身に腹が立つ」
「こんだけ怒ってる陛下の傍には寄りたくないんすけどね。久しぶりの航海には代えられないっす」
 儂とラヤラは桟橋を渡って、船に乗り込む。
「すぐに出せ」
 そう言うとラヤラは軽く手を上げて、船員達に合図を送る。
 船員達は威勢良く声をかけ合って、出港作業を始める、
 やがて船は動き出す。儂の帆船は図体の割には速さがある。
 海に出ると帆は風を受けてどんどん速度を上げていく。
「ハーヴェスト閣下から聞いてるのは、この方向に5隻の商船がいるからそれを追えって事らしいんですけどね」
「デル・オレモというプトレドの商会だ。お前は知っているか?」
「ああ、プトレドって先代の頃に奴隷撤廃したっしょ? 地下に潜ってまだそういう商売してる奴らがいるらしくて、デル・オレモもそういう商売を裏で続けてるみたいだって聞いた事があるっすね」
「……なるほどな……」
 これで確信を得た。やはり狙いは最初からレイティアだ。
 プトレドならあの似非王子で間違いない。
 しかしきっと何の痕跡も残してはいない。恐らくそのデル・オレモ商会とのやり取りすら、自らとは繋がらぬように手を打っていると見て間違いないだろう。
「その船団、ビアニアに行くんでしょ? ビアニアはこないだまたサンドバルと一悶着あったとこでしょ? そんな時分に船団率いてどんな取引しようってんでしょうね?」
「……あの似非王子の考えそうな事なら手に取るようにわかる……」
 ビアニアとプトレドは隣国だ。ビアニアがサンドバルとの戦争に明け暮れているおかげでプトレドはサンドバルの脅威に怯える事なく自国を肥やす事が出来ている。
 故に遠交近攻の法則に反してこの両国は同盟関係にある。ビアニアが戦争の矢面に立つ代わりに、プトレドは武器の供与や資金援助などを行なっている。
 あの似非王子は出入りの自由な国境付近のビアニアの手頃な街でレイティアを飼い殺そうと考えているのだろう。
「? 似非王子って誰の事っすか?」
「何でもない、気にするな」

 船は海原を進み、日差しの中甲板で海を眺めていると波間に小さな複数の船影が見えてきた。
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