人質同然だったのに何故か普通の私が一目惚れされて溺愛されてしまいました

ツヅミツヅ

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「王妃陛下がお見えです」
「通せ」
 侍女が扉を開けるとレイティアは扉の前に立っていた。
「皆様お揃いでしたか。お邪魔をしてしまいましたか?」
 レイティアは楚々とした佇まいで部屋に入る。
「いいや、此度の法案についての報告を受けておった」
 儂は爪先で長椅子の儂の隣の座面を突きながら、レイティアに言った。
 レイティアはそれを受けて指した座面にゆっくりと浅く腰掛ける。
「此度の法案は反発も大きかったでしょう? 宰相様には大変なご負担をおかけしてしまいました」
「先程、陛下に褒めて頂けましたので働いた甲斐がありましたよ」
 宰相がいつもの軽口でレイティアに言った。
 レイティアはそれに柔かに微笑む。
「私からも邑の者達に代わってお礼を申し上げます。安寧に暮らせるかどうかはこの法案が通るか通らないかで大きく変わってしまいますから」
「ねえねえ、王妃? あたしも邑に行きたいわ。今度お供してもいい?」
 外相が背凭れに肘を乗せ、レイティアの背後から問いかける。
 レイティアはそれに振り返り、それにも柔かに返事をした。
「陛下のお許しがあれば」
「邑には儂が付き添う。儂が行けぬ時ならば良いぞ」
 外相は物珍しそうに儂を見て言った。
「あら、物臭の陛下がわざわざ行きたがるなんて珍しいわね。俄然興味が湧いたわ。王妃、約束よ?」
「ええ、ウルリッカ様に見ておいて頂けるのは心強いです。交渉事が必要な時に邑の現状を知っておいて下さればご相談し易いですし」
 レイティアの言葉を受けて外相は胸を張った。
「任せておいて。陛下? そういう訳だから出来るだけ早く譲ってね」
「善処する」
「しかし邑は洞窟の奥の開けた森にあるのでしょう?」
 法相がレイティアに訊ねる。
「そうなんです。しかも迷路みたいになってますからなかなか発見されなかったのだと思います」
「その様な場所に邑があっても不便でしょう? 場所替えをさせては如何でしょうか?」
 法相の提案にレイティアは首を横に振る。
「私もその様に提案したのですけれど、邑の人達はここで良いと言っておられました。森の恵みの豊かな場所なのですけど、それだけでは暮らしは豊かとは言えないので、何か良い方法はないかと思案しているのです」
 儂が口を挟む。
「何の為の保護法だと思っておる。お前の名で助成すれば良いであろう」
 レイティアは困り顔で儂に言った。
「しばらくの間はそれで良いと思うのですが、後々までこの制度を残すといつか利権になってしまいます。何処かで期限は切らなければ」
「ふむ……なるほど。……では件の機織りをさせてはどうだ?」
「? ……機織り、と言うとあの、マグダラスの?」
 儂はレイティアに首肯する。
「ああ。王都ラフィオから娼妓としてやって来た織物の技術のある娘達を中心に地の民を優先的に雇い入れ、国を上げて我が国独自の紋様を開発させて付加価値をつけさせようと思っていた。地の民の地位向上に一役買うだろうと思ってな。国としての事業にするので税制面でも優遇する予定だ。」
 皆、ポカンとした顔をしている。
「……流石は陛下です……。その様な事を考えて下さっていたのですね」
 レイティアは呆気に取られた顔のまま、儂を見つめた。
「寧ろ幻獣の羊毛を使うのではなく、糸の染色を我が国独自に開発するのも良かろう。技術を持つ者達ならば発想は万別であろうからな」
 レイティアは考え込む。
「……あの森には染色に向く植物があるかも知れません! 今度アンナお婆さんに訊ねてみます!」
 外相がレイティアを見下ろし言う。
「地域毎に付加価値を付ければ、売り込みも楽よ。その地域でしか出来ない色合いを出すの。それは交渉において強みになるわ」
「そうですね! 次に訊ねる時は染色に向いた植物を探してみます!」
 レイティアは嬉しそうに外相に言うと張り切った様子で外相を仰ぎ見る。
「じっくり採取するなら何日か泊まり込むわよね?」
「儂が付いて行く。問題ない」
 宰相が口を挟む。
「問題大有りですよ? 陛下。そう何日も城を空けられたんじゃ俺の身体が保ちません」
 軍師までが釘を刺す様に言い差す。
「それに今陛下が城を長く空けるのは不味いでしょう。法案の通過が確定しなければひっくり返そうと画策する者達も出る。陛下の御威光でしっかり重石をしておかなくては」
 儂はその言葉に渋面を作り、腕組みをした。
 外相が最上の笑顔を儂に向ける。
「そういう訳だから、陛下? お泊まりなら私がついて行くから安心してね?」
「……ならば泊まりは赦さん」
 レイティアが困った様子で儂の腕にそっと触れる。
「陛下? 夜には必ず帰る様にしますから、邑に行っても良いですか?」
 儂は目だけをレイティアに向けて言った。
「儂はお前が居らねば眠る事も出来ん。必ず帰れ」
 レイティアは儂に優しく微笑んだ。
「わかりました。ありがとうございます、陛下」
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