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ここは私が王妃だと教えてしまっても良いのかどうなのか、悩む。
「……あの、人違いじゃないですか?」
軍人達の一人が私に言う。
「僭越ですが、王城にてお見かけした事がございます。王妃陛下で間違いありません。陛下のご命令によりお迎えに上がりました」
「……陛下の? 今陛下は……」
そう、軍服の男の一人に問いかけた瞬間、グレーゲルが私の前に出て、男達に声をかける。
「あんたら、所属は?」
「……何故お前に答える必要がある?」
私に話しかけた男は険のある目付きでグレーゲルを見て吐き捨てる様に言った。
「俺はこの嬢ちゃんに直接雇われてるもんだ。もしこの嬢ちゃんが本当に王妃なら、俺は謂わば王妃の私兵って奴だ。直接守る事を命じられてるってこったな」
私はグレーゲルの後ろから男に話しかける。
「その通りよ。今はこの人は私の私兵なの。彼の言葉に従って」
「我々よりもその男の方が信用に値すると王妃陛下は仰られるのか?」
私は毅然と言った。
「そうです。今この場で最も信用出来る人物はグレーゲルです。もしそれが不満だと言うなら、先ずは私の命に従って、信頼を得なさい」
なんとなく、この人の態度には私に対して少し棘がある様に感じる。
それはもしかしたら軍人さん特有の厳しい態度だったりするのかもしれないけれど。
男の眉が寄せられた。そして、手を上げて他の四人に命じた。
「予定変更だ。多少手荒になってもいい。ただし傷は負わせるな。先方との契約だからな」
男達は抜刀する。
「……おいおい、冗談だろ? 軍人五人一度に相手にしろってか?」
グレーゲルは硬く笑うと、抜刀した。
「私も援護位なら出来るわ」
グレーゲルの背中に囁いた。
「頼むぜ? 俺ぁ、あんたの旦那やセイレーンと違って人間だからな。あんな化け物達と同じ腕前を期待されたら困る」
「背中くらいは守ってあげるから安心して」
そう言って魔法を使える様に身構える。
「王妃、大人しく従えば命までは取らない」
「……ねえ? カンニスト大尉も言っていたけど、ビアニアの要人とやらが貴方達のこの挙兵を支援したという事なのですか?」
男は私を冷たく見ると、吐き捨てる。
「貴女は大人しくビアニアへの船に乗ればいい」
「王妃を売り買いしようってのか? なかなか面白いじゃねえか。一体幾らで売ったんだ?」
グレーゲルが硬く笑ったまま男に問いかけた。
「……貴様の様な低俗な男と一緒にするな。我々は大志の元に挙兵したのだ」
「貴方々の言う大志とは、陛下から私を遠ざける事で成せるのですか?」
男は私を睨みつける。
「陛下は海の民にとって理想の王であらせられる。しかし貴女が来てから陛下のなさる事は地の民の優遇政策ばかりだ。お前が誑かしたせいで陛下の御名誉が地に落ちてしまう!」
「陛下は海の民の幸福を願っておられると同時に、地の民への哀れみもお持ちです。海の民を冷遇する王でも地の民を優遇する王でもない。そんな器の小さなお方ではないの!」
軍服の男は激昂して私を怒鳴りつけた。
「お前の魂胆はわかっている! 陛下に媚び諂い、地の民に力を持たせ、利権を増やし、私腹を肥やそうと言うのだろう」
私はまたカッとなって怒鳴ってしまう。
「どうして貴方達叛逆軍の人はそんなに陛下を見縊っているのですか! そもそも陛下は私如きに誑かされる様なお人じゃない!」
「現に陛下はお前を寵愛し、御政務以外の時間は片時も離さず色に溺れておられる! 所詮は地の民の王女だ、どんな手練手管を持っていても不思議ではない!」
私は怒りで血の気が引くのを感じた。
でも実際、陛下は御政務が終われば私の元に一番にやって来て下さって、その後は確かに私をお召しになる事が多い。
そんな事を思いながら、もう一方、頭では冷静に考える。
どうして、この人達がそんな内殿の中の更に限られた人しか入れない場所の出来事を知ってるの?
そもそも王の間や王妃の間、それに妾妃様方の住まわれている妃の間は本当に限られた侍女達、それに重臣の皆さんにしか立ち入りを許可していない。
幾ら将校達とは言え、こんな王の私的な情報を知ってる筈がない。
もし陛下が御政務もせず、常時複数の女性と色に耽っておられるのであれば誰かがお諫めする様になるだろうしそうなれば噂が立つのもわかる。
でも陛下は御政務をこなして、今は王妃である私ばかりをお召しだ。私の侍女達が私の体を心配してお諫めされる事はあっても、色事に耽っているからという理由からじゃない。
噂話に上がる様な話題じゃないだろう。
私がそんな思考に囚われて黙っていると、軍服の男は私を嘲笑った。
「図星を指され生意気な口も聞けなくなったか。お前の様な女は陛下には相応しくない。大人しくビアニアへ行きお得意の手練手管で媚でも売っていろ」
「……陛下御自身が求めて下さる間は、私は誰の元にも参りません」
「ならば仕方ない。……さあ、王妃を捕らえろ」
男は軽く手を上げて号令をかける。
その意図を組んだ他の軍服を着た男達4人が私とグレーゲルに向かって、剣を振り上げた。
「……あの、人違いじゃないですか?」
軍人達の一人が私に言う。
「僭越ですが、王城にてお見かけした事がございます。王妃陛下で間違いありません。陛下のご命令によりお迎えに上がりました」
「……陛下の? 今陛下は……」
そう、軍服の男の一人に問いかけた瞬間、グレーゲルが私の前に出て、男達に声をかける。
「あんたら、所属は?」
「……何故お前に答える必要がある?」
私に話しかけた男は険のある目付きでグレーゲルを見て吐き捨てる様に言った。
「俺はこの嬢ちゃんに直接雇われてるもんだ。もしこの嬢ちゃんが本当に王妃なら、俺は謂わば王妃の私兵って奴だ。直接守る事を命じられてるってこったな」
私はグレーゲルの後ろから男に話しかける。
「その通りよ。今はこの人は私の私兵なの。彼の言葉に従って」
「我々よりもその男の方が信用に値すると王妃陛下は仰られるのか?」
私は毅然と言った。
「そうです。今この場で最も信用出来る人物はグレーゲルです。もしそれが不満だと言うなら、先ずは私の命に従って、信頼を得なさい」
なんとなく、この人の態度には私に対して少し棘がある様に感じる。
それはもしかしたら軍人さん特有の厳しい態度だったりするのかもしれないけれど。
男の眉が寄せられた。そして、手を上げて他の四人に命じた。
「予定変更だ。多少手荒になってもいい。ただし傷は負わせるな。先方との契約だからな」
男達は抜刀する。
「……おいおい、冗談だろ? 軍人五人一度に相手にしろってか?」
グレーゲルは硬く笑うと、抜刀した。
「私も援護位なら出来るわ」
グレーゲルの背中に囁いた。
「頼むぜ? 俺ぁ、あんたの旦那やセイレーンと違って人間だからな。あんな化け物達と同じ腕前を期待されたら困る」
「背中くらいは守ってあげるから安心して」
そう言って魔法を使える様に身構える。
「王妃、大人しく従えば命までは取らない」
「……ねえ? カンニスト大尉も言っていたけど、ビアニアの要人とやらが貴方達のこの挙兵を支援したという事なのですか?」
男は私を冷たく見ると、吐き捨てる。
「貴女は大人しくビアニアへの船に乗ればいい」
「王妃を売り買いしようってのか? なかなか面白いじゃねえか。一体幾らで売ったんだ?」
グレーゲルが硬く笑ったまま男に問いかけた。
「……貴様の様な低俗な男と一緒にするな。我々は大志の元に挙兵したのだ」
「貴方々の言う大志とは、陛下から私を遠ざける事で成せるのですか?」
男は私を睨みつける。
「陛下は海の民にとって理想の王であらせられる。しかし貴女が来てから陛下のなさる事は地の民の優遇政策ばかりだ。お前が誑かしたせいで陛下の御名誉が地に落ちてしまう!」
「陛下は海の民の幸福を願っておられると同時に、地の民への哀れみもお持ちです。海の民を冷遇する王でも地の民を優遇する王でもない。そんな器の小さなお方ではないの!」
軍服の男は激昂して私を怒鳴りつけた。
「お前の魂胆はわかっている! 陛下に媚び諂い、地の民に力を持たせ、利権を増やし、私腹を肥やそうと言うのだろう」
私はまたカッとなって怒鳴ってしまう。
「どうして貴方達叛逆軍の人はそんなに陛下を見縊っているのですか! そもそも陛下は私如きに誑かされる様なお人じゃない!」
「現に陛下はお前を寵愛し、御政務以外の時間は片時も離さず色に溺れておられる! 所詮は地の民の王女だ、どんな手練手管を持っていても不思議ではない!」
私は怒りで血の気が引くのを感じた。
でも実際、陛下は御政務が終われば私の元に一番にやって来て下さって、その後は確かに私をお召しになる事が多い。
そんな事を思いながら、もう一方、頭では冷静に考える。
どうして、この人達がそんな内殿の中の更に限られた人しか入れない場所の出来事を知ってるの?
そもそも王の間や王妃の間、それに妾妃様方の住まわれている妃の間は本当に限られた侍女達、それに重臣の皆さんにしか立ち入りを許可していない。
幾ら将校達とは言え、こんな王の私的な情報を知ってる筈がない。
もし陛下が御政務もせず、常時複数の女性と色に耽っておられるのであれば誰かがお諫めする様になるだろうしそうなれば噂が立つのもわかる。
でも陛下は御政務をこなして、今は王妃である私ばかりをお召しだ。私の侍女達が私の体を心配してお諫めされる事はあっても、色事に耽っているからという理由からじゃない。
噂話に上がる様な話題じゃないだろう。
私がそんな思考に囚われて黙っていると、軍服の男は私を嘲笑った。
「図星を指され生意気な口も聞けなくなったか。お前の様な女は陛下には相応しくない。大人しくビアニアへ行きお得意の手練手管で媚でも売っていろ」
「……陛下御自身が求めて下さる間は、私は誰の元にも参りません」
「ならば仕方ない。……さあ、王妃を捕らえろ」
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その意図を組んだ他の軍服を着た男達4人が私とグレーゲルに向かって、剣を振り上げた。
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