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迎賓の間に神獣様と王太子殿下が入室される。
「おはよう御座います。グリムヒルト国王陛下。王妃陛下」
王太子殿下はとても朗らかなお人柄が滲み出た、柔らかい笑顔を私達に向けられた。
昨夜お話しさせて頂いた時に思ったけれど、さすがは国民にあれだけ愛される方だと、本当に感心した。
立太子前からシビディア国内はもちろん、オルシロンやその間の小国郡を自分の脚で見て回って、今はゼルジア山脈の東側のこのグリムヒルトやモトキスの各地も巡っているらしい。
脚の速い幻獣がいるから可能なのだと笑っていたけれど、きっとその脚は、神獣様なのだろう。
神獣から認められ、愛され、その背に乗せてもらえる時点で王太子殿下が如何に穢れなく、正しい方なのかがわかる。
神獣は人の魂を測るという。なので私達原住の民は怒られる時に「神獣様に魂を測られて見捨てられるよ!」とよく言われる。
神獣に恥じない様にその魂を清らかに保つ事を幼い時からずっと教えられて育つ。
神獣に対する信仰は、宗教というよりも修道的で、教えがあるとするならば、道に悖る行為はしないでおきましょうという位だ。
そのお手本として巫女の家系の王家はある。
シビディアの王太子殿下は皆のお手本をとても立派に果たしておられる様に思えた。
私達は互いに挨拶を済ませ、神獣様と王太子殿下は対面の席に着席された。
陛下と私も着席する。私達の背後には宰相様とウルリッカ様が控えている。
陛下がその二人を紹介した。
「後ろに控えるのは我が国の宰相、アレクシス・テーム・ハーヴィスト」
宰相様が頭を下げる。
「こちらが外相のウルリッカ・リーサ・ユーセラだ」
ウルリッカ様も同じ様に頭を下げた。
「お二人方ともお噂は聞き及んでおります。大変優秀な軍人でもいらっしゃるとか」
宰相様はいつも私達に見せる顔とはまた違う、少し畏まった笑顔を王太子殿下に向けて謙遜された。
「我々の名が他国にまで渡っているとは存じませんでした。それとも王太子殿下がよくご存知なだけでしょうか?」
王太子殿下はまるで花の咲く様な笑顔で宰相様に答える。
「うちの軍師が他国の将にとても通じていまして、グリムヒルトの海軍の将は飛び抜けて優秀だと絶賛しておりました。皆が剣の腕前も確かで、更に海戦戦術において、個々での判断といざという時の連携はとても真似出来ないと申しておりました」
「いや、まだまだ我らは若手の域を出ませんので、研鑽の日々です」
ウルリッカ様も王太子殿下に話しかける。
「お初にお目にかかります、王太子殿下。そう仰るけれど、王太子殿下のお噂も聞き及んでおりますわ。武芸の達人であらせられるとか」
王太子殿下はウルリッカ様にも同じ様に花の咲く様に笑いかけた。
「いえ、達人というには烏滸がましい程度で、まだまだ修行の身です。教えを乞うている師匠がいますが、師匠には全然敵いません」
このお話しをしている時の王太子殿下はお声がどこか弾んでいる様な気がする。
「して? 本題に入るか。王太子殿は国交をお望みの様だが、構想があるのだろう? 聞かせてもらおうか」
「はい。実は今、モトキスの国王陛下に交渉中の案件があります。我が国シビディアとモトキス王国はゼルジア山脈を挟んで隣接しております。両国共同でゼルジア山脈にトンネルを掘って街道を作ろうという計画です」
「ほう? それはなかなか無茶な構想だな」
陛下はそう言いながらも、机に両肘を突いて、口許を隠す様に顔の前で手を組んで聞き入った。
「無茶は承知です。ですが、我が国、モトキス王国、そして貴国で力を合わせれば、必ず出来る筈。それに伴い、この三国間で国交を樹立したいと考えています。モトキス王からは、色良い返事を頂いています。ただ、幾つか条件が付けられていますけど……」
「その条件とは?」
「必ず、貴国の参加がある事。その際の仲裁国はマグダラス王国である事。マグダラス王国の後見には我が国がつく事」
私は驚く。まさかモトキス側からマグダラスを仲裁国に指名してくるなんて、想像もしてなかった。
「あ、あの!」
私はどうしても我慢出来なくて、差し出口を挟んでしまう。
「私がグリムヒルトに嫁いだ事、モトキス王はお怒りにはなっていないのですか?」
王太子殿下は私に優しく微笑みかける。
「お怒りではありませんよ。王妃陛下がグリムヒルトに嫁がれた事そのものは気にしてはおられませんけど、ただ此度のマグダラス王国との交渉には関与しないで頂く事は条件に入っております」
「そうですか……」
王太子殿下のその言葉でずっと気にかけていた肩の荷が少し降りた気がした。
王太子殿下は私を真っ直ぐに見て更に言葉を繋いだ。
「王妃陛下には故郷との行き来が出来るよう取り計らいたかったのですけど、モトキス王国の立場を鑑みればどうしてもその条件は飲まざるを得なくて……。申し訳ありません」
「いいえ。私が関わればマグダラス王国の仲裁に信頼性が無くなってしまいますものね。モトキス国王陛下のご温情に感謝致します」
私は王妃らしい笑顔で王太子殿下に答えた。
「おはよう御座います。グリムヒルト国王陛下。王妃陛下」
王太子殿下はとても朗らかなお人柄が滲み出た、柔らかい笑顔を私達に向けられた。
昨夜お話しさせて頂いた時に思ったけれど、さすがは国民にあれだけ愛される方だと、本当に感心した。
立太子前からシビディア国内はもちろん、オルシロンやその間の小国郡を自分の脚で見て回って、今はゼルジア山脈の東側のこのグリムヒルトやモトキスの各地も巡っているらしい。
脚の速い幻獣がいるから可能なのだと笑っていたけれど、きっとその脚は、神獣様なのだろう。
神獣から認められ、愛され、その背に乗せてもらえる時点で王太子殿下が如何に穢れなく、正しい方なのかがわかる。
神獣は人の魂を測るという。なので私達原住の民は怒られる時に「神獣様に魂を測られて見捨てられるよ!」とよく言われる。
神獣に恥じない様にその魂を清らかに保つ事を幼い時からずっと教えられて育つ。
神獣に対する信仰は、宗教というよりも修道的で、教えがあるとするならば、道に悖る行為はしないでおきましょうという位だ。
そのお手本として巫女の家系の王家はある。
シビディアの王太子殿下は皆のお手本をとても立派に果たしておられる様に思えた。
私達は互いに挨拶を済ませ、神獣様と王太子殿下は対面の席に着席された。
陛下と私も着席する。私達の背後には宰相様とウルリッカ様が控えている。
陛下がその二人を紹介した。
「後ろに控えるのは我が国の宰相、アレクシス・テーム・ハーヴィスト」
宰相様が頭を下げる。
「こちらが外相のウルリッカ・リーサ・ユーセラだ」
ウルリッカ様も同じ様に頭を下げた。
「お二人方ともお噂は聞き及んでおります。大変優秀な軍人でもいらっしゃるとか」
宰相様はいつも私達に見せる顔とはまた違う、少し畏まった笑顔を王太子殿下に向けて謙遜された。
「我々の名が他国にまで渡っているとは存じませんでした。それとも王太子殿下がよくご存知なだけでしょうか?」
王太子殿下はまるで花の咲く様な笑顔で宰相様に答える。
「うちの軍師が他国の将にとても通じていまして、グリムヒルトの海軍の将は飛び抜けて優秀だと絶賛しておりました。皆が剣の腕前も確かで、更に海戦戦術において、個々での判断といざという時の連携はとても真似出来ないと申しておりました」
「いや、まだまだ我らは若手の域を出ませんので、研鑽の日々です」
ウルリッカ様も王太子殿下に話しかける。
「お初にお目にかかります、王太子殿下。そう仰るけれど、王太子殿下のお噂も聞き及んでおりますわ。武芸の達人であらせられるとか」
王太子殿下はウルリッカ様にも同じ様に花の咲く様に笑いかけた。
「いえ、達人というには烏滸がましい程度で、まだまだ修行の身です。教えを乞うている師匠がいますが、師匠には全然敵いません」
このお話しをしている時の王太子殿下はお声がどこか弾んでいる様な気がする。
「して? 本題に入るか。王太子殿は国交をお望みの様だが、構想があるのだろう? 聞かせてもらおうか」
「はい。実は今、モトキスの国王陛下に交渉中の案件があります。我が国シビディアとモトキス王国はゼルジア山脈を挟んで隣接しております。両国共同でゼルジア山脈にトンネルを掘って街道を作ろうという計画です」
「ほう? それはなかなか無茶な構想だな」
陛下はそう言いながらも、机に両肘を突いて、口許を隠す様に顔の前で手を組んで聞き入った。
「無茶は承知です。ですが、我が国、モトキス王国、そして貴国で力を合わせれば、必ず出来る筈。それに伴い、この三国間で国交を樹立したいと考えています。モトキス王からは、色良い返事を頂いています。ただ、幾つか条件が付けられていますけど……」
「その条件とは?」
「必ず、貴国の参加がある事。その際の仲裁国はマグダラス王国である事。マグダラス王国の後見には我が国がつく事」
私は驚く。まさかモトキス側からマグダラスを仲裁国に指名してくるなんて、想像もしてなかった。
「あ、あの!」
私はどうしても我慢出来なくて、差し出口を挟んでしまう。
「私がグリムヒルトに嫁いだ事、モトキス王はお怒りにはなっていないのですか?」
王太子殿下は私に優しく微笑みかける。
「お怒りではありませんよ。王妃陛下がグリムヒルトに嫁がれた事そのものは気にしてはおられませんけど、ただ此度のマグダラス王国との交渉には関与しないで頂く事は条件に入っております」
「そうですか……」
王太子殿下のその言葉でずっと気にかけていた肩の荷が少し降りた気がした。
王太子殿下は私を真っ直ぐに見て更に言葉を繋いだ。
「王妃陛下には故郷との行き来が出来るよう取り計らいたかったのですけど、モトキス王国の立場を鑑みればどうしてもその条件は飲まざるを得なくて……。申し訳ありません」
「いいえ。私が関わればマグダラス王国の仲裁に信頼性が無くなってしまいますものね。モトキス国王陛下のご温情に感謝致します」
私は王妃らしい笑顔で王太子殿下に答えた。
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