人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 ここはオレリアの件で拠点にした集落。
 朝一番で王都を出た、あまり多くはない人数の人達が、お店のテラス席で遅めの軽い朝食か、早めの昼食を摂っている。
 集落の入り口近くで入ろうか入るまいか悩む。
 思い切って入る事にした。
 ここにも軍人さん達がちらほらと居る。きっと伝令係とかそういう人達だろう。
 関はもう少し先にあるから、そこは封鎖されてる可能性が高い。
 でもマイヤール領の領軍の兵士に保護して貰えれば、きっと陛下に逢える。なんとか陛下に逢わなきゃ。
 外套のフードを被って髪色を隠す。
「よう、嫁さん」
 背後から声がかかる。
 その声の方を振り返ると、見覚えのある男が立っていた。
「グレーゲル!」
「なんか城は大変な事になってるみたいだな」
 グレーゲルはさも可笑しそうに私に笑って見せた。
「……貴方なら、街の情報を持ってるでしょう? 私をどこに連れて行けばお金になるの?」
 グレーゲルは芝居がかって肩を竦めた。
「なんだ、もう嫁さんは知ってるのか。あんたにかけられてる額は10万ルピルだ。まあ街のならず者連中にとっちゃいい小遣い稼ぎ位の額だな」
「……ねえ、グレーゲル? また私に雇われない?」
 グレーゲルは無精髭の口元を釣り上げてニヤリと笑う。
「ここで張ってて正解だったぜ。こりゃ金になると思ったんだ」
「……どういう事?」
「王城の茶色い髪と目の女って聞いて、あんただと確信した。だとすりゃあんたは単独だ。あの滅法強いセイレーンは旦那と領に帰ってるって軍人達が話してたからな。あんたの金払いの良さは知ってる。今回も10万なんて目じゃねえ額をまた稼がせてくれるだろうと思ってな」
「貴方、凄く勘がいいわよね。どうしてここだと思ったの?」
「依頼が出されたタイミングが夜だったんだ。て事はだ、依頼を出した奴らはかなり焦ってる。焦ってるって事はあんたが城から離れたのはそう時間が経ってる話じゃない。急に出て来て女一人の脚なら、ここで一旦情報を入れたくなるんじゃないかと思った。ここならこの先の関より人も少ないしな」
 グレーゲルは決してそこら辺のならず者と同じじゃない。こんな優秀な人材がグリムヒルトの陸軍を辞めてしまったのは損失だと思う。
「ねえ? 色々処遇を考えるから、また軍に戻らない?」
「そりゃお断りだ。宮仕えはどうにも性に合わん」
「そう、残念だわ。気が変わったらいつでも声をかけて? 今回は私をマイヤール領城まで護衛して欲しいの」
「あんた、旦那のとこに行く気か?」
「そうよ。アナバス様にどうしてもお伝えしないといけない事があるの」
「だったら、マイヤールに行っても仕方ないぜ? あんたの旦那は今マイヤールの領軍を率いて王城を囲んでるって話だ」
「そうなの?! ……ここで貴方に会えて本当によかった。入れ違いになる所だったわ」
 てっきり陛下はマイヤール領で指揮を執るものだとばかり思っていた。
「戻るだけなら簡単な仕事だな。で? 幾らだ?」
「そうね、以前と同じ額と、今回は前金を払えないからそれに色をつけさせて貰うけど、どう?」
「それでいい。やっぱ金払い良いな、あんた」
「支払いは花街1番街の『金風屋』って料理屋さんに行って。私に連絡を取るならそこが一番早いわ」
「なんだ、あの店あんたが絡んでたのかよ。えらい人気で予約無しじゃ入れないんだろ?」
「貴方なら顔パスで入れる様に言っておくわ、一応私あの店の出資者だから」
「そりゃありがてぇが、俺みたいな風体の奴が出入りして大丈夫なのかよ?」
「私達、別にお客さんを選んだりしてないわよ? そもそも海軍の軍人さん達が気軽に来られるお店にしましょうって作ったお店だもの」
 グレーゲルが大仰に顔を顰めて言った。
「なんだ、海軍の軍人が出入りするのかよ、あんま近づきたくねえな」
「……陸軍の時、嫌な目にあった?」
 ゲレーゲルはいつもとは違う、少し曖昧な笑い方をした。
「まあぼちぼちな。……さて、嫁さんはもう出発できるか?」
「ええ、大丈夫よ。行きましょう?」
「こりゃ割のいい仕事だぜ。大した距離でもないのに二ヶ月は遊んで暮らせる」
「……」
 こうは言ってるけれど、本当は彼がロカモア領の奥さんと息子さん、王都の花街で暮らす花売りの母親に仕送りしてるのは知ってる。前回の件で宰相様がグレーゲルの事は全て調べていたから。
 私達は王都への道を歩き出した。
「しかしあんた、あんな店作って儲けてどうする気だ? これ以上金あったって仕方なかろうに」
 私は溜息を吐いた。
「私、本当に儲けようと思ってお店を開いたのじゃないのよ。お店の従業員の人達、マグダラスにいた頃からの知り合いなのよ。彼女達の職を斡旋しただけなの。お店を開いてみたら思った以上に盛況でびっくりしてる位よ」
「へえ。煉瓦造りのこだわりの店だって評判だがな」
「ただ故郷をなぞらえただけよ。多分今までのマグダラス料理のお店ってマグダラスの人が関与してないんだと思うわ」
「まあ、マグダラスの女じゃ娼婦崩れが大半だろうしな」
「きっとマグダラスの女の人から料理を習った誰かがお店で出していたのが評判になったのね」
 グレーゲルと会話をしながら進んでいると、背後から声がかかる。

「……王妃陛下」

 振り返ると、軍服を着た男が五人いて私に敬礼していた。
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