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「状況は?」
結局マイヤールに着いて早々、蜻蛉返りになってしまう。
マイヤールにいた時点で、ギネゼ領に帰っていた軍師に領軍を出し、王城を海から囲む様伝令を出す。
儂は黒馬を駆りながら、先程王城からやって来て合流した二人目の伝令係に訊ねた。
「はっ! 詳細はまだわかりませんが、賊の数は多くはありません。王城に居られた、ハーヴィスト閣下、カーサライネン閣下も拘束されている模様です。どうやら賊は出入りの商人に紛れて王城に潜入し、挙兵。外殿のお茶会の会場である海遊庭園、ハーヴィスト閣下の執務室、カーサライネン閣下の執務室を押さえた様です」
茶会があった為、普段よりも出入りが激しく、警備に不備が出たのだろう。
勝手知ったる儂の王城だ。幾らでもやりようはあるが、問題はレイティアだ。宰相も法相も放っておいても問題ないだろうが、レイティアは相手の要求によってはきっと無茶をする。
「で? 賊は何か要求は寄越したか?」
「はい! 要求は王妃陛下のお茶会のお客人の一部が解放されました時に託けられました」
「内容は?」
「一つは均等税法の撤廃。一つは此度の4ヶ国同盟の参加拒否、一つは王妃陛下の排斥です」
「そうか。ご苦労だった。お前と馬は休め」
「賜りました!」
伝令係の馬は減速し、どんどん小さくなって闇に溶けて消えていった。
……武具を運ぶ者達を招き入れ、手数と武器を増やした上で、中の叛逆者と共に挙兵し、要点だけを押さえて儂に要求を飲ませようという事か。
馬に跨り手綱を引きながら、要求を反芻してみるが儂は違和感を覚える。
これだけ手間や金をかけて、奴らの要求は反逆ではなく、叛逆だ。
何故、レイティアの排斥なのだ? この要求だけが何か違和感を感じる。
地の民への優遇政策に不満を持つ者達を唆して、レイティアを排斥させるのが本当の狙いの様な気がしてならない。
賊は一枚岩ではないのか、それともどこぞの誰かが糸を引いているか……
と、なるとそのどこぞの誰かの本丸はどれだ?
なんにせよ完全に後手に回っているこの状況を打破せねばどこぞの誰かの思う壺だ。
複数の商会を作っているという事は、運び入れられた武器、特に鏃は一度の戦で使う量を均すと1万本程度、それに匹敵する数、もしくはそれ以上の数が王都に運び込まれた可能性が高い。
だとして、叛逆だった場合そんなに必要だろうか?
そもそも儂に要求を飲ませるだけなら弓など必要ない。
賊は王城全体を乗っ取れるほどには多くない。要点のみの制圧なのを見てもそれは間違いない。ならば立て篭もるには無理がある。
……弓は違う用途で使用される?
思考していると次の伝令係が先頭を走る儂とすれ違った。
三人目の伝令係は一旦馬を止め、踵を返した。儂はスピードを若干緩め、伝令係が儂の横に着くのを待った。
「陛下、申し上げます!」
「申せ」
「王妃陛下が、亡くなられたとの情報です!」
「……わかった。他に情報はあるか?」
「お茶会のお客人達は皆無事に解放されたという事です」
「そうか、以上か?」
「はい!」
「わかった。ご苦労だったな、休め」
「賜りました!」
伝令係の馬がまた、減速し、小さくなって闇に溶けた。
儂は馬に鞭を入れる。すると馬は嘶き少し脚を早めた。
儂は駆けながら気立よく微笑んだ別れ際のレイティアの顔を思い出す。
あれの思っている事は何故かわかる。あれは寂しがっていた。それでも笑うのはあれの強さだが、弱さの裏返しでもある。
あれは弱った時ほど笑う。
そういう女だ。
ただ。あれの顔を思い返しても悲しみや心配は湧いてこない。
恐らくレイティアは生きている。
その様な事を考えてる内に、王都の郊外にまで戻ってきた。まだ朝も明けきらぬ薄暗い空だ。
月夜でよかった。おかげでこれだけの早駆けをさせられた。
そして王城の海は満潮の時間で、王城の海側に充分の数の軍船をつける事が出来る。
マイヤール領の領軍と共にやって来たが、本隊が到着するのはまだまだかかるだろう。
儂は王都全体を見渡せる丘へと馬を歩ませる。
丘から見える王城はいつもよりも煌々と灯りが焚かれている。
そして、あちらでは宰相と法相が鍔迫り合いを演じている所だろう。
儂の仕事は簡単だ。王城を囲い込み、手駒を侵入させて、中の情報を得る。
中身にあの二人を置いた事は正解だった。
あれらはこういう事に血湧き肉躍るうつけ者だ。あれらが引っ掻き回し、戦況を混乱させてくれる事だろう。
イロラは他領がこれに乗じて何か起こさない様に、睨みを効かせる為マイヤール領に篭らせている。
儂の借りて来られたのは5000。囲う程度ならこの位で十分だろう。
王城を眺めていると、海の北から続々と軍船がやってくる。
そして王城の出航口を完全に囲い込んだ。
軍旗は錨をモチーフにした紋章。
軍師のギネゼ領の領軍の軍船だ。
「軍師の船が来た。伝令を送る」
伝令係の男が儂の馬の傍で膝を折る。
「蟻の子一匹通してはならん」
儂の勘が正しければ、レイティアは船に乗せられる。
結局マイヤールに着いて早々、蜻蛉返りになってしまう。
マイヤールにいた時点で、ギネゼ領に帰っていた軍師に領軍を出し、王城を海から囲む様伝令を出す。
儂は黒馬を駆りながら、先程王城からやって来て合流した二人目の伝令係に訊ねた。
「はっ! 詳細はまだわかりませんが、賊の数は多くはありません。王城に居られた、ハーヴィスト閣下、カーサライネン閣下も拘束されている模様です。どうやら賊は出入りの商人に紛れて王城に潜入し、挙兵。外殿のお茶会の会場である海遊庭園、ハーヴィスト閣下の執務室、カーサライネン閣下の執務室を押さえた様です」
茶会があった為、普段よりも出入りが激しく、警備に不備が出たのだろう。
勝手知ったる儂の王城だ。幾らでもやりようはあるが、問題はレイティアだ。宰相も法相も放っておいても問題ないだろうが、レイティアは相手の要求によってはきっと無茶をする。
「で? 賊は何か要求は寄越したか?」
「はい! 要求は王妃陛下のお茶会のお客人の一部が解放されました時に託けられました」
「内容は?」
「一つは均等税法の撤廃。一つは此度の4ヶ国同盟の参加拒否、一つは王妃陛下の排斥です」
「そうか。ご苦労だった。お前と馬は休め」
「賜りました!」
伝令係の馬は減速し、どんどん小さくなって闇に溶けて消えていった。
……武具を運ぶ者達を招き入れ、手数と武器を増やした上で、中の叛逆者と共に挙兵し、要点だけを押さえて儂に要求を飲ませようという事か。
馬に跨り手綱を引きながら、要求を反芻してみるが儂は違和感を覚える。
これだけ手間や金をかけて、奴らの要求は反逆ではなく、叛逆だ。
何故、レイティアの排斥なのだ? この要求だけが何か違和感を感じる。
地の民への優遇政策に不満を持つ者達を唆して、レイティアを排斥させるのが本当の狙いの様な気がしてならない。
賊は一枚岩ではないのか、それともどこぞの誰かが糸を引いているか……
と、なるとそのどこぞの誰かの本丸はどれだ?
なんにせよ完全に後手に回っているこの状況を打破せねばどこぞの誰かの思う壺だ。
複数の商会を作っているという事は、運び入れられた武器、特に鏃は一度の戦で使う量を均すと1万本程度、それに匹敵する数、もしくはそれ以上の数が王都に運び込まれた可能性が高い。
だとして、叛逆だった場合そんなに必要だろうか?
そもそも儂に要求を飲ませるだけなら弓など必要ない。
賊は王城全体を乗っ取れるほどには多くない。要点のみの制圧なのを見てもそれは間違いない。ならば立て篭もるには無理がある。
……弓は違う用途で使用される?
思考していると次の伝令係が先頭を走る儂とすれ違った。
三人目の伝令係は一旦馬を止め、踵を返した。儂はスピードを若干緩め、伝令係が儂の横に着くのを待った。
「陛下、申し上げます!」
「申せ」
「王妃陛下が、亡くなられたとの情報です!」
「……わかった。他に情報はあるか?」
「お茶会のお客人達は皆無事に解放されたという事です」
「そうか、以上か?」
「はい!」
「わかった。ご苦労だったな、休め」
「賜りました!」
伝令係の馬がまた、減速し、小さくなって闇に溶けた。
儂は馬に鞭を入れる。すると馬は嘶き少し脚を早めた。
儂は駆けながら気立よく微笑んだ別れ際のレイティアの顔を思い出す。
あれの思っている事は何故かわかる。あれは寂しがっていた。それでも笑うのはあれの強さだが、弱さの裏返しでもある。
あれは弱った時ほど笑う。
そういう女だ。
ただ。あれの顔を思い返しても悲しみや心配は湧いてこない。
恐らくレイティアは生きている。
その様な事を考えてる内に、王都の郊外にまで戻ってきた。まだ朝も明けきらぬ薄暗い空だ。
月夜でよかった。おかげでこれだけの早駆けをさせられた。
そして王城の海は満潮の時間で、王城の海側に充分の数の軍船をつける事が出来る。
マイヤール領の領軍と共にやって来たが、本隊が到着するのはまだまだかかるだろう。
儂は王都全体を見渡せる丘へと馬を歩ませる。
丘から見える王城はいつもよりも煌々と灯りが焚かれている。
そして、あちらでは宰相と法相が鍔迫り合いを演じている所だろう。
儂の仕事は簡単だ。王城を囲い込み、手駒を侵入させて、中の情報を得る。
中身にあの二人を置いた事は正解だった。
あれらはこういう事に血湧き肉躍るうつけ者だ。あれらが引っ掻き回し、戦況を混乱させてくれる事だろう。
イロラは他領がこれに乗じて何か起こさない様に、睨みを効かせる為マイヤール領に篭らせている。
儂の借りて来られたのは5000。囲う程度ならこの位で十分だろう。
王城を眺めていると、海の北から続々と軍船がやってくる。
そして王城の出航口を完全に囲い込んだ。
軍旗は錨をモチーフにした紋章。
軍師のギネゼ領の領軍の軍船だ。
「軍師の船が来た。伝令を送る」
伝令係の男が儂の馬の傍で膝を折る。
「蟻の子一匹通してはならん」
儂の勘が正しければ、レイティアは船に乗せられる。
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