人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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 シビディアの王太子殿下がグリムヒルトに御訪問されてから、話はとんとん拍子に進んで行った。
 でも実はマグダラスがこの同盟に加盟した事が私には意外だった。
 お父様は国の利益よりも国民の安寧を強く願ってる人だから、もしかしたらこの同盟は頓挫してしまうかもしれないと少しだけ心配していたけれど、それは杞憂だったみたいだ。
 シビディアが後ろ盾につくという条件はお父様を安心させたのかしら?
 色々な条件を交渉するのにグリムヒルト、シビディア、モトキス、マグダラスの外相達が頻繁に会談を行なっていて、特にウルリッカ様は本当に忙しそうだ。
 今は長い航海の必要な他大陸への外交はウルリッカ様の腹心の部下の方々が担っている。
 私はこの同盟については一切関与しないので要点だけお聞きしているだけだけど、ウルリッカ様はマグダラスのお父様やテオフィルとの会談の様子を語って聞かせてくれた。
 二人とも元気にしている様で、特にテオフィルはとても立派な王太子だと仰って下さった。
 お父様の補佐として一緒についている様で伝え聞く様子は私の知る、少し気弱なあの弟とは思えない位にシャンとしているらしくて誇らしかった。
 グリムヒルトの国内自体もこの同盟に伴い、地の民の待遇などの改善を行っている。
 原住の国家随一の大国であるシビディアへの体裁を整える為、改善を急ぐ様、陛下の勅命で領主達に通達しているけれど、元々ある偏見は硬直を産む。
 近頃は圧力をかける意味合いで、陛下自ら視察に出かける事も多くなった。
 私も大抵はその視察にご一緒しているけれど、今日は私はお留守番だ。

 陛下をお見送りする為、城門まで馬車に同乗する。
「明日の朝には戻る」
 陛下が私の髪を撫で、ジッと見つめてそう仰った。
 私は陛下を見上げてにこりと笑ってそれに答える。
「はい、陛下。今回はマイヤール領でしたね」
「ああ。あそこはイロラの領だからな。アレは儂の意図をよく理解している。他領の手前視察に行かぬ訳にいかんが形式だけで良い」
「イロラ少尉、マイヤール領主になってから目覚ましい活躍をされていますね」
「そうだな。期待以上の働きだ。マイヤールは各領への流通を担う要所だ。街道の整備やら通行税の減税やら、上手くやっておる」
「マイヤールはそれ以外にも牧畜が盛んでしたよね?」
「ああ。その牧畜にも力を入れておる様だ」
「私も是非ご一緒したかったですけれど、今回は私主催でのお茶会がありますのでお留守番します」
「ああ、次回は必ずついて来い。お前がおらねばつまらん」
 陛下は私の頬を大きな手のひらで包んだ。
 私はその手のひらに瞳を閉じて頬を擦り寄せる。
 陛下もそれに応える様に親指で私の頬を撫ぜた。そしてその指をそっと顎に移動させて引き上げる。
 瞳を開くと陛下のお顔がとても近くにあったから、私はまた瞳を閉じた。その閉じた瞼にキスが落とされて、頬に移り、そして唇に落とされた。
 ねっとりと陛下の舌が私の口腔内に入り込む。私も自然と陛下が侵入する事を赦してしまっていた。
 器用に這う陛下の舌に合わせる様に、私も陛下の口腔内に舌を向かわせて陛下のなさるままになる。
 長い時間、そうしてキスをしていたけれど、馬車の脚が止まった事で私達のキスも終わった。
「……、城門に着いた様です、陛下」
「その様だな。名残惜しいが、行って来る」
「……陛下、お早いお帰りをお待ちしておりますね」
 陛下は本当に名残惜しそうに私の手を握って甲に優しくキスをしてくれた。
 私もまた手を繋がれたままゆっくりと馬車を降り、陛下の指先が離れるのを寂しく感じながら地に足をつける。
 陛下は馬車の窓に顔を向け、私を見つめて下さった。
 私もその視線に応える様に微笑みかける。
 少し離れるというだけでも、既にこんなにも寂しい。だけど、やっぱり陛下には笑っている顔を覚えていてもらいたいから、私は精一杯微笑む。
 陛下も軽く手を上げて、私の笑顔に応えて下さった。
 陛下の乗った馬車が動き出す。
 私はそれに頭を下げてお見送りをする。それに倣った侍女達は私の後ろに控えて同じ様に頭を下げる。
 陛下の乗った馬車とその護衛の一団が見えなくなると、私は頭を上げて、皆に振り返った。
「さあ、陛下がお留守の間、しっかり王城をお守りしましょうね」
 皆が一斉に「御意」と返事をする。
 正直に言うと、これだけの規模のお城を自分が中心になって守るというのはとても緊張するけど、宰相様も、法相様もご一緒だし、きっと何とかなるだろう。
 早速踵を返して一緒に着いて来ていた馬車に乗り込んだ。
 私と同乗するのは、マリとレーナ。二人は今日の私の予定を教えてくれる。
「本日は王妃主催のお茶会です。今回はそれなりの規模になりますので、王妃付きの侍女ではない者達もたくさん関与する事になります」 
「そうね。皆も大変だろうけどよろしくお願いしますね」
 マリはいつもの柔和な笑顔を私に向けた。
「今回のレイティア様の御衣装もきっと陛下にお気に召して戴ける程お似合いですのに、陛下がご視察で残念です」
 そう言ったマリに嬉しいけれど少し複雑な思いで笑って見せた。
「ありがとう。でもいつも作ってもらってばかりでは悪いから、次からは以前着た物でやりくりしましょう?」
「まあ! ダメですよ、レイティア様! レイティア様はこの国の地の民の代表です。そして陛下から一身にご寵愛を受ける御正妃様なのですから、陛下の御威光を示す意味でもしっかりと着飾らなくてはいけません」
 レーナに強い口調でこう言われてしまうと、困ってしまう。
 最近、私付きの侍女の皆は私の侍女である事にとても誇りを持ってくれているみたいで意識が高い。
 元々、私に対して強かった忠誠心が最近では更に高まってる様に思う。
 心強い事だけど、少し心配な事もある。なので、マリとレーナに真剣な眼差しで伝える。
「私を思ってくれるのは嬉しいのですけれど、陛下の不利益になってはダメです。もし私が衣装を毎回作る事で不満に思われてしまったら、その怒りの矛先は陛下にも向かってしまいます。どんな事も程度というものがあります。それはわかっていて下さいね?」
 マリとレーナは私に頭を下げた。
「「畏まりました、王妃陛下」」
 二人はいつもの許している、『レイティア様』呼びではなく、『王妃』と言ってくれた。とても大切な事だと理解してくれた様だ。
 私は二人にいつもの笑顔を向けた。
「さあ、今回のお茶会は今までの中で一番大きなお茶会ですね、頑張って成功させなくてはね」

 そんな話をしている間に、馬車は私達の住まう、宮殿の門まで辿り着いた。
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