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 私は次の日に早速邑までヘリュ様と出掛けた。
 そして染料になりそうな植物を邑の人達から聞き取って、王城に戻った。

 王妃の間で陛下に今日の事を報告する。

「それで?収穫はあったか?」
 陛下は私の背を優しく押して、長椅子にまで誘導する。
「はい! 邑の布は主に3種類の植物から色を出してる様で、邑のジローさんという染織職人さんに教えて貰いました。村では布を織ってから染めるのが主流の様です」
「糸を染められんのか?」
「染められると仰ってましたよ! 新しい色もどんどん造って行こうと話したら張り切って下さいました。糸は綿花しか取れないらしいのでやっぱり色の開発を進めるのがいいと思います」
 私は外套を脱ぎながら陛下に報告した。
「邑の方もそうだが、店は開店したのだろう?」
 脱いだ外套を1人掛けの椅子の背に掛けて、答えた。
「はい! 開店の日はとても大勢のお客さんで賑わったそうですよ! 今日も帰りに少し寄って様子を見て来ましたが姉さん達、てんやわんやでした」
 陛下は長椅子に腰掛けて足を組んだ。
「しかしそれだけ忙しくしているのであれば、機織りの指導を頼む訳にはいかんな」
「今は難しいと思います。もう少し余裕が出来たら他の人を雇い入れられると思うので、それまではお店に集中して貰おうと思います」
 陛下は肘掛けに肘をついて頬杖をついた。
「まだまだ人手が足りんな。今娼館にマグダラスの王都出身の機織りの出来る者を買い上げるようレイマに話してある。あまりおらん様だな」
 陛下の横に腰掛ける。陛下は私の肩を優しく抱いた。
「やっぱり王都なので、他の領よりは栄えていますから……。そんなに人が流出する事はないんです」
「ならば、やはりデボラ達を頼るしかないな。店は他の者にも任せられる様に人を育てろ」
「はい。出来る限り急ぎます」
 そう返事した所でノックが鳴った。
「はい?」
 扉の向こうからレーナが声をかける。
「王妃陛下、宰相様が火急の御用件との事です」
「わかりました。宰相様をお通しして下さい」
 扉が開けられて宰相様がドローイングルームに入って来る。
「陛下もこちらにおられましたか。丁度良かった」
 私は宰相様に首を少し傾げて質問する。
「私に火急の御用なんて……珍しいですね? どの様な御用向きでしょうか?」
「王妃はシビディアの王族とは親交は無いと仰っておられましたよね?」
「はい。私の知る限りではシビディアの王族の方とは一度も直接お会いした事はないですね」
「実は王妃宛に親書が届きました」
「私宛に? どなたからですか?」
「差し出し人はシビディアの王太子ディディエ・ジェスト・ファーヴェル殿下とあります」
 私は首を傾げた。
 シビディアの王太子殿下から、親書を頂く様な繋がりがあったかしら?
「……とにかく、開けてみましょう」
 宰相様から親書を受け取って、封蝋を捲った。
 
 手紙に書かれた内容を読んでいく。
 凄く幼い頃に一度、王太子殿下が船でマグダラスにいらした事があって、その際にお会いした事があるらしい。全然覚えてない……。
 その誼で陛下と私のご成婚の御祝いをさせて頂きたいので、一度その打ち合わせにグリムヒルトに改めて使者を送る事をお許し願いたい、とある。

 私はその旨を宰相様にお伝えする。
「ふむ……。シビディアの狙いはなんであろうな」
 陛下が呟いて、腕組みをして指先を口許にやって思索を始める。
 その呟きに応える様に宰相様も呟いた。
「……シビディアがうちと交渉の席につきたいと望んでいるなら願ったり叶ったりですけど……」
 私はそんな陛下と宰相様の方を見て笑う。
「まぁお二人とも、そんな事はお会いしてみないとわからないでしょ? とにかく使者の方をお招きして、お心遣いをお受けしましょ? きっとその時にあちらのお話ししたい事案も提示して下さいます。思案するのはそれをお聞きしてからでも遅くないのでは?」
 陛下も宰相様も目を丸くして私を見つめている。
 ややあって、二人は同じ間でくつくつと笑い始めた。
「さすがは王妃だな。実に明朗で良い」
 陛下は笑い、私の頭を撫でながらそう言った。
「確かに王妃の仰る通りです。お会いする前から案じていても仕方ないですね」
 宰相様も同じ様に笑い、私を見てそう言う。
「宰相様?この親書はどの様に届けられたのですか?」
 宰相様に訊ねる。
「シビディアから使者の方が訪ねられて、お預かりしました。王妃からのお返事を城下の宿でお待ちします、との事です」
「そうですか。ならすぐにお返事を書いて届けて頂かなくては。受け入れるとお返事しても良いですか?」
 陛下が私の頭を更に撫でて言う。
「王妃。お前は受け入れるのが良いと思うか?」
「シビディアの王族に関しては、マグダラスにいた頃にシビディアの船の船員さん達にお聞きしていましたけれど、皆が口々にとても仁道に篤い、素晴らしい一家なのだと自慢していたんです。それにシビディアの王家もマグダラスの王家と同じ巫女の血を引く一族なのです。しかも総ての神獣を祀る宗家の様なもので、決して神獣に恥じる様な行いはしないと思います。ですからお会いする価値はあると思うのです」
 私は陛下の方を真っ直ぐに見てそう答えた。
 実際シビディアの船員さん達はオルシロンの船員さん達よりもいつも表情も明るく快活で活き活きと働いていたし、私が話しかけても穏やかに答えてくれて、仲良くなれば快く仕事を手伝わせてくれた。
 民があれだけ明るい顔で働き、王家を信頼しているという事は国内も同じ様に穏やかに治ってるという事だ。
 そんな統治を行う王家がグリムヒルトに無理難題を吹っかけてくるとは私には思えなかった。
 陛下が私の髪を撫ぜながら私の言葉に答える。
「ふむ。王妃の言を信じてみるか。では王妃。使者殿に早速文を」
「仰せの通りに」
 私はそう答えて陛下に恭しく頭を下げた。
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